第11話 自分を見失ったルグアとギルドイベント 

 ◇◇◇VWDL噴水広場◇◇◇


 ――『まさか、こんな近くにいたなんてびっくりです。雰囲気のギャップが大きすぎます』


 現実での私、ゲーム内の私。沙耶華の発言に悩まされる自分。

 どうしてこんな差ができたのだろう。真っ先にログインしてフィールドに立つと、モヤモヤ感に襲われた。沙耶華の言葉だけはない。


 ――『雰囲気も、話し方も、男性そのものだったので、男相手で会話するところでした』


 これはセレス、輝夜の言葉だ。まさか、男とまで言われるとは思ってなかった。本当の私は一人しかいない。別の自分は"別人"だ。モヤモヤが晴れないのが、一番つらい。


「おまたせ、ルグアさん」


 噴水広場に、向かって走るセレスとガロン。それに、どう反応すればいいのかがわからない私。軽く首を縦に振り、噴水の水面に身を乗り出す。

 水面に映るのは、あごのラインがはっきりした、男性とも女性とも見て取れる、整った顔。これが、見た目で気づかない理由の一つだろう。

 初期スポーン地点には、鏡が置かれていた。近くまで行くと、スリムでスタイル抜群のアバター。胸は小さく、手足は細くて長い。

 こう見ると、本人も男性と見間違えてしまうくらいだ。噴水と鏡。2か所を行き来する私に、ガロンが、


「あの、さっきはあんなこと言って言ってごめんなさい。普段のモードレさんで大丈夫ですよ」


 それに続くように、セレスも


「ガロンの言う通りです。いつもの、かっこいいルグアさんでいいんですよ」


 と、付け足す。でも、やっぱり心は曇り空、晴れ間は一つも見当たらない。


「アーサーさん、バトルをすればなんとかなるはずです。少し前にギルイベも開始されたので……」

「そうですね。1位取るなら、やっぱりレベル5000兆でしょうか?」

「いえ、モードレさんがとても強いと聞いたので、1京でも問題ないです!!」


 勝手に、レベルが高くなっていく、もちろん難易度も上がっていく。


「でもガロン。1京はギルメンのみんなを集めて挑戦しても、一回もクリアしてないじゃないですか」


 そんなに強い敵なら、ほんとの自分が見つかるかもしれない。私は、


「1京の敵と戦ってみてもいいかな? もしかしたら、何かがわかると思う」


 どちらの自分なのかわからない言葉で、三人はギルドイベントのゲートに入った。


 ◇◇◇◇◇◇


 ――グルワァーウ!


 昨日ぶりに聞く、巨大なドラゴンの咆哮。一つ違うのは、咆哮にダメージ判定があることだった。


 ――グルル、グルワァーウ!!


 ニ回目の咆哮。これも計算の内。実は、作戦会議をしていた。


 ◇◇◇30分前◇◇◇


「モードレさん、このレベル、主にレベル5000兆から咆哮にダメージ判定があります」


 ガロンが右の人差し指をピンと立て、説明する。


「えーと……。5000兆が0が15個で……。1京の0は……」


 やはり、こうなる。数学の教科能力パラメータ最悪値の、計算できない病。0が並ぶ数字は、見てるだけでも聞くだけでも、頭がクラクラする。


「ルグアさん、1京は16個です」


 セレスのフォローで解決。話を進めた。


「その……。まず、ステータスを見てもいいかな?」


 ステータス確認は1番重要だ。確認しておけば、有利に戦うこともできるし、立て直しやすい。人は同時にステータスを開く。はじめにセレス。


 プレイヤー名:セレス(次回変更まであと3日)

 レベル:97861

 HP:187,6700

 攻撃力:986,400 防御力:976,000

 魔法攻撃力:862,050

 魔法防御力:628,700

 ユニークスキル

 咆哮ダメージ軽減


 次に、ガロン。


 プレイヤー名:ガロン(次回変更まであと3日)

 レベル:60270

 HP:787,600

 攻撃力:886,400

 防御力:573,200

 魔法攻撃力:962,300

 魔法防御力:673,500


 二人も、カナユイ同様、普通のステータスだった。最後は私。


 プレイヤー名:ルグア(次回変更まであと3日)

 レベル:5786100

 HP:987,600,000(ユニークスキル効果:+31500)【初期値:987,568,500】

 攻撃力:9,864,000

 防御力:973,500

 魔法攻撃力:862,040

 魔法防御力:628,140

 ユニークスキル

 HP強化LvMAX(最大Lv10000)

 EXPルーレット必ず大当たり確定


 気づかないうちに、私のステータスがエグい、つまり、異常なことになっていた。


「ルグア……さん。も、モンスター級……ですね……」

「……ほへぇ~、一昨日始めたばかりですよね? わたし達よりレベルが高いのは、ちょっと怖いです」


 そう言って二人は、少しずつ私から離れていく。これならと思い、配置を考えると……。


 ◇◇◇現在◇◇◇


「セレスとガロンは、ドラゴンの腹部から脚を攻撃してくれ!!」


 やっと調子を取り出した私に、


「モードレさんは、どうする……。もしかして?!」


 ガロンが悟った。


「私はタンカーで引き付ける」

「ですが、ルグアさんは長剣。盾剣のガロンの方が適任だと思います」


 セレスは、気づいていないようなので、


「HPの関係だ、数値が高い方が延長戦に強い」

「わたしも、その方が安心して戦えると思うのです!!」

「わかりました。それでいきましょう」


 簡単に説明。セレスとガロンは、走ってドラゴンの真下へ移動した。注目ヘイトが二人に貯まっていく。体勢を低く構えるドラゴン。火球のモーションだろう。口元に炎が集まってくる。

 腹部まで残り25メートル、発射まで残り約1分、狙いは前を走るパーティメンバー。私は、全力疾走で2人を追い抜き、強攻撃で挑発する。

 武器も、異常な強さを持っているので、そのまま火球を受け止める。被ダメ-200000。隙があれば間髪入れずに剣を振り、ダメージを受けながらも、防ぎ弾くを繰り返す。

 だが、ドラゴンに与えるダメージは雀の涙。昨日の敵より減るのが遅い。


「全損覚悟で攻めるか……」


 一人ドラゴンの前に立ち、ポツリとこぼした自分の声。その言葉は後方で待機する二人に届き、


「無茶はしないで欲しいです!!」


 ガロンが叫ぶ。だが、二人のHPは残りわずかで、いつ倒れてもおかしくない。そして、いまだに20本ある敵ゲージは、全て緑で満たされている。

 ここは、裏技バグを使うしかない。私は攻撃を受けながらも、意識を剣に集中させる。左に持つ剣は、赤いエフェクトを纏い、その状態で駆け出した。

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