第12話 龍の剣

(走る走る、切り裂きはしる)


 赤い刃が弧を描き、流れるように螺旋らせんの尾を残す。現在、ボス戦の真っ最中。

 次々と繰り出される攻撃に、隙を狙う時間は、すでに無くなっていた。まずは、味方の回復。私は、加速を何度もしながら、短い操作で個数を確認。

 幸い、低ランクのポーションが500個あったので半分に分ける。ドラゴンが背中を向けるのを見計らって、セレスとガロンのいる巨体の真下にもぐり込む。


「二人とも、フィールドの端に移動後、これで回復してくれ」


 近くで急ブレーキをかけアイテムを送ると、素早く離れて剣を振るう。

 私のHPはまだ余裕があり、微量だが攻撃時の回復もしている。そのため、ニアミスによるダメージは仕方ないが、覚えた敵モーションで最小限に抑えている。

 なんとか1本目を削りきり、喜びの笑みを浮かべるが、敵とって絶好の的。攻撃を止めることなく、攻めてくる。私は、集中が途切れないよう、加速を続けた。


 ◇◇◇一方セレス達は……◇◇◇


「アーサーさん、モードレさんの言う通りに移動しましょう」


 わたしは、ポカンと口を開けるセレスに説得をしていた。わたしも、電車でも新幹線でもない、あの速さに目を疑いたくなるが、まずは身の安全。

 すると、再びルグアが向かってきて、一瞬身体が宙に浮く。目の前に、フィールドの壁がそびえ立ち、親友のルグアは、とんぼ返りでドラゴンに立ち向かう。

 どうやら、なかなか動かないわたしたちを、彼女が避難させたのだ。技術系しかできない人に、助けられるとは思ってなかった。


「ガロン。今のルグアさん…………いえ明理は、あそこまで運動神経、良かったでしたっけ?」


 セレスが、問いかける。思い出を振り返ると、跳び箱で突っかえた彼女の姿。マット運動も、方向音痴で頭をぶつけ。鉄棒は握力が足りず、尻もちをつく。要するに、運動神経が悪いということ。


「そうですよね。体育会系ではない、それなのに……」


 セレスは、速度を上げていくルグアを眺め、ポーションを使用する。


「あんな俊敏に動く明理さんは初めてです。ここにいるのは、三人と1体だけなので大丈夫ですよね?」


 わたしも、別人のように戦い続ける親友に、戸惑いと期待を呟いた。


 ◇◇◇最前線のルグア◇◇◇


(右、左、右、次は両脚プレス!!)


 攻撃モーションを頭の中で再生し、ギリギリのところで回避。すかさず、剣で切りつける。バトル開始から1時間。

 敵のHPは20本中5本が消えていた。ほとんどルグアが与えたダメージだ。

 だが、私にも限界がある。長時間集中していたため、赤いエフェクトは明滅。VRにも関わらず、呼吸が不安定な状態になっていた。自身のHPも半分を超えて、オレンジ色。

 リタイアも一つの手だが、一人ずつしかできないので、セレス達を危険に晒すことになる。そう、一人立ち止まり考えていると、


〖もう終わりか? つまらんやつだ。我はそなたとの戦いを気に入っておったのに、つまらん〗

「誰だ?」


 私は、大声で叫ぶ。どこからか、とても低く重い声。ドラゴンも、攻撃をやめている。


〖そなたらが言うドラゴン。と言えばわかるだろう。そこの少年、名は?〗


 セリフに合わせ、ボスが口を大きく開けた。


「私はルグア、あと女だ」

〖なんとなんと、おなごであったか、申し訳ない。そして、名はルグア。とても良い名だな〗


 ドラゴンは、頭を上下に振って頷き、1度真紅に光ると赤い剣が現れた。


〖その剣は、我と戦い、ここまで楽しませてくれたお礼の品。名前はそなたが好きにつけるといい〗


 言葉に従い剣を手に取ると、名前の入力欄が表示された。光と同じ真紅に輝く刃。エフェクトではなく、全てが紅に染まっている。


〈クリムゾン〉


 真っ先に思いついたのが、この言葉。それならと、さらに付け足す。


〈……ブレード〉


 確定。ひと振りの剣に名前がついた。


〖ほう、〈クリムゾンブレード〉とな。これでやっと、我が分身を旅立たせることができる〗

「やっとって、どういうことだ?」


 エネミーの言葉は疑問が多い。ドラゴンは、


〖過去にも、同じように、楽しませてくれた者がいたが、剣に触れた者はおらんかった〗

「ってことは。私が、最初の所持者ってことか?」

〖そうなるかの。おまけにもう一つくれてやろう。我に勝てたらだがな。その剣で、もっと楽しませてくれたまえ〗


 ここで、ドラゴンの声が途絶え、再び攻撃を始めた。私も身体が休まり剣に集中させる。剣は紅色の炎を纏い、触覚に熱を与え、身体が燃える。ダメージ判定はない、エフェクトの炎。

 私も真紅の剣クリムゾン・ブレードの柄を握りしめ、地面を力強く踏み込み加速した。

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