第13話 仲間になったレイドボス

 左手には、レイドボスのドラゴンから受け取った、真紅の剣が輝いていた。

 集中力も回復し、高速移動で相手を翻弄。それを追うドラゴンも剣と同じ色の尻尾を振り回す。避けながら攻撃、攻撃して避ける。戦っているというよりは、遊んでるような感覚。

 剣を振り、激しく舞い踊る私と、そのリズムに合わせて避ける、ボス。もちろん、剣先が触れた時のダメージはしっかり入っていて、20分の間に、10本消滅。

 クリムゾン・ブレードの威力は絶大で、かすっただけなのに、HPゲージを1本消す。敵のHPゲージは残り8本。真紅の炎は勢いを増して、黒炎に変化。

 炎に焼かれ、ドラゴンのHPゲージが次々と消え、ラスト3本。1京という数字がまるで嘘のようで、レベル設定の雑さに違和感を覚える。

 黒く燃える剣は、とても重く集中してもバランスが悪い。だが、剣が重いからこそ舞いによる遠心力で、一撃を強くさせている。


 Congratulation

 クリアタイム 2時間38分54秒

 MVP:ルグア

 総ダメージ:98,745,000,………

 ギルドポイント:500,000,…


「なんじゃこりゃ? 0が…………12?  いや他の数字が5つあるから………」


 目を凝らし、知ってるところまで計算していると、


〖お見事。では、そなたにお礼を……、と思ったんじゃが、渡せるものがなくてな〗


 ドラゴンが、分身の威力に押され、負けるというのを考えてなかったようだ。


〖代わりに、我をそなたらの仲間に入らせてくれんか? ルグア殿のテイムモンスターとして……〗


 唐突な展開、プレイヤーが頑張ってテイムするのは、当たり前。

 対して、モンスターが希望するのは、知ってるゲームでも数えるくらいしかない。セレス達の方を見る。二人は首を小刻みで縦に振っている。


「わかった、仲間にしてやるよ」


 私は、初回ログイン時に貰えるテイムアイテムを使い、ドラゴンを捕獲する。名前はすでに決まっていた。


〈クリムゾン・ドラゴン〉


 略して、クリム。ドラゴンも気に入ったようで、テイム後のサイズでケージから飛び出す。姿はボスと同じで、大きさが小さくなっただけ。その裏で、破滅かいさんへの歯車が震え出した。


 ◇◇◇◇◇◇


 2時間にも及ぶ戦いに勝ち、報酬として、真紅の剣〈クリムゾン・ブレード〉とテイムした〈クリム〉。

 クリムには一度ケージの中に入ってもらい、ギルド拠点へ向かう。背中に武器を納刀できるようになっていたので、〈クリムゾン・ブレード〉は背中の鞘へ。

 私は長時間の戦闘で、疲労が溜まり鞘の剣で、ふらつくがセレスとガロンに支えられ、ゆっくり歩を進める。


「あら、おかえりなさい。相当お疲れのようね」


 ちょうど通りかかったレーナが、左手を頬に当てて呟いた。


「パーシー、ただいまです。今戻りました」

「レーナさん、ただ今戻りました」


 私の右肩を担ぐガロンが、挨拶をする。反対側のセレスも一礼。私は声を出そうとするが、意識が遠のく感覚に邪魔される。


「まぁ、可哀想なルグアさん。あと少しで着くから、ゆっくり休むことをおすすめするわ」


 そう言って、四人が拠点のゲートを潜った先の壁に


【祝・レイドボスLv1京クリア】


 と書かれた垂れ幕が掛けられ、部屋全体が装飾で溢れていた。


「「おめでとう!!」」


 ギルドメンバーが一斉にクラッカーを鳴らし、拍手をする。レイドイベントのギルドランキングは、2位との差が大きく暫定1位。

 アーサーラウンダーが0を9個分多かった。きっと他ギルドは、悔しいだろう。心の奥で罪悪感が生まれた。それはさておき、みんなに紹介しなければいけないものがある。

 私は、朦朧としながらもメニューを操作しケージを取り出す。扉を開けると、クリムが、


〖ここが、そなたのギルドかね。きらびやかでいいのう。我はクリム。名付け親はルグア殿じゃ〗


 宙を舞いながら自己紹介をする一匹のドラゴン。戦った人以外のメンバーは硬直。


「すみませんがモルド。そのエネミーは、レイドボスでは?」

「ああ、そうだが…………」


 最初に硬直から回復したのは、ベディだった。野太い声が、意識を回復させる。


〖ベディ殿ですな。ネームは確認できんのじゃが、称号はわかる。ベディ殿の言うボスで間違いない〗

「なんと!!」


 クリムは、多分AIが搭載されているからなのか、会話を成立させるのが上手い。でも、それにしては自然な言い回し。きっと、運営が一から組み上げる、ボトムアップ型だろう。

 だが、ギルド内は賛否別れた。すなわち、分裂。一方は、クリムを招いて活動。もう一方は、クリムを手放し殺すこと。この問題は、ルグアにも突き付けられた。

 もう一つの問題。ルグアを残し活動するのと、強制退会させる人だ。二つの問題は、全てが解決することはなかった。理由は、1京のボスを倒したことでの問い合わせ。

 メールでVWDL運営に確認をすると、”イベントポイントの集計に不正があるのでは”というもの。運営は、翌日から3日間の緊急メンテナンスを開始。

 問題を解決する糸口は、毛先も見せずに薄れ、事態は悪化していくだけ。そのことを知らない者は、アーサーと側近、親友の数人しかいなかった。

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