第7話 観覧車の奥のサーカス会場

 ◇◇二〇二三年十一月二十四日月曜日◇◇


『おーい、明理!! そろそろ起きないと、お昼持ってきたからさ』


 私は、部屋の外から聞こえてくる兄の声で、目を覚ます。

 ヘッドギアを身に着けたままで、視界は狭い状態。寝ぼけ眼で取り外し枕元に置くと、ふらつきながら玄関へ向かう。


「ふぁ~い、今行きまふ~」


 あくび混じりの自分の言葉。解錠してからこたつに戻り、壁掛け時計を見ると13時を指していた。

 部屋に入ってきた陸の手には、オムライスが2つ。ウエイトレスのような持ち方で、バランスよく片手に乗せていた。

 兄は、レストランに週3でアルバイト、主にホールスタッフの仕事をしている。……らしい。

 こたつに置かれたオムライスの卵は、ふわふわと柔らかく暖かい黄色。ご飯は、ケチャップがなかったのだろう、チャーハンになっていた。

 幸い、明理の冷蔵庫にケチャップがあったので、二人で使って食べ始める。


「明理、あれから何時までゲームしてた? 朝も起こしに行ったけど、反応がなかったから」

 

(心配してくれたんだ)


「気づいたら8時までやってた」

「約12時間、それやり過ぎだよ。俺でも1日4時間、長くて5時間なのに」


 確かに、兄が言っていることは間違っていない。


「けどね、木こりのポイントが、-92500まで増えたんだよ」


 妹という立場から生まれる、構ってほしい病。

 しかし、アピールは不発に終わり、握り拳で叩かれた。叩かれるのは、初めてではないので慣れているが、そういう問題ではない。


「そうだ、明理。今日からVWDLで、ソロ専用レイドランキングが開催されるんだけど……」


 突然の話題変更。VWDLは昨日の午前中に遊んだ。レベル1から12517に、異常な速度で上がったゲー厶である。

 イベント開催と知れば、入らないと損する……と思っているのは私の方だ。


「お兄ちゃんは、1位取ったことあるの?」

「ないね。大学とかでやる時間がないから」


 確かに兄は、講習会等で長時間プレイするところを見たことはない。

 というより、部屋が違うのでわかるはずがない。

 次に聞くのは、レイドバトルの会場について。彼が言うには、サーカス広場のステージにある個人用ワープゲートから入るとのこと。

 ある程度、情報が集まったので、急いで食べ、食器を洗って兄に返すと、最短距離で、挿入ソフトを入れ替える。

 そして、兄の前でVWDLにログインした。


 ◇◇◇◇◇◇


 久しぶりにログインしたVWDLの世界は、平日の昼間ということもあり、人気がまばらだった。


「サーカス会場は……」


 人々プレイヤーが歩く噴水広場を進み、目的地を探す。


『ねぇ……、カナ。あの人って、昨日始めたばかりのプレイヤーだよね?』

『あたしも、あのプレイヤー知ってる。確かLv1で、ハイクラスエネミーを一掃したって。実際に観戦したけど……鳥肌が立ったよ』


 カフェテラスから聞こえる、2人の女性の声。気になり、少しだけテラスに近づくと、


『あとユイ、あのプレイヤーの名前、ルグアだっけ? 最初は違う名前だったみたいだけど』


 カナが、先に話題を話し始めた、ユイという女性に語りかける。


『ルグアって。なんとか警察? っていうので有名な人だよね?』


 二人がやり取りをしている間に、テーブルの近くまで来てしまった。


(どうするか……)


 考え無しに移動していたので、その場から動くか悩むが、それより先に、


「「あの、ルグアさんですよね‼」」


 カナとユイの二人から声をかけられた。私は、絶対に嘘をつかないと決めているので。


「そうだが、お前たち。レベルはいくつだ?」


 必ずやっていること、その1。レベリングの必要な人を見つけ協力する。二人は顔を見合わせると、ホロウィンドウを操作してステータスを表示した。


 プレイヤー名:カナ(次回変更まであと4日)

 レベル:481

 HP:36900

 攻撃力:6000 防御力:9000(ユニークスキル効果:+5000【初期値:4000】)

 魔法攻撃力:8000

 魔法防御力:7250

 ユニークスキル

 杖装備時 魔攻上昇バフ付与

 防御力常時強化


 プレイヤー名:ユイ(次回変更まであと4日)

 レベル:127

 HP:10700

 攻撃力:5000 防御力:6000

 魔法攻撃力:3500

 魔法防御力:2400

 ユニークスキル

 絶対隠蔽LvMAX(最大1000万)


 まあ、普通のステータスだった。レベリングの必要性は、本人に任せることにする。


「えーと、カナとユイだったか……。サーカス会場を探しているんだが……」

「「喜んで!!」」


 目の前の二人が口を揃えた。


 ◇◇◇◇数分後◇◇◇◇


「ここです」


 ユイが指差し大きなテントを見つめる。ついた場所は観覧車の裏側で、広場よりも賑わっている。


「ありがとな」

「フレンド交換してもらってもいいですか?」

「自分もお願いします」


 そう言って、フレンド申請してきた。今後のことも考えて登録。いつかまた会うことを約束し、個人ダンジョンへ移動した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る