第122話 邀撃の巨砲
1944年6月4日
「主砲、右砲戦。目標、右40度の敵編隊」
戦艦「山城」の射撃指揮所に、艦長篠田勝清大佐の命令が届けられた。
「宜候! 主砲、右砲戦。目標、右40度の敵編隊!」
砲術長三田啓介中佐は各分隊長に命じた。
米軍による第4次空襲は約30分前から始まっており、その空中戦の戦場は「山城」艦上から肉眼で確認できる位置まで近づいてきていた。
「敵機は戦爆雷連合 機数約100機!」との報告が見張り員より届けられており、雷撃機のアベンジャーも混じっている事から、米軍の攻撃目標に「山城」も含まれている事は明らかであった。
現在、秋島錨地には計9隻の艦が展開している。
旧式駆逐艦2隻、駆潜艇6隻の高角砲、機銃は既に最大仰角をかけている。
「山城」の36センチ主砲も、右舷側に旋回し、天を睨んでいた。
敵の残存機数は約70機といった所だ。陸海軍の戦闘機隊が奮戦して約3割の敵機を撃退した計算となる。
「測的良し!」
「射撃準備良し!」
などの報告が飛び交い、遂に開戦以来初めて「山城」の主砲が実戦で咆哮する瞬間がやってきた。
右舷側に強大な火焔がほとばしり、12門の主砲から12発の巨弾が発射される。
発射されたのは三式弾だ。直径36センチの三式弾は大和型戦艦の46センチタイプ、長門型戦艦の40センチタイプの三式弾と比較すると威力に劣っていたが、それでも危害半径300メートルに約2500発の焼夷榴散弾、弾片をぶちまける性能を誇っている。
三式弾の効果については疑問視する声も多かったが、三田は三式弾の威力に惚れ込んでおり、この砲弾で多数の敵機を撃墜することを心の中で誓っていた。
「山城」から放たれた12発の巨弾は10発が見当違いの場所で炸裂したが、残りの2発は敵編隊の上空で炸裂した。
10機前後の敵機が大きくよろめき、その内半数が黒煙を噴き上げながら編隊から落伍していく。
「命中―――!!!」
三田が叫び、それに答えるこのように「山城」の主砲が第2射を放った。
これは1発が有効弾となり、爆発の瞬間、近くにいたヘルダイバー1機が閃光を発し消滅し、引きちぎられた主翼や燃料タンクが海面へと落下していった。
他にも機体の尾部を粉砕されたヘルダイバーが真っ逆さまに墜落してゆき、風防を吹き飛ばされたアベンジャーもまた真っ逆さまに墜落していった。
三式弾の戦果を見た射撃指揮所では士気が上昇し始めている。
長らく本土で待機し、昨年のラバウル沖海戦でも出番がなかっただけに、この喜びはひとしおであった。
「山城」に第3射を放つ機会は与えられなかった。
第2射が炸裂した直後、敵編隊が一斉に散開したのだ。
「主砲、射撃中止!」
三田が命令し、準備が進められていた第3射が中止された。
敵編隊が散開してしまえばもう三式弾に出番はない。以降の対空戦闘では高角砲、機銃群が主役となる。
主砲の仰角が倒され、入れ違いに高角砲、機銃群が敵機の動きに合わせて旋回を開始する。
真っ先に砲門を開いたのは「山城」の前方に展開していた6隻の駆潜艇であった。
1隻当たり1門装備の12.7センチ単装砲が射撃を開始し、約5秒置きに矢継ぎ早に12.7センチ砲弾を叩き出す。
「左右高角砲、射撃開始!」
敵1機が弾片に傷つけられて高度を落とし、その機体が海面に叩きつけられた時、三田が高角砲の射撃を命令した。
ラバウル沖海戦後の増設された12.7センチ連装高角砲8基16門が一斉に対空射撃を開始し、「山城」の艦上は真っ赤に染まった。
その姿は追い詰められた獣が怒り猛り狂っているかのようであり、どんな捕食者でも一瞬で喉笛を喰い千切られるのではないかと思わせる程であった。
至近弾1発によってヘルダイバー1機が大きくよろめき、更に2機の敵機が編隊から落伍する。
派手に爆散する機体もある。おそらく母艦からはるばる運んできた1000ポンド爆弾か魚雷に高角砲弾が命中したのだろう。
高角砲による戦果は続き、敵機の1群が「山城」の上空に辿り着くまでに5機の敵機が「山城」の高角砲弾によって撃墜された。
「ヘルダイバー急降下!」
との報告が届けられた直後、「山城」の艦体が左に振られた。
全長212メートル、最大幅33.08メートル、基準排水量34700トンの巨躯を持つ艦体が高空からの捕食者から逃れるべく左へ左へと回頭してゆく。
「山城」は砲撃を継続する。高角砲の射撃に機銃群の射撃が加わり、艦上を包み込む砲声が一層激しさを増した。
アベンジャーの魚雷を投下して離脱してゆき、その魚雷の雷跡を確認する間もなく、爆弾の弾着が始まる。
右舷側に水柱が奔騰したかと思ったら、次の瞬間には左舷側に水柱が奔騰する。上空から見るとあたかも2つの水柱が「山城」を押しつぶさんとしているかのようであった。
3発目、4発目、5発目、そして最後の6発目も外れたことによって「山城」は一先ず被弾を0に抑える事に成功したのだが、その時にはアベンジャーから投下された魚雷がすぐ側まで迫っていたのだった・・・
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