第33話 汚女子

「ただいま……っとぉ!?」


冒険者登録を終え宿屋に戻ってきた訳だが、室内の光景に俺は思わず目を見開いた。


取っている宿は、どちらかというと高級な方に分類される。

室内の調度品は高級――多分。だって目利きとか出来ないし――で、室内は当然綺麗に片付けられていた。


――そう、俺がここを出た時には。


だが帰ってきてびっくりだ。

部屋は見る影も無く散らかっていた。

そこら中に包み紙が転がっており、食べかすもぽろぽろ落ちている。


「かえったべかぁ」


大きなベッドに、だらしなく寝ころんでいたベア子が顔を上げる。

その口周りはべたべたに汚れており、寝ているベッドも喰いカスだらけだ。


「何やってんだお前?」


「暇だったから、ルームサービスってのを利用したべ」


成程成程。

この喰いカスとゴミは、ルームサービスの残骸という訳か。

まあそれなら仕方な――


くない!


「何でこんなに汚してんだ!?」


ベア子は冒険者として登録するには外見が幼い為、本人の希望もあって部屋に残していた。

その際に腹が減ったらルームサービスを利用していいとは言ったが、まさかこんな汚く食い散らかすとは。


「なーに、怒ってるべや」


ベア子が不思議そうに首を傾げる。

俺がなぜ怒っているのか、まるで理解していない様だ。

まあ、元が野生の熊まものだからしょうがなくはあるが。


「汚すと、追加で料金が掛かっちまうんだよ」


ベア子の寝転がっているベッドは、かなり高級に見える。

これだけ汚してしまうと、下手したらクリーニング代だけで宿代を軽く超えかねない。


「払えばいいでねか?」


「いやまあ、そうなんだけど……」


金なら確かにある。


ドラゴンからかっぱらったお宝には、かなりの値が付いたからな。

ちょっとした金の短剣一つで、1年は軽く豪遊できるぐらいの値が。

だからこそ、こんな高級な宿屋に止まれているのだ。


相当な無駄遣いをしたとしても、かなりの数の財宝を頂いているので基本的に金に困る事は無いだろう。

とは言え、これから休もうという部屋が汚れているのはやはり気分が良くない。

それにガールフレンドが汚女子というのもちょっと嫌だ。


「ベア子。いや、ベーア」


因みにベア子もベーアと改名して貰っている。

流石に女の子にベアはないもんな。


「強者という物は、自分の身の回りを清潔に保つものだ」


女の子らしさを求めた説教では全く通用しないと思い、適当な強者像を口にする。

多分ベーアはこの方が喰いつきはいい。


何せ彼女は色気より強気。

力こそパワー系女子だからだ。


「そうなんだべか?」


フィッシュアップ!

熊が釣れた!


「以前倒したヴァンパイアも。死の山で戦ったドラゴンも、その住処は丁寧に片付いていただろ?」


「確かに、片付いていたべなぁ」


「それもまた強者としての矜持という物だ。ベーアは強者なんだから、汚さないようにしないと。もしくは、汚れた場合はちゃんと片付けるかだな」


「そっかぁ。分かったべ」


「分かってくれて嬉しいよ」


所詮はオツムの弱い元熊だ。

ちょろいもんだぜ。


「んじゃあカオス。片付けたのむべ」


「なんでやねん!」


全然分かって無かった様だ。

思わず関西弁で突っ込みを入れてしまった。


「この中だとカオスが一番の強者だべ。だったら片付けるのは、カオスの役目だっぺ」


それどういう理屈?

いやでも俺の説明の仕方だとそうなるのか?


「はぁ……」


上手く言いくるめる案が出てこないので、仕方なくゴミを纏める。

何で俺がこんな事せにゃならんのだ。


「父上、手伝います」


ポーチが俺を手伝ってくれる。

彼女はいい子だ。

これで胸がもう少し大きければ完璧だったんだが……


俺はポーチの余り揺れない胸をチラ見しながら、部屋を片付けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る