第50話 アンカー

「さて、どうした物か」


根本に繋がる情報を得る事は出来なかったが、どうやら哭死鳥の本拠地は聖王国にある様だった。

神の教えを貴ぶ神聖なお国に暗殺集団のホームがあるとは、何とも皮肉なものだ。


ニーア達への一件を考えるに、今この国から普通に人間として聖王国に入るのは無理臭い。


単純に国境を超えるだけなら空を飛んでいけばいいが、それだと何らかの理由で身分を求められると、不法入国というのが一発でバレてしまうだろう。

そうなれば間違いなくお尋ね者だ。


正直、国に追われながらの情報収集は面倒くさいので避けたい所。


出来れば、正当な手段で入国したいのだが……


「あいつに聞いてみるかぁ」


自分の中で唯一ある伝手つて

それはS級冒険者のあいつだ。

彼なら顔も広いだろう。


「けどなぁ」


奴がポーチ狙いなのは火を見るよりも明らかだった。

そんなライバルに借りを作るのは余り面白くない。


何とか上手く利用できない物だろうか?


「ま、取り敢えず帰るか」


卑しくも会心の策を捻り出そうとするが、何も思い浮かばなかった。

このささくれ立った心を、ニーアやベーアの巨乳を眺めて癒す事にする。

そうすれば何か名案が浮かぶかもしれない。


「カオス・テレポート」


魔法を発動させる。

この魔法を使えば空間を越えて移動する事が出来るが、残念ながら好き放題自由自在に飛べる訳ではなかった。

飛ぶセーブポイントを作って、遠くからそこに移動できる様にする仕様の魔法だ。

その為、一度も行った事の無い場所に飛ぶ事は出来ない。


まあそれでも十分すぎる程便利だけどな。


視界が一瞬ブラックアウトする。

光が戻ると、そこは勝手知ったる屋敷わがやだ。


「なんだこりゃ……」


目の前に広がる惨状に、思わず呟く。

広い庭には肉片が散らばり、そこかしこに血溜まりの様な物が出来ていた。


一体何をどうしたら、こんな凄惨な現場になるのだろうか?


「あ、お帰りなさいませ。カオス様」


掃除をしていたニーアが、血溜まりを避けながら小走りでやって来た。

彼女は俺に恩義を感じてか、様付で読んで来る。

別に呼び捨てで良いと言ってはいるのだが、恩義があるのでとそこは頑として譲らない。


個人的には呼び捨ての方がぐっと2人の距離が近づく気がするのだが、ひょっとして避けられてる?


いやまさかね。

そんな訳ないよな。


「エラい事になってるな」


「昨夜2度襲撃がありまして」


2度も襲撃されたのか?


にしても、どんな撃退をしたらこうなるのやら。

掃除を丸投げされているニーアが哀れでしょうがない。


「大丈夫だった?」


「はい。ベーア様が鬼の様な強さで撃退してくださったので。それと1度目は冒険者の方も手伝ってくださって」


「冒険者……」


なんか嫌な予感がするぞ。

まさかあいつじゃないだろうな?


「アレクという名の、S級冒険者の方です」


「ああ、彼か」


嫌な予感は当たる為にある。

つうか、何で俺の屋敷うち知ってんだよ?

まさかストーカーか?


「おお!やっと帰ってきおったか!」


楽しく乳を眺めていると、貧乳児童が此方へとやって来た。

お呼びじゃねーぞ、ガキンチョ。


「大丈夫だったか」


とは言え、声はちゃんとかけておく。

将を欲すればまず馬からという言葉がある。

ニーアはサラに忠誠を誓っているので、こいつに優しくしておけばいつかその内モミモミさせてくれるに違いない。


そう俺は確信している。


そう、俺は確信している。


2回で止めたのは、大して大事な事でもないいからだ。

我ながら謙虚。


「うむ、問題ないぞ!元気はつらつじゃ!」


そんなに元気なら、どっか遊びにいけばいいのに。

まあ昨日襲撃されてるのに、今日何事も無かった様に外に遊びに出かけたら、それは完全にキチガイだけどな。


「二人共無事でよかったよ」


たわわな膨らみが無事で良かった。

本当に。

これだけの天然物は早々いない。

彼女が万一命を落としていたら、それは世界レベルの大損失だったろう。


巨乳イズジャスティス!


「さっきから何処を見ておるんじゃ?」


「桃源郷だ。気にするな」


ニーアが若干苦笑いしているが、俺は気にしない。

一瞬一瞬を大事に生きたい派なのだ。

俺は。


「気にするわ!全く、昨日のイケメン冒険者とは天と地じゃのう」


顔面偏差値をド直球で放り込んで来られると、此方としては対処のしようがない。

これだからガキは嫌いなのだ。


少しは忖度そんたくしろ!


「あれは本当に良い男じゃった。危うく惚れる所じゃったぞ?」


サラは何故かちらちらと此方に視線を送って来る。

何の意思表示か知らんが、イケメンを追いかけたいならさっさと出て行くヨロシ。

ああでも、そうなったらニーア迄出て行ってしまうから不味いな。


何としても引き止めねば。


「そう言うな。俺だって捨てたもんじゃないぜ」


イケメンには絶対分類されないだけで、決して不細工ではないという自負はある。

俺の顔で我慢しとけ。


「ふむ、そうじゃのう。わらわの相手としてはちと不足じゃが、暫くはカオスで我慢してやろう」


不足って何がだ?

殴り合いの喧嘩なら、ちびっ子程度には負けんぞ?


偉そうに無い胸を張っているサラとの、脳内イメージバトルをシミュレートする。


100戦100勝だ。

完璧なこの俺に隙は無い。


圧倒的な実力差なのでいつでも脳天を叩き割ってやれるが、まあニーアさんのアンカーとして機能している内は、その生意気な態度も見逃しておいてやろう。

精々巨乳に感謝する事だ。


巨乳イズジャスティス!


「大変だと思いますから、俺も片づけ手伝いますよ」


「いえ、そんな。悪いです」


「気にしないでください」


庭が血まみれなのは正直気分が良くない。

今回は純粋に、さっさと片づけたいだけだった。


え?チラ見?


するよ。


もちろん。

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