第131話 長門型VSサウスダコタ級④

1944年6月6日


 15発以上の40センチ砲弾の命中によって「長門」はその戦闘力を急激に喪失しつつあった。


「他の部隊はどうなっている? 『大和』『武蔵』や重巡部隊は来てくれないのか?」


 「長門」艦長兄部勇次大佐は、苛立ったような口調で近くにいた副長に言った。


「1番隊や第5戦隊、第8戦隊は戦場には既に到着していると思われますが、本艦と『陸奥』を援護する余裕はないと考えます。そもそも、艦艇の数はあっちの方が多いですからね」


 副長が返答した。全くその通りの主張であり、兄部も即座に考えを改めた。


 兄部と副長がそんな話をしている間に「長門」は第16斉射を放った。第1主砲と第3主砲は既に破壊されているため、2基4門の射撃であったが、兄部にはその砲声が力強く感じられた。


 斉射から30秒ほどが経過した時、敵2番艦から放たれた第18斉射が飛来し、直撃弾炸裂の衝撃が艦を激しく揺るがした。


「第3主砲跡に命中! 弾火薬庫には注水済み!」


 今度は既に破壊されスクラップと化していた第3主砲に命中したようである。


 主砲弾が保存されていた弾火薬庫は注水を命じていたため、誘爆が起こることはなかったが、もう一度この場所に40センチ砲弾が命中すれば、砲弾が艦内中央部に飛び込む可能性があった。


 「長門」の第16斉射弾も敵2番艦を捉えている。


 奔騰する水柱に混じって直撃弾炸裂の閃光が確認され、それをかき消すかのように敵2番艦の主砲から火焔が湧き出した。


 敵2番艦からの斉射弾は、5発が外れたが、1発が第4主砲の正面防楯に命中した。


 命中の瞬間、第4主砲塔に据え付けられている2門の主砲の内、片方が空中へと吹き飛ばされ、もう片方が力尽きたようにうなだれた。


 残骸と化した第4主砲からは大量の黒煙が噴出し始めており、その下では赤い炎がチラついていた。


「第4主砲損傷! 正面防楯を貫かれました!」


「注水急げ!」


「耐えれなかったか・・・」


 応急指揮官を兼任している副長が咄嗟に火薬庫への注水を命じ、兄部は遂にこの時が来たかと言わんばかりに呟いた。


 主砲の正面防楯は舷側のバイタルパート部と同様の305ミリの鋼鉄の鎧によって覆われている場所である。「長門」では最も防御力が高い部位であったが、遂にそれが敵弾の貫通を許したのであった。


「第16斉射弾、主砲1基を破壊した模様!」


 ここで、第16斉射弾の戦果が報された。これで「長門」は敵2番艦の主砲2基を破壊したこととなる。


「押し切れ! 敵2番艦を葬るんだ!」


 兄部は闘志を感じさせる声で叫び、その闘志に呼応するかのように「長門」が残った第2主砲で第17斉射を放つ。


 第2主砲に火焔がほとばしった瞬間、第1主砲跡に堆積していた艦上構造物の残骸が全て吹き飛ばされた。


 入れ違いに敵弾が落下する。


 「長門」の左舷側に2本、右舷側に1本の水柱が奔騰し、命中弾は発生しなかった。敵2番艦も使える主砲が1基3門にまで減少したため、命中弾を与えることが出来なかったのであろう。


「第17斉射弾。命中弾無し!」


 砲術長からの報告が届けられ、兄部は「長門」も敵2番艦に命中弾を与えれなかった事を悟った。


 再び敵弾の飛翔音が聞こえ、それが着弾する寸前に「長門」は第18斉射を放った。


「・・・!!!」


 着弾の瞬間、艦底部からこれまでのものとは明らかに違う衝撃が突き上がってきた。


「機関長より艦長。1番、2番缶室損傷! 出力30パーセント喪失!」


 機関長より報告が上がり、艦首に配置されている見張り員からも、1番艦「陸奥」との距離が開きつつあることが報される。


「・・・やられたか」


 既に主砲塔3基を失った上に、速力も低下し、兄部は絶望感に苛まれた。


 まだ第2主砲は健在であったが、敵2番艦との速力差が10ノット以上もついてしまった現在、これ以上「長門」が敵2番艦に命中弾を与えるのは至難の業と言って良かった。


 長門型戦艦では米軍の新鋭戦艦に歯が立たないのか。結局、長門はサウスダコタ級に勝利することができないのか。


 そんな思いが兄部の心中を渦巻いた。


――だが、兄部の予想と反して敵2番艦から新たな発射炎が閃く事はなかった。


「第18斉射弾。主砲塔への命中を確認! 敵2番艦は戦闘不能の模様!」


「成程。サウスダコタ級の限界が近かったという訳だな」


 兄部は敵2番艦を襲った事態を察した。「長門」から放たれた2発の第18斉射弾は1発が敵2番艦の残存1基の主砲塔に命中し、その主砲塔を破壊乃至旋回不能に陥れたのだろう。


 第2主砲が第19斉射弾、第20斉射弾、第21斉射弾を放ち、6発の40センチ砲弾の内、2発が命中し、敵2番艦は航行を停止した。


・・・だが、このタイミングで「長門」にも限界が来た。


 艦の後部を中心に拡大していた火災が機関室にまで達し、残りの缶も全て使用不能となった上に、艦底部からも大量の浸水が始まったのだ。


(まあ、よくやった方だろ・・・)


 航行停止した敵2番艦と同じく航行停止しつつある「長門」を交互に見つめながら兄部は呟いた。


 1分後・・・


「副長。艦内各所に伝令を走らせろ。総員上甲板、これより総員退艦を行う」


 兄部は「長門」に見切りをつけ、乗員の犠牲を少しでも少なくする決断を下したのだった・・・








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