第2話 名前譲渡
握り拳で自分を鼓舞し、ログイン直後のレベル1。初期所持武器は上乗せ値6,000。
強化前なのに、意外と強い長剣を左手に装備し、地面を蹴り飛ばす。私の名前を使い有名に注目を集めても、HPが減少していくだけのバトル……。急いで向かうが、情報収集に集中しすぎてしまった。
レベル1が6万の敵に立ち向かうのは、無謀という一言で全て説明できてしまうため、少し緊張しているが気にしない。
「皆に言う、本物のルグアは私だ。このレベルの差で挑むのは初めてだが、今から証明してやる。まあ、見とけ!!」
無意識に口から飛び出した宣言。もう後戻りはできなくなった。
「いや………」
真後ろにいる少し背の高い少年は、震える声で注目を集めようとする。けれども、私の方へ期待に満ちた声援で彼の声は、ひよこが一匹ピヨピヨ鳴くのと同じだった。
(近くに行けば違ってくるだろうが、相手は至近距離攻撃をしないはず)
「魔法がメインなら、魔防が低い私には不利。となると、あの棍棒を……」
決めた作戦を声に出し、言い聞かせると、再び地面を蹴って、親玉ゴブリンのふところへ飛び込んだ。
回転しながら長剣を左下から斜め上にスライド。対して相手は、一定のリズムで避ける。被ダメ-14,000。
今度は、左右に揺れても一か所だけ移動していない、腹部に真っ直ぐ突き刺す。すると、相手は見事なターンで回避。被ダメ-13,000。
残りHP:8,000
ゲージバーが、緑から赤へ。赤というのはゲームオーバーの危険信号だ。
周囲からはブーイングが飛び交い、それによる怒りで、私に赤いオーバーエフェクトを生み出され、長剣にまとわりつく。
脚にも赤いエフェクト、地面は大きくひび割れた。
この状態でも、記憶は残るが後悔の思い出がほとんど。右上に表示されている、HPゲージの下には、攻撃力上昇バフアイコン。
『あの自分から"ルグア"って名乗った子。一体何が起こったんだ?』
『さ、さあ……。 こっちに聞かれてもわからないわよ』
コソコソと話す野次馬の声。
警告の赤は怒りの力で全回復していて、辺りが静まり返った。私は呼吸を整え、狙いを定める。相手はステップを刻み、後ろの別個体も左右に動く。
――シュンッ!!
高速移動の風切り音なのか、剣閃の切り裂き音なのか。コンマ1秒の出来事だった。
周囲から巻き起こる拍手喝采の嵐。ブーイングから歓声へ、不安から安堵へ、後ろの少年も手を叩いている。
「やはり、俺にこの名前は重すぎました。あんなことを言ってすみません」
敵が怖かったのか、震えたままポツリと、少年が本音をこぼした。
「別に、気にしてなんかねぇよ。ただ、有名になるには様々なゲームで経験を積み重ねるのが重要ってことだ。有名という言葉に飛び級制度はないんだよ」
間違ったことは言っていないが、このセリフが心に刺さり、大粒の涙をひっきりなし流して地面を濡らす。
Congratulation
MVPルクス:EXP+10万
ルグア:EXP+5万
視界に映し出されるクリアリワード。ありえない量の経験値に一瞬固まった。
〈EXPルーレットが自動で開始します〉
システムアナウンスが、脳内に直接再生される。
(このタイミングでルーレットが始まるのか……)
丸い円盤が現れると、時計回りに回転、しばらくしてから停止する。 針は一点を指していた。見える数字は、1万倍。計算すると、多分1億になる。
「チート以上だな、これは。レベリング必要ねぇじゃん」
ゲーム性全く無し、めちゃくちゃだ。人気の理由がさっぱりわからない。すると、
「実は、名前譲渡を一度も使ってないんです」
突然、後ろの少年に声をかけられた。
「名前譲渡? なんだそりゃ」
初めて聞くユニーク用語に、頭を傾げる。
「意味は、そのまんまです。名前を交換すると考えてください。今から送ります」
(勝手に進められるのは困るが、本来の名前が戻ってくるなら、いいよな)
〈以下の名前を交換します〉
〈マイネーム”ルクス” トレードネーム”ルグア”〉
〈承認しますか? Yes/No〉
音声とともに、ポップアップ。迷わず、Yesを選択するとHPゲージの左上にある文字が変わる。 そうしている間にレベルはみるみる上がり、ステータスを開くと……。
プレイヤー名:ルグア(次回変更まであと5日)
レベル:12517
HP:1,835,000
(ユニークスキル効果:+31,500)
【初期値:1,803,500】
攻撃力:80,200 防御力:62,700
魔法攻撃力:45,000 魔法防御力:26,000
ユニークスキル
HP強化LvMAX(最大Lv1万)
EXPルーレット大当たり確定
「おいおいおい、これありかよ!?」
1億という数字は、レベル1万を軽く超していた。
今はルクスでいいのだろう、「おめでとう」と言うと、次に送られてきたのは、フレンド申請。断るわけにはいかないと、追加した。
「これから、よろしくお願いします」
「よろしく……」
笑顔で話す少年ルクスと、やれやれとため息をつく少女ルグア。人々の群れは、いつの間にか消えており、遊園地の広場に立つのはその二人だけ……。
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