第42話 世間話

「やれやれ、心配してるかな」


色々と処理をするのに随分と時間を喰ってしまった。

単純に哭死鳥のアジトを潰し、貴族の爺を始末するだけなら3日もあれば十分だったのだが、欲を出して色々とやったせいで1週間近く掛かってしまっている。


途中帰宅してもよかったんだが、それをしなかったのは、家に帰るとポーチが付いて来るとごねそうだったからだ。


正直、ガールフレンド候補である彼女に自分の黒い所をあんまり見せたくはなかった。

大丈夫だとは思うが、嫌われたら嫌だし。


「さて、上手い事潰し合ってくれるといいんだが」


フェニックス家には、哭死鳥が裏切った様に見せかけておいた。

この国屈指の名門で、他国への影響力も大きい一族だ。

党首が暗殺されたとなれば、面子の為に組織を潰そうと動き出す筈。


そうなればハイエルフの探索なんかは、二の次三の次になるだろう。

姿形を変えてるから、そもそも見つかる事自体ないとは思うがまあ念の為だ。


「あれ!?お父さんじゃないですか!?」


屋敷に帰る前にお土産でもと思い、他所の街で土産物を買い漁っていると男に声を掛けられた。

その顔を見て俺は顔を顰める。


――そこに居たのは要注意人物だったからだ。


「奇遇ですね、こんな所で会うなんて」


男――S級冒険者のアレクは、此方にフレンドリーに話しかけて来る。

可愛い女の子ならともかく、恋のライバルと楽しく談笑する気などないので気安く話しかけないで欲しい物だ。


「お久しぶりです。アレクさんはお仕事か何かで?」


とは言え、無視するのも大人げない。

当たり障りのないやり取りだけはやっておく。


あーめんど。


「この近くに実家があるんですよ」


「そうなんですか?」


どうでもいい情報をありがとう。

こんな所で俺なんかに時間をかけてる暇があるなら、その分を親孝行に当ててくれていいんだよ?


「実は今、謹慎処分中の様な物でして」


なんぞやらかしたのだろうか?

ていうか、冒険者に謹慎処分なんて物があったんだな。

初めて知ったわ。


「それで休暇がてら、偶には親孝行でもしようと実家に帰ってきている訳です」


アレクは照れ臭そうに頬を掻く。

俺はそのしぐさよりも、その腰に下げられている剣が気になった。

物騒なイメージを抱かせる赤黒いその剣は――


「ああ、やっぱりわかりますか」


俺の視線に気づいたのか、アレクは自慢げな表情で剣に手をやる。

その動きが様になっていてちょっと腹が立つ。

イケメンとか絶滅すればいいのに。


「流石カオスさんはお目が高い。出所は不明ですが、強力な力を持った魔剣です。やばいですよ、この武器は」


お目が高いも何も、それは俺が王都でうっぱらった屋敷の元だ。

こいつ、10億以上も出してこの剣を買ったのか?

馬鹿なのか、それともS級冒険者にもなると、10億ぐらポンと出せるようになるのだろうか?


どっちだ?


「相当高かったんじゃないですか?」


ちょっと値段が気になったので聞いてみた。

仕入れが10億なら、倍の20億ぐらいしていてもおかしくはない。


……いやまあ、流石にそこまではぼったくらないか。


「ええ、500ルビーもしましたよ。お陰で全財産はたいてしまって」


500ルビーか……え!500!?


50億だと!?

元の5倍じゃねーか!

いくら何でもぼったくり過ぎだろう!


「でも、この剣にはそれだけの価値があります」


しみじみと語ってるところ悪いが、その剣にそこまでの価値は絶対にない。

只のぼったくりだ。

だがまあ黙っておこう、本人は幸せそうだし。


「俺の見立てでは、ドラゴンにすら通じる武器ですよ。この剣は」


うん、無理。


少なくともこの前山で戦った奴には通じないだろう。

俺の出鱈目な腕力で振っても、鱗を切れるか怪しいレベルだ。

技量やスキルを考慮しても、こいつがそれ以上の破壊力を生み出せるとは到底思えない。


まああいつはレベル99だったから、ひょっとしたら他の奴には通用するのかもしれないが。


「それとこの剣。名は紅蓮というんですが、特殊な力――焔の刃で離れた敵を切りつける事も出来るんですよ!」


紅蓮ねぇ……

売るとき名前を聞かれて、そんなもんねぇって返したはずなんだが。

どうやら売るときに御大層な名が勝手に付けられた様だ。


遠距離攻撃に関しては、誰が使っても一定水準の威力が出る優れものだ。

そこは認めよう。

何せ売値10億の剣だしな。


しかし俺が使うには明らかにパワー不足だった。

そこらの石ころを拾ってぶん投げた方が、よっぽど威力が出る。


「凄いですね」


「ええ!これ程の武器と出会えたのは正に僥倖ぎょうこうと言えます!」


コレクション自慢が楽しいのか、アレクのテンションが無駄に上がって来てウザい。

そろそろ話を切り上げよう。


「それじゃ、俺は用事があるのでこれで」


「あ……」


まだ何か話したそうだったが俺はそれを無視し、手にしていた物の清算を済ましてさっさと店を後にする。


しかしたった一週間で40億の利益か……


なんか腹が立つので、買い取った店に少し嫌がらせでもしてやるとしよう。

阿漕な商売は身を亡ぼすという事を教えてやらんとな。

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