第6話 真夜中の農作業

 ◇◇◇◇それから数分後◇◇◇◇


 兄が部屋に戻ると、二人はそれぞれのベッドでスタンバイして、ソフトをチェック、


「「ゲームログイン」」


 その一声で、仮想空間へ移動した。私は、2か月前、ファミリーファームの運営に、お世話になったことがある。

 それは、今からプレイする作品の開発に呼ばれたこと。農業に興味はない。けれども、新作ゲームが、VRで登場すると聞いて参加することになった。

 ただ、まさか審査へ通さずにサービスを開始するとは思ってなかったのだ。審査に出さないで開始すると、不正アクセスなどで改造されやすい。

 私は、そのことを噂で聞いて、ゲーム警察を始めた。まず最初にプレイしたのは、ハンティングアクションゲーム。

 据え置き型でテレビに接続して遊ぶものだった。ハンティングアクションなので、モンスターを狩るという内容。だが、このゲームはとにかく不具合バグが多かった。

 攻撃が当たっているのにダメージ判定がなかったり、強化素材を集めて鍛冶屋に行っても強化できなかったり。

 一番酷かったのは、集めて貯めておいたアイテムが、消費していないのに全損したこと。


 でも、このゲームのおかげなのか、今のゲーム内キャラが生まれたのかもしれない。狩猟系のゲームは、性格が荒れやすく、変化も激しい。

 それも、使用武器によって口調も変わる。ジャンル自体初見でのプレイだったが、私は他プレイヤーがやらないような組み合わせで戦うことが多く。

 この時は遠距離武器の重い銃を使い、至近距離で攻撃というスタイル。

 しかし、いざ共闘しようとすると、周りの人が「危険だ」と言い、手伝ってくれなかった。

 他プレイヤーはさておき運営に不具合の報告はしたが、いつになっても修正版アップデートが来なかったので、今はやってない。

 そうしている間に、分身のプレイアバターは、広い農場――まだ何も育ててないが――に、立っていた。

 集合場所は昼間に行った森林の前で、先に到着したのは私だった。


(試しにもう一度やってみるか……)


 私は心の奥でため息をつくと、手に持つ斧を振る。すると、斧は手の中から消え、あらぬ方向に飛んでいく。

 辺りを見回すと、目に入ったのは別の木に、不自然な形で突き刺さった斧。高いところにあったが、もともと木登りが得意だったので急いで回収。


「待たせてごめん」

「そんなん気にしてねぇよ」


 遅れてやってきたルクスは、走ったのだろう、膝に手をつき謝罪。こんな兄を横目にメニューを開きオープンビューに変更させる。

 ルクスも同じように操作して、私のより先にステータスが表示された。


 プレイヤー名:ルクス

 農業ランク:2

 木こり:5095 鉱夫:6000 

 釣り人:-300 設計士:4000

 農家:9000



 平均的な値がほとんどで、問題点は見当たらない。だが、続くようにステータスを開いた瞬間、周りの空気が氷点下まで下がった。


 なぜなら、私のステータスが全て-100000だったのだ。これには、色素が抜けるくらい青ざめてしまう。


「マジで言ってんの、これ? 何もできねぇじゃん」


 そう、あの時一回で切れたのは、意思の強さによる現象。実際は0パーセントに等しかったのだ。


「これは頑張るしかないね、ルグア。知ってると思うけど、明日、大学があるから落ちるよ」


 と言って、ルクスは姿を消した。


「やるしかない……か。そうだよな」


 一人残された私は、一言つぶやき作業を再開、斧をひたすら振り続ける。時刻は20時。集中力が途切れるまで同じ動きを繰り返す。


 1本目、ステータスに変化無し。

 2本目、同じく変化無し。


 4、8、32、64本目、変化無し。


 失敗と成功を何度も何度も。それから、約2時間後。685本目、ついに数字が動く。

 100000から98000へ。マイナスというのは変わらないがたったの2千だけでも嬉しい。

 最終的に切ったのは38960本。スキルポイントは、さらに5500増えて-92500。

 ステータスの増減を確認した私は、畑に向かう。ガイアが耕してくれた土は、とても柔らかくまるで布団の様だった。


『ルグアさん。こんな時間にインしていたんですね』


 後ろの方から、ガイアの声。今の時間は深夜11時。どうしてきたのだろうか? 


「なあ、ガイア。明日仕事なんじゃないか? そっちこそ、なぜこんな時間に」

「あ、それはですね。ちょっと草刈りをして、種を集めようかと…………」

「そうか、私も手伝う」

「ありがとうございます」


 伐採の次は除草作業。作業ゲームらしくなってきた。生い茂った草を根こそぎ引き抜き、整備を進める。

 しばらくして、二人で合計40個の種を入手し、ガイアはログアウト。私はまた、木を切りに行く。

 徹夜の作業を終え、増えたポイントに喜びたかったが、突然襲いかかる眠気に負けて、ログインしたまま眠りについた。

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