第14話 中学校の思い出

 ◇◇二〇二五年十一月二十六日水曜日◇◇


 ――トゥルルル……トゥルルル……。


 メンテナンスが終了するまでの間、家で暇つぶしをしていた私のスマホに、1本の電話が入ってきた。

 発信者は、輝夜。こたつの上に置かれたスマホを手に取り、繋げてスピーカーをオンにする。


『もしもし? 明理? 聞こえてる?』

「聞こえてるよ。それより今日学校でしょ、どうしたの?」


 通話では相手の顔が見えない。状況も聞かない限りわからない。


『実はさ、今日は先生の一斉検診で休みでさ。ゲームもメンテ中でやることないしっ!! ってわけ』


 私より暇なんだ。やろうと思えば意外にある自分と入れ替えたら、想像するだけでだるくなる。


『だーかーらー、中学校の思い出を話したいな~、って、かけてみたんだよね~』


 それならと、私は急いで卒業アルバムを用意した。


 ーーーーーー春ーーーーーー


 ページの一番最初に載せられた、集合写真。3年の時の全体の人数は、328人の全8クラス。

 1クラスが41人で、男子が多くいつも騒がしい。その時、輝夜や沙耶華と一緒のクラスになった。

 以前も話した通り、三人で先生の代わりに、授業をしている。

 この時は、私の出番が少なかったため、少々落ち込んだ時期があった。


 ーーーーーー夏ーーーーーー


 楽しみにしていた修学旅行、この時は、奈良・京都での二泊3日。

 1日目は奈良で参拝し、抹茶ソフトを三人で、2日目は、茶道体験で宇治抹茶を。

 最終日は、三人で暖かい甘酒を飲んだが、明理が猫舌だったので、途中で断念。

 とても楽しい思い出で、まだ話したいことがあったが、一度お昼休憩を挟み、話題の整理をすることにした。

 今日は、兄の陸が1日講習でお弁当持ちだったので、一人で食事をする。

 私のお昼は、今朝、兄が詰めてくれた、手作りの〝日の丸弁当〟。

 趣味で陸が漬けた、赤茶色の梅干しが、ふっくらとした白いご飯の真ん中に乗っている。

 弁当箱の横には、ごま塩のスティック。自分好みの量をかけるということなのだろう。

 ごま塩のスティックを手に取り、封を開けようとするが、上手く切れない。

 なので、台所の引き出しから、ハサミを持ってきて、先の部分を切り取った。

 ご飯にふりかけると、勢いよく黒いごまと白い塩の結晶が、心地よい音とともに流れ出る。


(あ、ちょっと出しすぎたかな?)


 ごま塩とご飯の量の比率が、合わなかったようで、弁当箱は黒と白だけの模様になっていた。

 左手で箸を持ち口へ運ぶと、まず感じたのは、かけすぎたがゆえの塩の味。

 炒りごまも負けじと風味を出すが、うっすら香ばしいのを残して消えた。

 おかずはサラダと、焼いた白身魚。バランスの良いお弁当を作った兄に、感謝して食べていると、


 ――トゥルルル……トゥルルル……。


 再び、私のスマホが鳴って、バイブがこたつを揺らす。もちろん、発信者は三上 輝夜かぐや。食べ物を口に含みながら、応答する。


『もしもし? お昼ご飯食べ終わった? 私はもう食べたからかけたんだけど……』


 スピーカーにしたスマホから、聞こえる親友の声。私は口に入っているのを飲み込み、


「こっちはまだ食べてるよ。話をする分には問題ないけど……」


 そう言って、後ろに置いておいた卒業アルバムを取り出して、ページを開いた。


 ーーーーー夏の終わりーーーーー


 修学旅行のあと、学校では毎年恒例の、学年別で水泳大会が開催される。

 運動神経が悪い私は、その年だけ背泳ぎの学級代表として出場。

 周りから反対の声があったが、小学校から水泳教室に通っていたため、学年2位の成績を残した。

 もう通ってないが、今でも、バタフライまでできる……と思う。


 ーーーーーー秋ーーーーーー


 県内の中学校が大きなグランドに集まり、始まったのは中体連。

 私はサッカー、輝夜と沙耶華は陸上。それぞれ頑張ったが、表彰は無かった。

 代わりに、学校側から努力賞をもらい、クラスメイトと喜びを分かちあって閉会。


 ーーーーーー冬ーーーーーー


 二〇二五年は、大雪で関東地方も白い雪で覆われた。二月十一日から二十三日まで臨時休校。

 その間、私は家に籠り家族とパーティゲームで遊び、時々外に出て雪だるまも作った。

 学校が再開されると、男子は雪合戦で大盛り上がり。休み時間を減らす結果になってしまう。

 卒業式では涙する人が多く、私も泣いた1人だった。


 ーーーーーそしてーーーーー


 東京に出て高校に進学し、1ヶ月で退学したのが、私の思い出。過ぎたことは戻って来ないから、学校は諦めていた。


『それにしても、いろいろあったよね。私はこれから塾だから、また今度話そ』


 と輝夜が伝えて、電話が切れる。


「さーて、食べ終わったら何やろうかな~?」


 私は、卒業アルバムを本棚にしまって、残りのおかずを食べ始めた。

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インステニート 〜インフレ・ステータスじゃなくても規格外のニート少女で、ぶっきらぼうに話す私は、異世界からの転生者でした 八ッ坂千鶴 @digaru

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