インステニート 〜インフレ・ステータスじゃなくても規格外のニート少女で、ぶっきらぼうに話す私は、異世界からの転生者でした

八ッ坂千鶴

転生者の記憶編

第一章 審査依頼

第1話 ゲームログイン

 ◇◇二〇二五年十一月二十三日日曜日◇◇


 ――巣籠すごもり明理様 いつもご協力をいただきありがとうございます。本日、不正配信・販売されたゲームが、一件確認されました。対応よろしくお願いします〉

 ――〈ゲームタイトル バーチャルワンダーランド〉


 私は、宅配便で送られてきたゲームのディスクと、手紙の文面を照らし合わせ、パソコン台に移動する。

 狭いアパートは全室1LDKの、玄関からキッチンが一望できる間取りで、パソコン台はダイニングに。そのすぐ横は、シングルベッドが占領している。

 結果、ダイニングテーブルはなく。その代わりとして、畳を敷いたリビングにコタツを置いている。もちろん座布団付き。


「ちょうど暇だったから、今日のゲームはこれにしよ!」


 パソコンを立ち上げて、ディスクを挿入。3ヶ月前に運営から貰ったVRゲーム機を被ってベッドへ移動する。


「ゲームログイン!!」


 音声入力で起動させて仮想空間に入る。最近は不正タイトルが多い。ここ最近素人でもゲームが作れるようになって、ほとんどが審査を通さずに運営・販売。

 これには審査会社も手が足りず、ひょんなことから、私も携わっていた。


 ――これからユーザー登録を行います。はじめにプレイヤー名を入力してください。


 目の前に表示されたのは、入力フォームと音声によるアナウンス。


「ここは、いつもので…………」


 〈ルグア〉


「確定!!」


 ――この名前はすでに使用されているため、登録ができません


「ありゃりゃ……。それじゃあ…………」


 たまにあることで頭を掻き回すと、一度回転を速くさせて、再び名前を考え、ホロキーボードを叩く。


 〈ルクス〉


 ――登録を完了しました。


「パッと見男の子みたいだけど、ゲーム内の私の性格があれだから、問題ないよね」


 ――次に、性別を次の中から1つ選択してください。《男性/女性/その他》


 ここは迷わず女性を選択。


 ――登録が終了しました。これからフィールドに転送します。ユニークスキルが自動で設定されますので、詳細はプレイヤー画面を確認してください。


 アナウンスと一緒に、丸に縦線という意味不明な映像が流れた。多分、メニュー画面を開くためのモーションなのだろう。念の為、覚えておく。

 転送空間を移動し、少しすると空間が明るくなる。目の前には予想していたアミューズメント施設らしき、メリーゴーランドや観覧車。

 試しに、さっき覚えたモーションを行い、ステータスを確認。


 プレイヤー名:ルクス(次回変更まであと5日)

 レベル:1 性別:女性

 HP:35,000

(ユニークスキル効果:+31,500)【初期値:3,500】

 攻撃力:5,000 防御力:3,500

 魔法攻撃力:2,000 魔法防御力:1,500

 ユニークスキル

 HP強化LvMAX(最大Lv10000)

 EXPルーレット必ず大当たり確定


 以上が、ステータス画面に表示された内容だった。あまり見慣れない名前のユニークスキル。

『二刀流』とか『神聖剣』とかざっくりした名前をよく耳にするが、ここまで詳しく設定されるのは、あまりない。

 ユニークスキルは、別名固有スキル。その人だけが持つ特別なスキルのこと。

 フィールドを少し歩き、見えてきたのはやけに騒がしい人達。最後列で高く跳ぶと、見覚えのある名前のプレイヤーが、複数のモンスターと戦っていた。

 人々の群れの中でもまれ、前へ行くたび津波のように押し返される。

 頭上で明滅するプレイヤー名のとなりには、おなじみのレベル機能。1から7千近くの者もいるので、このゲームの自由度が幅広い。

 両手で掻き分けながら歩を進めると、そこに現れたのは、一度入力して失敗した〈ルグア〉の文字。


「あいつが、私の名前を……、意外と有名だからなぁ~」


 目の前に立つその人物は、リアルの私の顔によく似ているが、一旦置いといて、レベルを見ると、1万という桁違いの数字だった。

 武器を手にしていて、すぐ近くにゴブリンが鼻息荒く棍棒を振り回す。


「敵のレベルは、3万? こっちもレベルが自由かよ。他には5千……6万!? ってことは6万のが親玉だな」


 人間観察ならぬエネミー観察。やっぱり最初は情報収集。野次馬からのスポットライトは、独り言のように喋る、私へ向けられる。


(こりゃ、まずいな。親玉との差は4万9000。ランダムのチート級ユニークスキルで、有利なやつがあったとしても、他のを相手している間に……)


 様々なジャンルのゲームをしてきたが、この状況は危険。でも……。


「もしや、君はあの6万のゴブリンを、倒せると思っているのかい?」

「なぜ、そう感じたんだよ|」


 視線を変えずに質問を返す。一度横目に男性を見ると、私の方を見つめていた。


「別のゲームで、お会いしたことがあると思います。パーティも組んだじゃないですか」


 パーティというのは、最大五人チームのことで、ゲームによって人数が違う。もっと人数が多くなるとギルドになる。

 見間違えだろうと、無言で対峙しているプレイヤーとエネミーの観察を行う。それでも言葉は続き、


「ガイアですよ、今はグランでやっていますが。あなたは、本物のルグアさんですよね。覚えてますか?」


 この発言でようやく思い出した。今年の春に遊んだゲーム。


「レーシングゲーのチーム戦で一緒になった、あのガイアか?」


 タイトルは、〈コスモスレーシング〉。宇宙を舞台にした作品で、レーシングカー以外に、普通車でも参加できる仮想五感フルダイブゲーム。


「ええ、そのガイアです。あの時はお世話になりました。初プレイなのに、私の家族が観戦する中、自らドライバーになってくださって、プロレーサーに挑んだのはほんと驚きました」


 一回途中で区切れよ、とツッコミたい気持ちを抑えて、


「まあな。レーシング系で他にもいろいろやってたし、操作方法に大きな差はないと思うから、半分は勘でやったんだけどさ」


 軽く頷く。今の私にとっては、これが普通だった。他の野次馬は、どちらが本物なのか混乱状態真っ只中。

 目の前で戦う偽ルグアは、HPギリギリ、今にもゲームオーバーするのではないか、という緊迫感がひしひしと伝わる。


(行くなら今だな)

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