第129話 長門型VSサウスダコタ級②

1944年6月6日


 「長門」が敵2番艦への挟叉弾を得た時、「陸奥」は既に斉射を4回行っていた。


 斉射を放った40秒後、新たな斉射が放たれ、「陸奥」の艦体が衝撃に打ち震える。


 ラバウル沖海戦でノースカロライナ級戦艦を打ちのめした40センチ主砲が、このトラック沖の海域で威力を発揮しているのだ。


 第4斉射弾が着弾した瞬間、水柱の先に発光が確認される。


 敵1番艦も3発の射弾を放つ。主砲発射時の衝撃によって水柱が吹き飛ばされ、隠されていたサウスダコタ級の姿が露わになる。


「2発命中!」


 第4斉射弾の戦果が報され、「陸奥」が第6斉射を放つ。


 敵弾も「陸奥」に殺到してくる。敵弾が落下する度、「陸奥」の艦体が激しく揺さぶられ、水中爆発の衝撃が艦底部を痛めつける。


(紙一重だな・・・)


 「陸奥」艦長野田半次郎大佐は奔騰する水柱を見つめながら呟いた。今、奔騰した水柱3本の内、1本は「陸奥」の前方50メートルの位置に着弾しており、もう少し照準がずれていたら「陸奥」に直撃していただろう。


「『長門』に直撃弾!」


 野田は反射的に後方を見た。


 「陸奥」よりも直撃弾を直撃させるのが遅れた「長門」が、艦の後部から黒煙をなびかせていた。


 「陸奥」の第5斉射弾が着弾したのと、敵1番艦の第9射が着弾したのはほぼ同じタイミングであった。


「・・・!!!」


 敵弾弾着の瞬間、艦橋が艦から叩き落とされんばかりに振動し、異常なまでの衝撃が艦全体を貫いた。


「砲術より艦長。第3主砲大破! 砲撃不能です!」


「砲撃続行!」


 砲術長水川翔也中佐からの報告に対して野田は躊躇うことなく砲撃続行を命じた。


 こっちは既に数発の40センチ砲弾を命中させているのにも関わらず、まだ敵1番艦の主砲の1基も破壊する事が出来ていなかった。それに対して、敵1番艦の射弾はただの1発で「陸奥」の第3主砲を破壊し、主砲火力の4分の1をもぎ取ったのだ。


 サウスダコタ級は恐るべき攻撃力よ防御力を両立させた艦であると言えた。


 「陸奥」を覆い隠していた水柱が崩れ去った時、敵1番艦の姿も露わになる。


「命中弾1!」


 敵1番艦の様子から見て、主砲火力が減少していないようだったが、艦の後部を覆い尽くしている黒煙の規模は確実に拡大していた。


 「陸奥」の主砲は暫し沈黙する。


 「陸奥」の主砲発射間隔は約40秒であり、サウスダコタ級の30秒よりも間延びしがちになってしまうのである。


 敵1番艦は第1斉射を放ち、艦を覆い尽くしていた黒煙が爆風によって薙ぎ払われた。


 敵1番艦の第1斉射弾が着弾する寸前、「陸奥」は第7斉射を放った。第3主砲の喪失によって3基6門に減少した主砲火力ではあったが、その力強さは一分たりとも失われてはいなかった。


 敵弾弾着の瞬間、水柱が奔騰したのと同時に、艦の後部から衝撃が伝わってきた。


 第3主砲が破壊された時に比べて、衝撃は小さかった。命中した敵弾は305ミリのバイタルパート部に弾き飛ばされたか、高角砲の1、2基を破壊したに留まったのであろう。


 「陸奥」の第6斉射が着弾するが、その戦果は不明であった。「陸奥」の射弾も敵1番艦の射弾と同様、相手に大した打撃を与えることができなかったのであろう。


 敵の第2斉射弾、第3斉射弾が矢継ぎ早に飛来し、「陸奥」も第8斉射を放って撃ち返す。


「予備指揮所全壊!」


「13番、14番、17番機銃損傷!」


 約1分の間に、10発以上の40センチ砲弾が「陸奥」の至近に着弾し、2~3発は「陸奥」に命中したが、「陸奥」は屈しない。「陸奥」は第9斉射を放つ。


「だんちゃーく!」


 測的長からの何回目かの弾着報告が届き、野田も身を乗り出して戦果を確認する。


「ダメか・・・」


 野田は落胆の声を漏らした。水柱のカーテンから姿を現したサウスダコタ級戦艦は大きな損傷を受けたようには見えない。それどころか、火災煙も拡大している様子はなく、逆に鎮火しつつあった。


 サウスダコタ級は攻撃力・防御力だけではなく、回復力も充実している戦艦なのかもしれなかった。


 次の発砲は「陸奥」の方が早かった。


 「陸奥」が第10斉射を放ち、艦に散乱していた高角砲、機銃群、予備指揮所の残骸を爆風によって全て吹き飛ばす。


 度重なる斉射によって艦が衝撃に耐えかねたかのように軋み、6発の40センチ砲弾を叩き出す。


 入れ替わりに第4斉射弾が着弾し、またしても艦の後部から強烈な衝撃が伝わってきた。


「射出機損傷!」


「了解。航空燃料の引火に注意せよ」


 野田が損害の報告を了解し、その間に「陸奥」の第9斉射弾が着弾した。


 敵1番艦の中央部に爆炎が踊り、黒煙に隠れてはいたが、何か細長い物体が天に吹き飛ばされるたのを野田は見逃さなかった。


「よし!」


 野田は叫んだ。見張り員からの報告はまだであったが、野田はこの第9斉射弾が敵1番艦の主砲1基を破壊したことを確信していた。


 敵1番艦に更なる打撃を与えるべく、「陸奥」は第11斉射弾を放つ。


 放たれた6発の巨弾は1万メートル以上の距離をひとっ飛びし、入れ替わりに敵1番艦から放たれた斉射弾が飛翔してくる。


 2隻の巨艦による巨弾の応酬は終わる気配を見せなかった・・・




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