第38話 屋敷

俺は王都に屋敷を買った。

実家兼、匿うサラ達の生活用に。


サイズは100平米位の、大きな庭付き2戸建てのデカい奴だ。

資金はドラゴンから分捕ったお宝ではなく、今回はバンパイアが隠し持っていた赤黒い剣を売り払って金策している。


最初あの剣は自分で使うつもりだったのだが、残念な事に、カオス特有の強制弱点が武器には乗らなかったのだ。

結果、普通に殴るより糞弱かったので売り飛ばしている。


剣の売値は、大体マジックルビー100個分ぐらいだった。


この世界の通貨は銅貨が10円ぐらいになる。

価値は銅貨<大銅貨<銀貨<大銀貨<金貨<大金貨そして最後にマジックルビーとなり、硬貨が変化するたびに価値は10倍に上がって行く。


大体マジックルビーの価値は1つで1000万だ。


それが100個だと10億になる。

剣一本10億もするとか――しかも買取価格で――普通に考えれば狂ってるとしか思えないのだが、まあこの世界ではそれだけの価値があるという事なのだろう。


「おお、凄い屋敷なのじゃ!」


屋敷に案内すると、サラが声を上げてはしゃぐ。

良い反応だ。

10億近い買い物だったのだから、それ位景気良く反応してくれないと奮発した甲斐が無い。


「本当に……いいんですか?」


この屋敷にはニーア達に住んで貰う――彼女達には行く当てなどないからな。

勿論、俺やポーチ達もここを拠点に暮らすつもりだ。


「ああ。でもその代わり、君にはメイドとして働いてもらうよ」


制服も用意してある。

フリフリの白黒で――


胸元が超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超超!

強調されている素敵仕様だ。


ニーアさんにはさぞや似合う事だろう。


「何から何まで、ありがとうございます」


彼女が頭を下げると、セミロングの赤毛がサラリとその大きな胸にかかり、それだけで全てが報われた気分になる。


因みにエルフは金髪金目が基本だが、今の彼女は赤色の目と髪の色をしている。

勿論それは俺のスキルによるものだ。

サラも同じ仕様で、二人の耳も普通の人間と変わらない感じに変化させている。

彼女達を見て、エルフだと思う奴はいないだろう。


「この御恩には……必ずや……」


うんうん、報いてデートしてね。

ボインボインの彼女とのデートが楽しみで仕方がない。


しかし焦っては駄目だ。

現状でデートに誘っても、パイタッチにまでは至れまい。

時間をかけてゆっくり信頼を勝ち取るのだ。


「顔に出てるべ」


いかんいかん。

スケベ顔は減点要素が大きい。

気を付けなければ。


俺は忠告してくれたベーアの頭を、良い子良い子と撫でやる。

本当に撫でたいのはその豊満な胸だが、嫌われたらいやなので止めておいた。


「私も働くのじゃ!」


サラが元気よくそう告げる。


「そんな!姫様が働くなんて!!」


ニーアからすれば、崇拝対象たるサラが働くなどありえ合い事なのだろう。

悲鳴に近い声を上げる。


「サラ、気持ちだけ貰っておくよ」


子供を働かせる気はない。

児童何とかという奴だ。


じゃあベーアが冒険者としての活動を手伝うのはいいのかと思うかもしれないが、彼女は見た目自体は子供だが、その実100年以上生きている――以前は60年だと思っていたが、計算間違いだったそうだ。


つまりはロリババア。

所謂合法という奴だ


逆にポーチは見た目が大人でも、まだ2歳ぐらいだったりするしな。


ポーチといえば、彼女には一つ大きな問題があった。

それは――俺の事を親としか見ていない事だ。


彼女は強烈に俺を慕ってくれてはいるが、その感情はあくまでも親に対する親愛でしかない。

その信頼しきった綺麗な目で見つめられると、パイパイ揉ませてくれなどと口が裂けても言えそうになかった。


……世の中、儘ならない物だ。


「どうでもいいけど、この家デカすぎねっぺか?」


確かに、言われてみるとデカすぎるな。

ニーアさんに凄い所を見せたくて勢いで買ってしまったが、5人で住むには明らかに広すぎる。

少し失敗したか。


「まあ小さい建物の方は、物置にでもするか」


ドラゴンからかっぱらったお宝類は、全てベーアの謎スキル、ブラックホールで彼女の腹の中に納まっていた。

いつまでもそのままという訳にはいかないので、この際倉庫として片方の建物に放り込む事にする。


「物置だべか?じゃあ置いてくるべ」


ベーアがパタパタと羽根を羽搏かせ飛んでいく。

街中などでは基本徒歩だが、人目が無い所では彼女は遠慮なく空を飛ぶ。

これは別に飛行能力を隠したいのではなく、知らない人間にパンツを見られるのが嫌だからだそうだ――知り合いなら気にしない様だが。


訛りバリバリの暴力熊が、他人へのパンチラを気にする。

以前では考えられない可愛い一面だ。

これはおそらく、変異によって種族が変わった影響だろう。


「さて、俺はちょっと出かけて来るから。ポーチ。ニーアさん達と一緒に屋敷の片づけとかをしといてくれ」


「心得た」


まあ新築に近い状態で、しかも荷物は殆どない。

片付ける要素などはまるでないのだが、ちょっとこれから黒い事をしに行くので、ポーチにはここに残る理由を適当に与えておく。


じゃないと付いてきちゃうからね。


「じゃ、頼んだぞ」


そう言うと俺は屋敷を離れた。

さあ、大掃除の時間だ。

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