第3話 計算間違い
(ん? ちょっと待てよ……、1億でレベル1万超え?)
「ルグアさん、どうかしたんですか?」
モヤモヤが晴れない私に、ルクスが問いかける。
「いや、なんでもない。算数とか数学苦手だからさ。ただ、0の数を間違えたかもしれないんだ」
「それ、俺が計算しますよ。ちなみに、どんな式ですか?」
頼りになる少年・ルクスは、どこから出てきたのだろうか、電卓を表示。
「10万×1万、暗算ができないから、それもあるんだろうな」
学校でも、数学の時間は寝ている時が多かった。その度に先生に叱られ、周りから起こされ、廊下に立たされては、通る人からいじめられる。
そんな毎日は嫌いじゃなかった。校長から、強制退学を伝えられるまでは……。今は、学生でもなんでもない、ただのニート。
金もない仕事もない、一応、審査会社からの報酬は無くはないが、一人暮らし1か月分の額だけだ。理由は、ほとんど光熱費や通信料に消えていくからである。
「ルグアさん、計算終わりましたよ」
隣のルクスが私の肩をポンと叩く。笑顔でにっこりと画面操作し、少年は電卓をルグアの方に向けた。
「10万×1万=10億。10億です。これで安心ですね」
10億、よく見ると0が9つもある。一、十、百、千、万、ここまでくると次が出てこない。
「あの、ルグアさん、話が変わるのですが、気晴らしに、ダンジョンに行きませんか?」
「おう!!」
後ろを見ると、グランもついてきて、三人は観覧車の方へひたすら歩いた。観覧車の下には、小さな祠の穴。中は、薄暗く広い空洞。
2キロメートルほど歩くと、リザードが10体。レベルは4000で、自分が知っているものと違って舌が長く、まるでカメレオンのようだった。
後退し、尻もちをつくルクス。それを背中合わせで守る、私とグラン。
(ルクスのやつ、怖がりかよ……、レベルと実力が合ってねぇじゃないか)
「グランは雑魚を、私は親玉を倒す」
「了解です」
一斉に、踏み込み私は長剣で、グランは斧を勢いよく振り下ろす。リザードは次々と倒れ、大量のアイテムをドロップ。ストレージの中は一瞬にして埋まった。
課金するかと、ざっと10万円を投入。あっという間に、500が最大だったストレージは5000まで大きくなる。
「ルグア先輩、よくそんなに課金できますね」
「いつから、お前の先輩になったんだよ」
「つ、ついさっきです」
まだ、恐怖が抜けきれていないのか、ふらふらと揺れている。
「一旦休憩するか。私達以外、誰もいないよよな?」
「確かに俺達だけですね」
「んじゃ、リアルの自己紹介を……。まずはグラン」
私が指名すると、グランはコホンと咳き込み、
「櫻井奏といいます。職業は会社員。普段はガイアで遊んでます。次はルクスさんですね」
「じゃあ、俺は巣籠陸。22歳。大学生です」
「えっ!! 陸兄……」
まさかの出来事。巣籠陸は6歳年上の兄。栃木から東京へ上京してから、食事の時しか会っていない。
「お2人は、兄妹ということですか?」
「「はい」」
グランの問いに、同時に首を縦に振る私とルクス。
「じゃあ、ルグアの名前は……」
「……巣籠明理。陸の妹」
驚きのあまり、言葉が途切れてしまった。そんなこんなで、私とルクス、グランの3人は空洞をさらに進み、辺りはだんだん暗くなって、視界が悪くなる。
ルクスは凍えて私にくっついた状態で歩いていて、兄なのに妹の私が守るのは、間違っているんじゃないかと疑問に思ってしまう。
「あと少しで、広い部屋に着くと思う」
「え? どうしてわかるんですか?」
「ん? ただの勘」
私の勘は定評あり、と言っても普段ソロでプレイしているので、実際そうなのかは良くわからないが、的中率が高い。
もちろん今回も当たって、洞窟の外――実際には、洞窟内のホール――に出る。
「本当に開けましたね…………。でも、勘だけでここまで正確に……」
「私も仕組みはわかんねぇよ。多分風……、かな? 知らねぇけど……」
「風? ルグア先輩。ここ風は全く吹いていませんよ? それなのに風?」
薄々気づいてはいたが、仮想空間とはいえ、皮膚で感じられる程強くはない。けれども、微々たる空気の変化で大体予想ができてしまう。
やがて見えてきたのは、巨大なボス部屋。中には紫色の大蛇が、とぐろを巻いて待ち伏せる。
「みんな、ちょっとソロでやってもいいか?」
「別にいいですけど……。相手のレベルは……」
「レベルなんか関係ねぇって、私にとっては、ただの数字だけ書かれた飾りだ」
言いきってしまった。まあ、その通りなので、問題ないが……。私は剣を持ち直して、大蛇の周りを走って様子を伺う。
大蛇は長い胴で牽制しているが、気にせず攻め込み、切り付ける。走っているうちに速度も上がり、素早い動きで連続斬り。
大蛇も避けようとしているが、胴体が邪魔して、もろにダメージを受けている。その結果、40分程で討伐していた。
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