第26話 ヴァンパイア
城内の探索は順調だった。
地下に入ると、モンスターの種類がアンデッド系へとシフトする。
中には上級モンスターであるレッサーヴァンパイアも混ざって来るが、それでも此方の敵では無かった。
「カオスパーンチ!」
俺の拳がレッサーヴァンパイアの顔面を捉え、粉々に吹き飛ばす。
ヴァンパイア系は再生能力が半端ないため、顔面を吹き飛ばした程度では直ぐに再生してしまう。
完全に倒すには銀や聖属性の攻撃、もしくは炎などで燃やす必要があるのだが……俺の場合それは必要なかった。
ぐずぐずと音を立てて首を失った体が崩れ、灰となって消えていく。
俺の中にあるパッシブスキル、"光と闇が合わさって最強に見える”の効果だ。
乳神様の考えたあほっぽい名前のスキルだが、これがなかなかどうしてとんでもなく強力だったりする。
これは俺のすべての攻撃――魔法も含む――に光と闇の属性が付与されるスキルで。
同時に、攻撃を喰らった相手にその2属性への致命的弱点――但し俺の攻撃限定――を付与すると言う、とんでもない特性をも持ち合わせていた。
つまり俺の攻撃を一発でも喰らった相手は、次からは俺の攻撃全てが致命打と変わる訳だ。
その為、今のレッサーヴァンパイアは俺に弱点を突かれる形でダメージを受けて再生する間もなく灰になってしまっている。
「灰にしたら食べられないべ」
「良く分からんアンデッドを食うのやめとけ。後で飯やるから我慢しろ」
魔物の胃袋は強靭だ。
それに彼女達は俺を散々食い殺しているので、大丈夫だとは思う。
だがヴァンパイアは口にした事が無いからな。
万一こんな所でピーゴロゴロされても敵わんので、食事は遠慮してもらう。
「痴れ者どもよ。此処を我が根城としての狼藉か?」
城の探索を粗方終え、地下にある宝物庫の扉の前で俺たちはそいつと出くわした。
アンデッド最強の一角にして、夜の王。
ヴァンパイアだ。
ヴァンパイアは黒のタキシードにマントを羽織り、オールバックという井出立ちをしている。
こいつといい、レッサーといい、ヴァンパイアは端正な顔立ちがデフォらしい。
正直ちょっとムカつく。
俺はこんな化け物だってのに……まあ嫉妬しても仕方がない事ではあるが。
「命が惜しければ早々に立ち去れ。さもなければ死を持ってその罪を贖って貰う事になる」
ヴァンパイは鋭い眼光で俺達を睨みつけ、警告を発してくる。
そんなもん、勿論無視だ。
何せこっちは最上級職3体もいるのだ。
しかも今は昼の日中であり、奴は全力を出せない。
負ける要素は皆無だった。
地下室に日の光は入って来ないから関係ないと思うかもしれないが、例え光が差し込まなくともヴァンパイアの強さは時間帯で大きく変わる。
彼らは夜の王の名が示す通り、夜間になると能力が大幅に上がるスキルを持っているからだ――乳ペディアより。
つまり、日中は実質パワーダウンしているのと同義だった。
「ポチとベア子は下がっててくれ、こいつは俺が始末する」
負ける要素はない。
ないが、万一の事を考えて2匹には下がる様に指示する。
「貴様……死にたいのか?」
死にたくはないが、別に死んでも問題ない。
直ぐにリポップするだけだし。
俺は拳をぼきぼきと鳴らし、一歩前に出た。
するとヴァンパイアは一歩後ろに下がる。
もう一歩前に出ると、それに合わせて相手は更に下がって行く。
……あれ?
ひょっとしてこいつ、ビビってる?
表情も苦しげに歪み、明らかに怯えているのが伝わって来る。
どうやらさっきまでの態度は虚勢だったらしい。
まあ弱体化する日中に、今の俺みたいな化け物に襲われたらそりゃ焦るか。
その怯える表情を見ていると、少しかわいそうな気になって来た。
知能がないならともかく、会話が成り立つわけだし。
此処は平和的に会話で済ませてやるとしよう。
「俺達の目的は此処にある亜人の心だけだ。素直に全部渡すんなら、見逃してやってもいいぞ。それとも、最上級モンスター3体を相手に無駄死にしてみるか?」
ちょっと脅しっぽくなってしまうが、交渉とかそういうのは苦手なので、分りやすくドストレートに要求を伝える。
まあ命より欲やプライドを選んで断って来る様なら、その時は容赦なく叩き潰すとしよう。
可愛い巨乳ならともかく、男相手にそこまで忍耐強く説得する気は更々ないからな。
「わかった。くれてやろう」
ヴァンパイアから承諾の返事が返って来る。
凄く悔しそうだったが、消えるよりはマシと判断したのだろう。
ヴァンパイアは巨大な宝物庫の扉を片側だけ開けて中に入る。
5分ほど待つと、中から赤い宝玉の入った透明な箱を取って出て来た。
恐らく、これが変異用アイテムの亜人の心なのだろう。
「どうやら死にたいみたいだな」
だが、女神様は3個ここにあると言っていた。
つまりこいつは、一個だけで誤魔化そうとしている訳だ。
俺はそれを交渉決裂と見なし、奴の顔面に拳を叩き込む。
「ぐ、貴様!」
「ここに3つあるのは分かってる。渡す気がないなら交渉は終わりだ」
俺の拳がもう一度ヴァンパイアの顔面を捉えた。
奴は盛大に吹き飛び、分厚い宝物庫の扉と激突する。
――ドガンという派手な音と共に扉が吹き飛び、中の様子が顕わに。
「うお、凄いな」
中には大量の金銀財宝が煌めいていた。
どんだけため込んでんだよこいつ?
ていうか、こんなかび臭い城にこんなもんため込む意味があるのか疑問だ。
カラスがキラキラ光る物を集めるのと同じ様な感じだろうか?
「ぎざばぁ!」
不快な雑音が奴から放たれる。
俺の一撃を受けて顔が半分溶けだしている為、奴は真面に喋る事が出来ない様だ。
しかし、流石最上級モンスターだけはある。
レッサーは跡形も無く灰になったというのに、こいつは顔が半分無くなっただけで済んでいるんだからな。
「カオスライトニング!」
俺は魔法を生み出し、容赦なく止めの一撃を奴へと放つ。
これは乳神様が作ったカオス専用魔法魔法だ。
正直基本の威力はGサンダーとあまり変わらないのだが、こっちは籠める魔力を調整する事で細やかに威力を変動させる事が出来た。
その気になれば、空を飛ぶ蚊だけを打ち落とす様な芸当も出来る位繊細なコントロールが可能だ。
まあ今撃ったのは手加減無しの本気の一撃だがな。
俺の手から放たれた雷は、辺りに磁界を形成しながら真っすぐに奴へと突き刺さる。
瞬間白い雷光が視界を覆い尽くし、その破壊力の前にヴァンパイアは跡形も消し飛んだ。
跡には焼き爛れれた様な空間が残るのみ。
止めを刺すだけならフルパワーで打つ必要は無かったが、将来のガールフレンド候補である2体に俺の凄さを刻みつけてやろうと張り切って見た。
ベア子がのそのそとこっちにやって来る。
さては俺の雄姿に惚れたな。
亜人になったら、パイパイをポフポフしてやるから安心しなさい。
「やりすぎでねべか?」
「へ?」
「アイテム壊れてなげればいいっぺがな」
あ……
考えてなかった。
宝物庫内はカオスライトニングのせいでしっちゃかめっちゃかだ。
しかも亜人の心の1つはヴァンパイアが手にしていた。
あれ?
俺ひょっとしてやらかしちゃいました?
まあその後必死こいて探したら、残りの2つは無事だったので良しとしよう。
後、宝物庫に真っ赤なカッコいい剣があったのでついでにそれも貰っておいた。
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