第24話 男気

「随分と立派になったじゃない」


「いえ、そんな事は」


「謙遜しなくてもいいのよ?」


別に謙遜などしてはいない。

確かにムキムキにはなったが、乳神様の全てを圧倒するその巨乳はかいりょくに比べれば、俺のマッチョボディなど塵芥同然だ。


「それ、比較対象としておかしくない?」


「俺にとってはそれが全てです」


巨乳は全てに勝る。

それが俺の人生観だ。

ま、もう人間じゃないんだけどね。


「3つ子の魂100までっていうけど、あんたは死んだ後も絶好調ね。そのせいで死んだってのに」


「後悔はしていません」


死んだ時の事を思い出す。

残念ながら流行りのトラック転生ではない。

銀行強盗に撃たれたのが死因だ。


「女の子を守って犯人に撃たれる。行動だけは男前なのよねぇ」


乳神様が含みを持たせた言葉を口にする。

その言い方だと、俺の心根が駄目みたいに聞こえるのだが?


「その時、あんた何考えてたか言ってみなさい」


あの時の事を思い出す。

警官隊に建物を囲まれた犯人は、見せしめに一人の女性を撃ち殺そうとしたのだ。

それはとても美しい――多分。だって顔見てないし。でも犯人が美人のねぇちゃんって言ってた――胸の主張が偉い事になっていた女性だった。


俺は咄嗟にその女性を庇って死んだのだ。

あの時、俺はこう考えていた。


巨乳は世界の宝だ。

死なせるわけには行かない、と。


後、助けたらお礼に付き合ってくれるかもとか。

それがだめでも、助ける為に覆いかぶさったどさくさに胸が触れるかもとかも考えていたな。

少し欲望丸出しだった事は認めるが、まあ些細な事だ。


「行動だけは、ほんと賞賛できるんだけどねぇ」


お誉めに頂き光栄です。

代わりにこっちは乳神様の胸を賞賛したいと思います。


「ブラボー!」


俺は頭上で盛大に拍手する。

全力で拍手してはいるが、彼女の胸の偉大さを称えるにはまだまだ足りないぐらいだ。


「……」


乳神様の冷たい視線が突き刺さる。

まあでも俺は間違った事はしていない。

それだけは確信しているので、胸を張って爆乳を眺めた。


そういや、助けたあの子もこれぐらい大きかったなぁ。

今も元気に巨乳ライフを送っているのだろうか?


「巨乳ライフってあんた……まあその子は今……って、まあいいかその話は」


まあ確かに、聞いた所で視線でねぶれるわけでもなし。

どうでもいいっちゃ、確かにどうでもいい事ではある。


「……」


「所でお伺いしたいんですけど?」


「何かしら?」


「カオスって何です?」


今の俺はアンデッド系の最上級職、カオスなるものになっている。

これを選んだのは、クラスの説明欄におっぱいの大きな女性のアイコン描かれていたからだ。

思わずそのイエスと書かれた胸の部分にタッチしてしまったせいで、他を確認する事無く俺はこのクラスになってしまっている。


人の本質を揺るがす、恐るべきブービートラップだった。


まあその話は置いておいてだ。

俺の知る限り、カオスなるアンデッドは聞いた事もない。


ていうか血は流れるは、痛みは感じるわで、明らかにアンデッドでは無く生物感が凄いのだが?

これ本当にアンデッドか?


「ふふ、良い所に気づいたわね」


乳神様が自慢げに胸を揺らす。

その動きに俺は心奪われ、生まれてきた事に感謝する。

間違いなく、俺はこの光景を見る為に生まれて来たのだ。


そう確信する。


「あんた、どんだけつまらない理由で生まれてきてんのよ」


人の存在理由をつまらない呼ばわりとは、失敬な。

でも許す!

何故なら胸がおっきいから!


「はいはい。んじゃ話を戻すわよ」


戻す?

なんの話してたっけ?


「あんたってホントに……カオスの話よ。自分で聞いておいて忘れるんじゃないわよ」


乳神様が大きく溜息を吐く。

そう言えばそんな話をしてたっけか。

乳揺れげんそうてきなけしきに心奪われ、すっかり飛んでしまっていたぜ。


「で?カオスって何なんです?」


「ふふふ、気になるわよね?」


乳神様の胸に実る豊穣に比べれば些細な事ではあるが、まあ気にはなる。


「実は……じゃーん!それは私が考えたユニーククラスでした!」


「ユニーククラス?」


「そう!転生特典で私があんたの為に特別に用意した、隠しクラスみたいなもんよ!凄いでしょ!」


確かに凄い。

胸の揺れが。

キャッキャとはしゃぐ乳神様の胸が、ボインボインと揺れる。


絶景かな。

絶景かな。


――大事な事なので。


絶景かな。

絶景かな。


「それを俺に選ばせるために、あんな罠を設置したんですか?」


「ふふ、貴方なら絶対引っかかると思ったわよ」


やはり罠だったか。

まあクラスに関しては、実体のない奴以外ならどれでも良かったから別にいいといえばいいが。

最終的にインキュバス目指す身としては、所詮途中経過でしかないからな。


んー。

でもよくよく考えると、ポチ達に餌をやる為に貴重なポイントを裂いて痛覚鈍化を取得する羽目になってるんだよなぁ。

そう考えると、凄い損をさせられてる感じがする。


いや!感じではない!

そう!俺は明確に損させられている!

変なクラスにさせやがって、ポイント返せ!


駄目なら胸をもませてくっ――


「ほげぇ!」


頭部に稲妻が走り、目の前にお星さまがチカチカと瞬く。

どうやら雷を落とされてしまった様だ。


文字通り。

本当に。


「ありがとうございますは?」


乳神様の声が怖い。

本気で怒ってるっぽいので謝っておく事にする。


「すいません。隠しクラス有難うございます」


「分かれば宜しい!」


その後、私の考えた最強クラス事カオスの話を俺は延々聞かされる羽目になる。

どうやら乳神様は設定厨だった様だ。

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