第34話 女性の声

「父上、遠くから声が聞こえます」


「声?」


俺達は今、冒険者として黒の森と言われる場所で採集を行なっていた。

ぶっちゃけ、かなり地味な仕事だ。


だが登録したばかりのF級なので、討伐系の危険な仕事――討伐や護衛の様な花形の仕事は最低C級(個人評価)ないし、Dランク(パーティー評価)以上が必要――なんて物はなく。

ギルドが用意してくれる仕事は、小間使いや雑用の様な物しかなかった。


ぶっちゃけ。

異世界くんだりまで来て、バイトみたいな仕事などやってられないというのが本音だった。


そこで選んだのがギルド指定の採集である。


これは他の仕事と違い、素材の持ち込みにランクの制限はかけられていない。

その為、低ランクな冒険者でも高価な素材を持ち込めば高い評価を受ける事が出来、一気にランクアップが狙えるのだ。


穴だらけの判定最高!


「人の声です」


ポーチは人の声が聞こえると言うが、俺には全く聞こえない。

カオスになって聴力もかなり強化されてはいるのだが、獣系から変化したポーチには及ばないためだろう。

後、変身してるから能力差がってるってのもあるし。


「こんな所でか?」


俺は顔を顰める。

ここ黒の森は、上級の魔物が頻繁に出没する危険な場所だ。

冒険者でも早々足を踏み入れないたりはしない。

だからこそ高級な素材が採れる訳だが。


「たぶん人間同士でドンパチやってるべ」


「え?」


マジかよ?

上級の魔物が出る様な場所で人間同士争うとか、馬鹿なのだろうか?


まあ何か事情があって争ってるんだろうが。

さて、どうした物か……


チラリとポーチとベーアの方を見た。

変異して間もない彼女達は、大幅に弱体化している。

恐らく変異前の半分程度の力しかもっていない。


――変異すると、レベルがリセットされてしまうからだ。


まあリセットされてもスキルは引き継げる。

最上級はパッシブ系の能力が強烈だし、変異先である妖狐や竜人という種族が強種族であるため、レベルが下がっても半減程度で済んでいる感じだ。


今の彼女達の強さは――上級モンスターと1対1ならギリギリ勝てるが、複数相手だときつくなる。

そんなレベルだった。

まあ人間と比較してしてみた場合、かなりの強さと言っていい。


しかし、相手はこんな場所でドンパチを始める様な奴らだ。

相当な腕前に違いないだろう。

下手に近づくと2人に危害が及ぶかもしれない。


ここは君子危うきに近寄らずで行くべきか……


「因みに、女性の声とかは聞こえる?」


念の為。

そう、念の為聞いておく。

本当に念の為だよ?

男なら見捨てて、可愛い女の子がいそうなら助けてあげようとかは考えていないからね?


「複数の女性の声が聞こえますね」


「よし!行くぞ!」


ポーチの指し示す方向に向かって、俺は疾風の如く駆けた。

背後から、それを追って来る2人の気配が続く。


チラリと振り返って見ると、ベーアは明かに呆れ顔だった。


どうやら俺の考えを誤解をしている様だな、彼女は。

困ったものだ。

俺の目的は可愛い巨乳――ではなく、純粋な人助けである。


何せ今の俺は、勇敢な冒険者(Fランク)なのだから!

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