第11章 トラック沖の業火
第124話 トラック転進
1944年6月5日
日が明けてから第3艦隊の残存6空母に対する航空攻撃が再開されたが、その規模は小さかった。
「加賀」「飛龍」「鳳龍」「大鳳」「隼鷹」の飛行甲板から計60機の零戦が次々と発艦してゆき、迎撃戦を展開した。
「少ないな・・・」
「鳳龍」艦長高次貫一大佐は昨日から大幅に衰えた米機動部隊の航空攻撃に対して訝しんだ。
「昨日の航空戦で米軍も我が軍同様著しく損耗したのではないのでしょうか?」
岸田副長が持論を述べた。
前衛部隊・第3艦隊は昨日の航空戦で米空母2隻の撃沈、1隻の大破に加えて、敵航空機を300機以上撃墜している。これほどの損害を受ければいかに米機動部隊といえども痛手ではないかと岸田は考えたのだ。
「索敵機によって発見された米空母は正規空母、小型空母各6隻で、その内、今日の朝の時点で残存しているのは正規空母4、小型空母5、総搭載機数は計400機といった所であろう。まだ米機動部隊には余裕があるはずだ」
「であれば、米機動部隊は第3艦隊への攻撃を打ち切って、硫黄島近海から離脱しようとしているのではないのでしょうか?」
「きっとそうだろうな。トラックの11航艦が新たに出現した護衛空母を主体とする米機動部隊に勇戦敢闘しているから、そっちの援護に回るんじゃないかな?」
「ならば・・・」
「敵機、輪形陣の内部に侵入してきました!」
見張り員からの報告が艦橋に届き、2人の会話が中断された。
「『大淀』『島風』射撃開始しました!」
長10センチ連装高角砲4基を装備する新型軽巡と、50口径三年式12.7センチ連装砲D型改一3基を装備する新型駆逐艦が真っ先に砲撃を開始した。
2種類の砲弾が高空で炸裂を開始し、その爆発音に高次の声が重なった。
「対空戦闘開始!」
「対空戦闘開始、宜候!」
高次の命令を砲術長が即座に下令し、既に照準を合わせていた12.7センチ連装高角砲4基8門に発射炎が閃き、強烈な砲声が轟く。
「鳳龍」が対空戦闘を開始したときには、「阿賀野」「能代」「矢矧」「酒匂」といった防空軽巡洋艦も射撃を開始し、第3艦隊上空は爆煙に包み込まれ始めた。
ヘルダイバー群の前後左右に次々に閃光が走り、爆風に煽られた機体がよろめく。
左前方から接近してきたアベンジャーの1機が黒煙を噴き上げながら高度を落とす。続いて別の1機が胴体の後部を一瞬にして吹き飛ばされ、糸がはち切れた凧のように回転しながら墜落していった。
「鳳龍」から放たれた高角砲弾も2機撃墜の戦果を挙げる。
「『加賀』に急降下!」
見張り員が絶叫し、それに呼応したかのように「加賀」の高角砲・機銃群が轟然と火を噴いた。
急降下に転じたヘルダイバーの機動をなぞるようにして爆煙が湧く。
ヘルダイバー1機の真っ正面で高角砲弾が炸裂し、無数の弾片の只中に機体が突っ込んだ。
飛び散った弾片がプロペラを吹き飛ばし、主翼を切り刻み、風防ガラスを粉砕して、コックピット内部に飛び込む。
一瞬で推進力と搭乗員の両者を失ったヘルダイバーは、急降下から墜落へと機動を変化させる。
続けて最後尾のヘルダイバーの機体が大きく持ち上げられ、巨大な爆発が起こり、ヘルダイバーの機体が一瞬で消失した。
「加賀」の対空戦闘を最後まで注視する余裕はなかった。
「鳳龍」にもアベンジャーが迫ってきていた。
25ミリ3連装機銃、同単装機銃が射撃を開始し、アベンジャー1機が弾幕に突っ込んだ。
25ミリ弾が2機目のアベンジャーを捉えた。
25ミリ弾の火箭がアベンジャーに吸い込まれた――そう思ったときにはアベンジャーの機体は海面に叩きつけられていた。
「1600メートル! 1400メートル! 1200メートル!」
見張り員がうわずった声で彼我の相対距離を報告し、「800メートル!」と聞こえてきた瞬間、高次は転舵を命じた。
約30秒で「鳳龍」の舵が利き始め、右舷側から突っ込んできていたアベンジャーの機影が艦の後方へと流れていった。
高角砲弾の弾片がアベンジャー1機を捉えたが、そのアベンジャーは墜落することなく進撃を続け、魚雷を投雷して離脱していった。
この機体の他にも4機のアベンジャーが「鳳龍」へと投雷を成功させた。
「大丈夫だ。回避できる」
高次は確信し、実際のその通りになった。
迫ってきた魚雷の内、2本が際どい所を通過していったが、結局海面下深くへと沈下していった。
そして、その時には10機以上のヘルダイバー・アベンジャーに狙われた「加賀」も放たれた1000ポンド爆弾、魚雷をことごとく回避することに成功していた。
空襲は終わり、米軍機は離脱していった。
そして、次に第3艦隊の上空に敵機が来襲するのは2日後の事であった・・・
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新章開幕です。この章で中部太平洋の戦いに決着が付きます。
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2022年3月19日 霊凰より
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