第130話 長門型VSサウスダコタ級③
1944年6月6日
「陸奥」と砲火を交わしていたのはサウスダコタ級戦艦「インディアナ」であった。
「敵1番艦に1発命中!」
「インディアナ」の艦橋にその報告が届けられた時、艦長A・A・メリル大佐は自分の読みが甘かった事を痛感していた。
今、「インディアナ」と相対している日本戦艦は最新鋭のヤマト・タイプではなく、旧式戦艦に分類されるナガト・タイプの戦艦だということが既に判明しており、メリルも敵がナガト・タイプならば数発の命中弾で撃沈に追い込むことが出来るだろうと踏んでいた。
だが、実際には10発以上の40センチ砲弾を喰らっても、ナガト・タイプは参った様子を見せず、未だに主砲を振りかざして砲戦を継続していた。恐るべきタフネスさである。
「『マサチューセッツ』の様子はどうだ?」
「『マサチューセッツ』は敵2番艦に対して優勢に戦っているようです。既に敵2番艦の主砲2基を破壊したとの報告も入ってきています」
メリルの問いに対してダンカン副長が答えた時、衝撃が2度連続して「インディアナ」を襲い、何かが破壊される音が艦橋にまで聞こえてきた。
ナガト・タイプから放たれた40センチ砲弾が「インディアナ」に命中したのだ。
「インディアナ」の主砲がお返しだと言わんばかりに咆哮し、残存2基6門の45口径40.6センチ砲から6発の40センチ砲弾が発射された。
3基9門で斉射を行っていた時に比べてその迫力に欠けるように見えるが、決してそんなことはない。主砲発射時の衝撃は天を突かんばかりであり、反動は艦を大きく揺るがしていた。
「敵1番艦に命中弾確認! 今度は全部に命中した模様!」
(前部か・・・。第1主砲あたりを破壊できていれば良いが・・・)
メリルは「インディアナ」の主砲弾が敵1番艦に少しでも多くの打撃を与えられている事を願った。
「『マサチューセッツ』より報告。敵2番艦の火災、更に拡大!」
「マサチューセッツ」は敵2番艦に対して優勢に戦いを進めているようであった。うまくいけば「マサチューセッツ」が敵2番艦を打ち破って、「インディアナ」の援護に回ってくれるかもしれなかった。
メリルがそのような思考をしていた時、「インディアナ」はまたしても被弾の衝撃に見舞われた。
艦の前部から破壊音が聞こえ、至近弾落下に伴う水中爆発の衝撃が艦を真下から突き上げた。
「・・・?」
衝撃が収まってしばらくした後、メリルは「インディアナ」の僅かな異変に気がついた。艦の速力が幾らか減速しているように感じられたのである。
「航海長より艦長。艦首に敵弾命中! 速力4ノット低下!」
航海長から新たな報告が上げられた。どうやら、メリルの勘は当たっていたようである。
主砲火力を更に奪い取られることはなかったが、この速力の低下は非常に不味い。現在の「インディアナ」の速力は23ノットといった所であり、敵1番艦に速力差から頭を抑えられるだけではなく、後続の「マサチューセッツ」との速力差から隊列が乱れてしまう恐れがあった。
敵1番艦に爆発光が確認される。
戦果の報告が上がってくる前に敵1番艦から放たれた斉射弾が降り注ぐ。
「命中弾はなしか・・・」
今度の斉射弾はこれまでと打って変わって命中弾は1発も発生せず、水柱を6本噴き上げただけに終わったのである。
「インディアナ」の速力低下によって彼我の相対位置が変化したためである。
だが、このことは「インディアナ」から放たれた斉射弾にも言えた。
続けて着弾した「インディアナ」の第10斉射弾も命中弾が発生しなかったのである。
暫し膠着状態が続き、メリルの予想通り敵1番艦が「インディアナ」に対して先行し始めた。
「敵1番艦転舵! 第3主砲射界から外れました!」
「こっちも転舵しろ! 丁字を描かれてはならん!」
砲術長からの報告に対して、メリルも敵1番艦の動きに追随すべく即座に転舵を命じた。このままだと、艦の後部に配されている第3主砲が敵1番艦を射界に収められなくなり、不利な戦いを強いられるからである。
そして、「インディアナ」が艦首を振って転舵を開始しようとした時、「インディアナ」は、凄まじい衝撃に襲われた。
この衝撃は紛れもなく今日一番の衝撃であり、メリルも思わず転倒してしまう程であった。
「第3主砲に直撃弾! 第3分隊全員戦死の模様!」
砲術長からまた報告が届けられた。
「注水急げ!」
メリルは命じ、転舵を終えた「インディアナ」は残る第1主砲で射撃を再開した。
彼我の相対距離の変化によって、これまでの諸元が無駄になったため、本来は交互撃ち方からやり直さなければならなかったが、残存主砲が1基だけとなってしまったため、最初から全門斉射であった。
「敵2番艦大火災! 『マサチューセッツ』のまた同様に大火災!」
後部見張り員からの悲痛な叫びが聞こえてきた。当初は優勢に戦いを進めていた「マサチューセッツ」であったが、砲戦が進むにつれ、戦いはほぼ互角の様相を呈していたようである。
「負けるな! 砲撃続行! 何としてもナガト・タイプを仕留めるのだ!」
砲戦が終盤にさしかかろうとしていることを感じたメリルは檄を飛ばした。
サウスダコタ級対ナガト・タイプの戦いが決着するまで後僅かであった・・・
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