第29話 ドラゴン
「え?魔王?」
少し距離は離れてはいるが、確かに男は魔王とつぶやいた。
俺は超耳が良い――カオスとしてのパッシブ能力――ので、聞き間違いではないだろう。
悪魔の血を求めてドラゴン退治に来たのに、まさか魔王と出くわす羽目になるとは思いもしなかった事だ。
魔王の姿を確認すべく、俺は辺りを見回す。
やばそうならとっとと退散するとしよう。
いっぱい人が倒れているので助けてやりたい所だが、ガールフレンド候補の二人が死ぬ様な事態だけは避けなければならないからな。
悪いが、最悪見捨てさせてもらう。
「あれ?誰もいないぞ?ポチ、ベア子。周囲に化け物とかいないか?」
姿や気配を隠しているのかとも思い、二人に尋ねる。
探索系の能力に関しては、2匹の方が俺より遥かに優秀だ。
「ワオ」
「ドラゴンと人間以外は何もいねっぺよ」
「あれ?おっかしいな。確かに魔王って言ってたけど」
「そもそも魔王ってなんだべ?」
基本的に魔族の王様の略称な訳だが。
この世界には魔物はいても、魔族なる種族はいないと言われている。
魔族の王でなければ何なのかと考えると……
「わからん!」
男らしく降参する。
適当な事言って、後で嘘だとバレたら余計に格好悪いし。
「わおん!」
「ん?何?」
ポチが興奮したかの様に尻尾を振り振りする。
珍しい反応だ。
「そこら中に転がってる肉食っていいか、っつってるべ」
「ダメダメダメダメ!何つう恐ろしい事を言うんだ。あれは絶対食べちゃダメだぞ!」
ポチが残念そうに
人間が御馳走に見える辺り、やはりポチも魔物なんだと痛感させられる。
「しっかしあの蜥蜴。どえらいっぺや。あれ喰らって平気なんてなぁ」
ベア子が感心して声を上げる。
振り返ると、ドラゴンが起き上って来るのが見えた。
さっきの攻撃は、魔法の2重詠唱だ。
1発目で弱点を付与し、2発目で強烈なのをぶちかましたというのに、ドラゴンのHPは1割も減っていない――相手のHPはスキルでチェックした。
こりゃ手間がかかりそうだ。
結構長い間転がっていたのは、どうやら突然の事に驚いて様子を見ていただけっぽいな。
「あんま効いてないなぁ……二人は下がっててくれ。危ないから俺だけでやるよ」
相手は最強種のレベル99だ。
それに対してこっちは61しかない。
いくら神様の考えた最強クラスでも、レベル的に考えて1対1で勝つのはまず無理だろう。
しかし此方には無限リポップという切り札がある。
ダメージ自体は通っている訳だし、防御を捨ててカオスライトニングを連射してればそのうち倒せるだろう。
「ワウ!」
「上手そうだから、ちゃんと肉残しとくべよ」
「善処するよ」
辺りには、逃げ惑う冒険者達がちょろちょろしている。
此処で戦うと彼らを巻き込んでしまいそうだ。
俺は背中のでっかい羽根を羽搏かせ、上空高く舞い上がった。
それを追ってドラゴンも飛翔する。
飛行速度は相手の方がかなり早い。
その為、あっという間に追いつかれてしまった。
「貴様……何者だ?」
ドラゴンのデカい口から野太い声がひり出された。
どうやら話す事が出来るらしい。
ベア子の様なユニークスキルか、もしくはドラゴン種固有のスキルによるものだろう。
「俺か?俺は……カオスだ」
本名を言おうかとも思ったが辞めておく。
このビジュアルには、少々似つかわしくないからな。
「カオスだと……」
「お前の持つ悪魔の血を頂きに来た。素直に渡すなら――っとぁ!」
竜の巨大な腕が薙がれ、俺を襲う。
それを俺は間一髪躱した。
どうやら素直に渡す気はない様だ。
「ふざけるな。我が財宝は誰にも渡さん」
そういやファンタジー物の定番だと、ドラゴンは無意味にお宝を収集する癖があるんだっけか?
この世界のドラゴンもどうやらそれに当てはまるらしい。
「
俺の手から生まれた白い稲妻が奴に迫る。
「ち、交わされたか」
一本は直撃したが、もう一本は掠っただけだ。
高威力で放っている分MPの消耗が激しい。
躱されるとそれだけMP効率が糞悪くなってしまう。
面倒くさいから、躱すのはマジ止めて欲しい。
「おのれぇぇぇぇぇ!!」
怒った奴の牙が迫る。
俺はそれをあえて真面に受けた。
何故なら、MPの残量がもう残り少なかったからだ。
使ったMPは死んで回復させるスタンス。
冷静に考えると本当にチートだと思う、リポップは。
「あだだだだ」
巨大なドラゴンの咬合力は凄まじく、俺のHPを瞬く間に奪い尽くす。
カオスとなった俺の耐久力は相当なものだが、それを一瞬で殺してしまうとは……流石lv99の最強種だ。
まあだがその方が此方としては助かる。
じわじわ削られたりする感じだと、結構不快指数が高くなってしまうからな。
「
リポップと同時に魔法を放つ。
今度は2発とも直撃し、ドラゴンは大きく吹き飛んだ。
HPを確認すると、残りは8割程になっている。
どうやら、カオスライトニングは1発だいたい5%程のダメージの様だ。
ドラゴンが態勢を立て直し、大きく口を開く。
その中が煌々と赤く煌めいた。
「ブレスか!」
咆哮と同時に紅蓮の炎が勢いよく吐き出され。
業火が容赦なく俺の体を焼き焦がす。
「あっつぁ!」
自分のHPを確認すると、半分になっていた。
範囲攻撃で俺から半分も持って行くドラゴンのポテンシャルは、やはり出鱈目である。
ポチ達を参加させなかったのは正解だった様だ。
「
俺はダメージを無視して奴に突っ込み、間合いを詰めて魔法を放つ。
余り距離がありすぎると回避されてしまうからだ。
至近距離から放った魔法は2発とも直撃したが、近づきすぎて奴の振るう爪で敢え無く俺は昇天する。
MPは大体4発で切れる。
よって問題なし。
リポップして再度魔法を放つ。
今度も2発とも直撃する。
「ぐおおおおおおぉぉぉぉぉ!!」
魔法を喰らったドラゴンが、苦し気に呻き声を上げた。
相手の残りHPは6割まで減っている。
この調子なら、後2-3デスもすれば倒せるだろう。
「ダブル――」
「ま、まて!」
ドラゴンが此方に掌を向け、待ったをかけて来た。
一体何だってんだ?
「わ、私の負けだ!財宝は全て貴様――いや、貴方様に献上する!どうか命だけは!」
はや!
降参はや!
まだ6割も残ってるのに降参するとか……まあドラゴンは追い詰められる事なんてまず無いだろうから、彼らからしたら残り6割でも大事に感じるのだろう。
しかし困った。
ポチ達には肉寄越せって言われてたけど……降参してる相手に手を掛けるもあれだしなぁ。
まあしょうがない。
彼女達には我慢して貰うとしよう。
「わかった。その代わりおかしな動きをしたら容赦しない」
「心得た」
そう言うとドラゴンは山頂へと降りていく。
俺もそれに続いた。
まあ何はともあれ、
俺のハーレム計画はついに
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