第44話 お菓子(後)

「お、いたべ」


少し東に飛んだ所で目標おかしを発見。

私はその真上で翼を畳み、重力に任せて落下した。


「!?」


枝葉の隙間をすり抜け、冒険者と魔物との間に綺麗に着地する。

私の急な登場に、魔物と冒険者。

双方の動きが止まる。


魔物の数は5匹。

内二匹はワイルドベアー親戚だ。


「うせるべ」


「ぐおぉぉぉぉ!」


元同族のよしみで警告してやったが、聞きやしない。

体が小さいから弱いとでも判断したのか、ワイルドベアーは雄叫びを上げて私に襲い掛かって来た。


相手の強さも分からないとは……

この森のワイルドベアーは、弛んでるとしか思えない。

その元同族の間抜けな判断に私は小さく溜息を吐き、肩を竦めた。


「あぶない!」


背後から悲鳴に近い女の叫びが響く。

どうやら冒険者の女も、見た目だけで私の強さを判断している様だ。

良くその程度で、こんな場所で狩りをしようと思ったものだと呆れてしまう。


「間抜けばっかだべ」


「ぐぎぁ」


四つん這いで突進して来たベアの頭を片手で掴み、そのまま力を籠めて容易く握り潰してやった。

脆いものだ。


その際、生暖かい血飛沫が勢いよく飛び散り、私の顔や体を汚す。


サラ辺りは汚いとか言ってきそうだが、私自身はこうやって血を浴びるのは嫌いではなかった。

自分が強者であると実感できるからだ。


頭部を粉砕された魔物の巨体は大きく揺れ、どさりと音を立てて私の目の前で地面に崩れ落ちる。

その様を見て、背後の魔物達も実力差がハッキリと理解できただろう。

私はそいつらに再度警告を放つ。


「まだやるべか?」


と。


その言葉に、残りの4匹は文字通り尻尾を巻いて逃げていく。

全部倒して経験値にしても良かったのだが、私は一刻も早くお菓子を食べたい気分だった。

だから今回は見逃してやる。


「ひっ!?」


振り返ると女が悲鳴を上げる。

冒険者全員、私を見るその表情が恐怖で強張っていた。

まあ小さな子供がいきなり空から現れて、上位の魔物の頭部を握りつぶせばその反応も仕方ない事だろう。


「あ、ありがとう。助かったよ。所で、君は……」


冒険者の1人――リーダーらしき男が恐る恐る前に出て礼を言う。

私の事を聞いてきたが、興味がないので手を突き出して要求だけ伝えた。


「お菓子よこすべ」


「へ?お菓子?」


「助けてやったんだ。よこすべ」


「え?あ、ああ……そんなもので良ければ」


私に言われ、彼らは慌ててバックパックを漁りお菓子を取り出す。

それを素早くひったくり、私は上空に飛び上がった。


これさえ手に入れば、もはや彼らに用はない。

ひょっとしたら、森を出るまでにまた魔物に襲われてピンチになるかもしれないが、そこまで面倒を見る気はなかった。


精々頑張れ。


「ん~、美味いべぇ」


私は手に入れたお菓子を頬張りながら、鼻歌交じりに帰途に就くのだった。

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