第128話 長門型VSサウスダコタ級①

1944年6月6日


 第4水雷戦隊の「鬼怒」以下の艦艇が、魚雷を投下した頃、西に20海里離れた海域では、新たな戦端が開かれようとしていた。


「事前に察知されていたようだな。夜間にも関わらず準備がいい事で・・・」


 第1戦隊・2番隊の2番艦に位置する長門型戦艦「長門」の艦橋で、艦長兄部勇次大佐は目の前に立ちはだかろうとする強敵の存在を鋭く察知した。


 硫黄島沖航空戦を昨日の午前に終結させた前衛部隊・第3艦隊はトラック方面への転進を開始した米機動部隊の後を追うようにして、進撃を開始し、トラック沖近海に進出した時、陣容は以下の通りとなっていた。


第1戦隊・1番隊

「大和」「武蔵」


第1戦隊・2番隊

「陸奥」「長門」


第3戦隊

「霧島」「比叡」


第5戦隊

「鳥海」「摩耶」「愛宕」「那智」「足柄」「羽黒」


第8戦隊

「青葉」「衣笠」「加古」「古鷹」


第1水雷戦隊、第2水雷戦隊、第4水雷戦隊


第1航空戦隊

「加賀」「鳳龍」「大鳳」「隼鷹」(*「飛龍」「龍鳳」は内地帰還)


第1防空戦隊、第2防空戦隊、第41駆逐隊、第42駆逐隊、第43駆逐隊、第44駆逐隊、第45駆逐隊


「観測機より信号。敵艦はサウスダコタ級の新鋭戦艦と認む」


「旗艦より信号。旗艦目標敵戦艦1番艦。『長門』目標敵戦艦2番艦」


 信号長から2つの報告が矢継ぎ早に届けられ、同時に第4戦隊の「霧島」「比叡」が「長門」「陸奥」の右舷側を素通りしていくのが確認された。


 サウスダコタ級戦艦2隻との戦いは第1戦隊・2番隊に任せて、第4戦隊は更なる敵艦を求めて進撃してゆく。


「敵2番艦発砲! 続いて1番艦発砲!」


 サウスダコタ級戦艦が砲戦の火蓋を切った直後、兄部は砲撃開始の命令を発した。


「艦長より砲術。目標敵1番艦。射撃開始」


「目標、敵1番艦。射撃開始します」


 砲術長五反田守中佐が命令を復唱するやいなや、基準排水量33800トンを誇る「長門」が大きく身を震わせた。


 「長門」が装備する45口径41センチ連装砲4基の内、1番砲が火を噴いたのだ。


 「長門」の第1射4発と入れ替わるようにして敵の第1射が飛来し、弾着の瞬間、「長門」の艦底部が突き上げられた。


「『陸奥』砲撃開始しました!」


 艦首見張り員から僚艦の報告が知らされ、ビック7――米国のコロラド級、英国のネルソン級と同格の巨艦2隻の勇姿がくっきりと浮かび上がった。


「先手を取れないと分が悪いぞ」


 「長門」が第2射を放った直後、兄部は呟いた。


 昨年のラバウル沖海戦でサウスダコタ級と砲火を交わした「大和」「金剛」「榛名」砲術科員からの情報によると、この級は以前までの級と比較して防御力が飛び抜けて高く、金剛型の36センチ砲弾はおろか、「大和」の46センチ砲弾を多数命中させても、中々戦闘力を喪失しなかったとのことだ。


 「長門」の40センチ砲弾では20発、30発と命中させなければ勝ちは望めなく、多数の砲弾を命中させるためにも先手を取る必要があった。


 そう考え、兄部は砲戦の推移を見守った。


 夜間砲戦ということもあり、直ぐには命中弾は発生しない。


 彼我の巨弾は弾着の瞬間、派手に水柱を奔騰させるものの、命中弾が発生して艦の戦闘力が低下するといった事態は発生していない。


 電探室に詰めている山下翔矢大尉も、


「弾着、目標の右舷中央部付近」


「弾着、目標の艦尾付近」


との報告を報せて来る。


 4隻の戦艦の中で、最初に命中弾を得たのは「長門」でもサウスダコタ級の2隻でもなかった。


「敵1番艦に爆発光確認! 『陸奥』の射弾です!」


「よし!」


 姉妹艦の快挙に兄部も思わず手を握りしめて、感情を爆発させた。


 姉妹艦には負けぬと言わんばかりに、「長門」の第5射が着弾する。


「まだか・・・」


 先ほどの歓喜の感情から一転、兄部はため息を漏らした。


 「長門」は一刻も早くサウスダコタ級に命中弾を与える必要があるのだ。少なくとも敵弾を先に喰らうといった事態は何としても避けなければならなかった。


「『陸奥』斉射!」


 「陸奥」が第1斉射を放ち、敵1番艦も交互撃ち方ながら反撃の射弾を放つ。


「・・・!!!」


 敵2番艦からの第7射が着弾した直後、「長門」の巨体が大きく震えた。


「本艦挟叉されました!」


「不味い・・・」


 兄部は最悪の事態が襲来したことを悟った。彼我の防御力の差があるのにも関わらず、「長門」は先に挟叉弾を喰らってしまったのだ。


 次からは9発ずつの40センチ砲弾が「長門」目がけて飛翔してくるのだ。


「『陸奥』の第1斉射弾、命中2!」


 敵1番艦に連続して爆発光が閃く。


「本艦はどうだ?」


 見張り員から報告が上げられたが、今は「陸奥」の戦果よりも「長門」の事の方が重要である。そろそろ、80秒前に放った「長門」の第6射が着弾する頃であった。


 そして、待ちわびていた瞬間がやってきた。


「敵2番艦に命中弾1! これより斉射に移行します!」


「ここからだ。サウスダコタ級よ」


 兄部はサウスダコタ級に呼びかけるように言い放った。


 ビック7対米軍新鋭戦艦の戦いはここからが本番であった・・・


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

長門型VSサウスダコタ級の戦いが始まりました。その結末は――?


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2022年3月23日




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