第37話 3人目(仮)

「そんな!?私達は命からがらここ迄来たんです!どうか!!」


ニーアが声を上げる。

それは悲鳴に近い絶望の叫びだった。


ここは死の森の東。

ファーエン聖王国との国境に建てられた関所兼砦だ。

森で助けた二人が亡命?するという事で、俺達は彼女達をここ迄送り届けてあげている。


――お礼におっぱいを触らせてくれるかとも思ったが、残念ながらそんな事は無かった。


物は試し、口にして請求してみようかという考えも浮かんだが、辞めておいた。

あの暗殺者から経緯を聞いてしまった以上、そんな軽口を叩く気にはなれなかったからだ。


流石の俺も空気は読める。

まあほんの僅かだが。


「悪いが、君達を受け入れる訳には行かない」


白く光る高そうな鎧を身に纏った男性――多分責任者で騎士――が申し訳なさそうに頭を下げた。

どうやら、彼女達の引き受けはやってくれない様だ。


「ここで追い返されたら私達は!!」


だが拒絶されても、ニーアさんは必死に騎士に縋る。

聖王国の庇護下に入れなければ、死の恐怖に怯える日々が待っているのだ。

必死なのも頷ける。


「私は駄目でも!せめて姫様だけでも!」


「何を言う!ニーア!お前を置いて私だけだなどと!」


二人のやり取りを見て、騎士は困った様な表情を此方に向ける。

こっちみんなよ。

おっさんに見つめられて喜ぶ趣味はない。


だがまあ、このままだと埒が明かなさそうだ。


「二人共、落ち着いて」


仕方がないので俺が声を掛ける。

恐らくどれだけニーアが縋ったとしても、結果は変わらないだろうし。


「ですが!!」


「まあまあ」


両手でまあまあ落ち着いて”のジェスチャーを行ない。

騎士に理由を聞いてみる。


「何か理由があるんですか?」


ファーエン聖王国は信仰厚い国だ――名前的に多分。

命の危機を訴える相手を無下に追い返すのには、何か理由があるのだろう。


「君達は知らないかもしれないが、実は……我が国とガリア王国とは少々揉めている状態でね」


ガリア王国というのは、俺達が冒険者として活動している国の名だ。


「下手にガリア王国からの難民を受け入れてしまうと、最悪戦争の火種になりかねないと?」


「ああ。エルフだろうとそれは例外じゃない。だから、悪いが諦めてくれ」


騎士は申し訳なさそうに、再度頭を下げた。

その紳士的な態度から、彼としてもエルフ達を突き放すのは心苦しいというのが伝わって来る。


とは言え、彼は国を守る騎士だ。

何よりもまず国の事を考えなければならない。

世の中どうしようもない事はある物だ。


しかしガリア王国とファーエン聖王国って仲が悪かったんだな、全く知らなかった。

まさか戦争になんないよね?

巻き込まれでもしたたら、正直面倒くさいのだが。


「分かった。無理を言ってすまなかった」


そう言うと、俺は二人の手を引いて国境から離れる。


「カオス様!私達は!」


ニーアが興奮気味に声を上げる。


「いーからいーから、ついて来てくれ」


そう言うと、俺は軽くウィンクして彼女を黙らせた。

これは記念すべき、転生後初ウィンクだ。


「さて、提案があるんだけども」


砦から少し離れた所で、俺は改めて二人に声を掛ける。

無理やり国境を越せさせる事は容易い。

飛んでいけばいいだけだからな。


だが、密入国では国の庇護は受けられないだろう。

それでは意味がない

ファーエン聖王国の住民が全員聖人君子ならともかく、流石にそれはないないだろう。

である以上、国の保護下に入れなければ向こうでも同じ目に遇う可能性は高い。


そこで――


「俺は他人の姿を変える魔法が使える」


ヴィジュアルチェンジという、まあ正確にはスキルだが。

見た目を丸々別人に変える程の効果はないが、このスキルを使えば髪や目の色。

それに耳のとんがりぐらいなら何とかなる。


要はエルフとバレなければいいのだ。


「そんな魔法が……」


魔法と偽ったのは、余りに特殊なスキルを使うと人間ではない事がばれる可能性が高いからだ。

通常、人間や亜人は他人の姿形を変えるスキルなんかは習得できないだろうし。


「それなら追手の目は誤魔化せるんじゃないか?」


「確かに……ですが本当にそんな事が……」


「ニーア!カオスを信じるのじゃ!こやつは天才じゃぞ!私は信じる!!」


疑わし気なニーアさんに対し、俺をヒーローとでも思っているのか、エルフの少女――サラ姫は俺を信じるとはっきりと口にする。

いい子だ。

その調子でガンガンニーアさんを説得してくれ。


「その通り。父上は偉大な存在だ。その強さはドラゴンすら容易く葬るぞ」


ポーチもサラ姫の言葉に同調する。

偉大というのは流石に盛り過ぎな気もするが、まあドラゴンを倒したのは事実だからいいだろう。


「……」


ベーアだけは白い目で俺を見ている。

どうやら俺の目的に気づいている様だ。

全く、無駄に勘のいいガキだぜ。


まあ見た目が幼いだけで、俺より年上ではあるがな。


「まあ物は試しだ。やってみて不安なら、その時は改めてファーエン聖王国へ入る方法を考えればいいんじゃないか?」


「そ……そうですね」


ニーアは俺の言葉に不承不承頷く。

どうも彼女は、今一俺の事を信用していない様だった。


気絶している間のパイタッチが、よもやバレているのだろうか?


まあ兎に角、現状ではファーエン王国に入る術は無い――違法な手を使えば別だが。

仮に彼女達が正式な手続きで入国しようとしても、サラの命を狙っている貴族がその動きを黙って見過ごすはずもないだろう。


打つ手がない事はニーアも理解しているので、彼女は頷くしかないのだ。


まあ今は仕方無しだろうが、信頼は後々獲得すればいい。

彼女には恩を売りまくる。

そうして恩義でがちがちに身動きできなくしてから――


ニーアをデートに誘う!


うん!

我ながら完璧な作戦だぜ!

3人目のガールフレンドゲット作戦、此処に発動だ!

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