第125話 不意打ちの一撃

1944年6月6日


 部隊を編成し直したTF5(第5任務部隊)は5日の午前10頃に硫黄島近海からの離脱を開始し、翌6日の午後にトラック近海に到達していた。


TF5.1

司令官 フレデリック・シャーマン少将

正規空母 「レキシントン2」「ワスプ2」

軽空母  「ラングレー」「カボット」

軽巡   4隻

駆逐艦  16隻(フレッチャー級)


TF5.2

司令官 マーク・ミッチャー少将

正規空母 「バンカー・ヒル」

軽空母  「カウペンス」「モンテレー」

軽巡   4隻 (クリーブランド級)

駆逐艦  16隻(フレッチャー級)


TF5.3

司令官 スティーブン・ディケーター少将

正規空母 「イントレピッド」

軽空母  「ベロー・ウッド」

軽巡   4隻 (クリーブランド級)

駆逐艦  16隻(フレッチャー級)


TF5.4

司令官 トーマス・C・キンケイド中将

戦艦   「アイオワ」「ニュージャージー」「インディアナ」 

     「マサチューセッツ」「ノースカロライナ」

重巡   6隻

軽巡   4隻 (クリーブランド級)

駆逐艦  24隻(フレッチャー級)


 司令長官のハルゼー大将はトラック環礁を攻撃範囲に捉えるやいなや、即座に攻撃隊の発進を命じ、飛行甲板が使用可能な8空母から戦闘機・攻撃機が発進していった。


「『ランス・リーダー』より全機。目標視認」


 「ワスプ2」爆撃隊隊長ドナルド・シュタナー少佐の声が攻撃隊全機のレシーバーに響いた。


 トラック環礁に対する第1次攻撃は「フユシマ」に集中させる事が決まっており、計90機の攻撃隊は進撃を続けていた。


「トーマス、旋回機銃の調子は大丈夫か?」


「大丈夫です。今日も日本軍の戦闘機を1機は撃墜してみせますよ」


 シュタナー機の偵察員を務めているヒラリー・トーマス飛曹が即答した。


(キツい戦いだな)


 意気軒昂なトーマスとは対照的にシュタナーは腹の底で呟いた。


 シュタナーがこの3日間で「ワスプ2」から発進した回数は計5回であり、愛機のヘルダイバーも幾度となく敵機、敵艦艇から放たれた射弾に晒された。


 日本軍空母に急降下爆撃を仕掛けた際には、水平尾翼を吹き飛ばされたし、ジークに襲われたときには、旋回機銃を破壊され、トーマスも死にかけた。


「前方、敵機! 敵は九九艦爆ヴァル! 戦闘機に非ず!」


 「レキシントン2」戦闘機隊長からの報告が、シュタナーの思考を中断させ、次の瞬間にはその異変に気づいた。


「ヴァルだと? 見間違えではないのか?」


「・・・いや、確かにあの機影はヴァルですね。あの特徴的な固定脚は見間違えようがありません」


「奴らは何のために上がってきたのだ? まさか艦爆で迎撃戦を行う訳ではあるまい」


「・・・しかし、ヴァル以外の機体が見当たりませんが」


 シュタナーとトーマスがこの不思議な光景に同時に首を傾げたとき、ヴァルの両翼から何かが発射され、白煙を引きながら攻撃隊の方向に向かってきた。


「何だ!?」


「何かが発射されたぞ!」


 様々な叫び声がレシーバーを交錯し、それが収まらない内に、「ワスプ2」爆撃隊の前方を進撃していた「モンテレー」戦闘機隊の直中で爆発が起こった。


 空中に火焔が湧きだし、半径数百メートルの範囲に無数の焼夷榴散弾と紅色の弾片が音速の速度で飛び散った。


 至近距離から爆発時の衝撃波をモロに喰らったF6F2機がエンジンから黒煙を噴き出して墜落してゆき、その周辺にいた数機のF6Fがよろめいた。


 「モンテレー」戦闘機隊が形成していた緊密な編隊形は一瞬にして大きく崩された。


 4分の3のF6Fがちりぢりになり、定位置を保っているのは4分の1かそこらだ。


三式弾タイプ3!!」


 何が起こったのかを悟ったシュタナーが鋭い声で叫んだ。


 今のこの爆発は日本海軍の「ナガト」「ムツ」やラバウル沖でサウスダコタ級戦艦を葬った「ヤマト」から放たれた散弾と同一のものである。


 ヴァルはその恐ろしい爆弾を「モンテレー」戦闘機隊に向けて発射したのだ。


 そして、シュタナー機からは死角となって分からなかったが、タイプ3の被害を受けたのは「モンテレー」戦闘機隊だけではなかった。


 「バンカー・ヒル」「イントレピッド」雷撃隊も大きく切り崩されており、数が一番少なかった「ベロー・ウッド」爆撃隊に至っては編隊そのものが消滅していた。


 周囲では報復が始まっていた。


 タイプ3の被害を受けなかったF6Fが機体を翻してヴァルに向かって突進してゆき、ヘルダイバー・アベンジャーが機体間隔を詰め始める。


鍾馗トージョー!!」


 新たな報告がレシーバーに届けられ、雲の隙間からトージョー――ラバウル航空戦で多数の友軍機を叩き落とした日本陸軍機が多数姿を現した。


 F6Fが先手を打って射弾を放つが、それが命中することはなく、「ワスプ2」爆撃隊至近に新たなタイプ3が炸裂する。


「――!!」


 爆風で機体が激しく揺さぶられる中、シュタナーは機体を懸命に操った。


「編隊から3機落伍!」


 トーマスが報告を上げる。


 タイプ3の炸裂によって機体を痛めつけられたヘルダイバーが高度を落とし始め、そこにトージョーが殺到する。


「『ランス・リーダー』より『ランス・チーム』! 編隊形を立て直せ!」


 シュタナーは崩れた編隊を立て直すべく、新たな命令を発したが、シュタナーは次の命令を出すことができなかった。


 次の瞬間、シュタナー機のコックピット内部に12.7ミリ弾が飛び込み、搭乗員席が深紅に染まったのだった・・・





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