第119話 空母沈没
1944年6月4日
1
前衛部隊(第2艦隊)所属の小型空母3隻―――「瑞鳳」「千歳」「千代田」は壊滅の危機に瀕していた。
米機動部隊から放たれた第4次攻撃隊、第5次攻撃隊、第6次攻撃隊が機動部隊本隊ではなく、全て前衛部隊に殺到してきたからである。
1回当たりの機数は60機~80機程度と多くはなかったが、これまでの空戦で航空機を消耗していた前衛部隊は一寸刻みに戦力を削り取られつつあった。
「瑞鳳」は爆弾4発、魚雷2本を喰らって沈没確実と見られており、「千代田」も魚雷1本を喰らって速力が18ノットにまで低下してしまっていた。
周囲を固める護衛艦艇も無傷では済まない。重巡「青葉」に魚雷2本が命中し、駆逐艦も2隻が沈められている。
「面舵!」
「千歳」艦長岸良幸大佐が接近してくるアベンジャーの動きに合わせて転舵を命じ、それと時を同じくして右舷側の高角砲、機銃群が射撃を開始した。
12.7センチ高角砲弾がアベンジャーの周囲に炸裂を開始した直後、それとは比べものにならない規模の爆発がアベンジャー編隊の頭上で発生した。
相対位置の変化によって「千歳」の左舷側を占位することになった金剛型戦艦「比叡」が三式弾を発射したのだ。
炎の驟雨が降り注ぎ、3機のアベンジャーが耐えかねたと言わんばかりに海面に叩きつけられた。
炎と鉄の雨霰を辛うじて切り抜けた他のアベンジャーが横一線に展開する。
「千歳」の対空射撃は有効弾を出す気配がない。
転舵途中では対空砲火の命中精度が著しく低下してしまうのだ。
「アベンジャー投雷、近い!」
見張り員の一人が最早絶叫に近い報告を挙げ、岸は反射的に海面を凝視した。
投雷を終え「千歳」の頭上を通過しつつあるアベンジャーの機首に発射炎が閃いた。
アベンジャーの搭乗員が行きがけの駄賃と言わんばかりに「千歳」に20ミリ弾を叩き込んでくる。
そして、最初の衝撃は艦中央部から襲ってきた。
艦が束の間浮き上がるのと同時に長大な水柱が奔騰し、右舷に取り付けられている無線マスト2本が天高く吹き飛ばされ、下部4脚ラティスが大きく揺さぶられた。
「両舷停止、応急修理急げ!」
体を辛うじて支えながら岸が命令を出したが、それが実行される前に「千歳」に破局が訪れた。
艦首に1本、艦尾に1本の魚雷が新たに命中し、「千歳」の艦体が急速に右舷に傾き始めたのだ。
間もなくして岸は「総員退艦」を命令し、生存者から海面に飛び込み始めたのだった・・・
2
そして、「千歳」の被雷と前後して、既に行き脚を奪われている「千代田」にも10機以上のヘルダイバーが接近してきていた。
「千代田」は有らん限りの対空砲火を動員して敵機の阻止に努めたが、10機以上のヘルダイバーを押しとどめる事は到底不可能であった。
艦首から艦尾にかけて4発もの1000ポンド爆弾が命中し、飛行甲板を断ち割った上に、2発は飛行甲板を貫通して格納庫内で炸裂した。
艦が猛煙に包まれ、「千代田」も「瑞鳳」「千歳」の後を追うようにして航行を停止した。
前衛部隊の直衛に就いていた30機余りの零戦は機動部隊本隊がいる方向に引き上げつつあり、攻撃を終えた米軍機も次々に離脱しつつあった。
だが・・・
「蒼龍」に続いて軽空母3隻を喪失してしまった日本軍機動部隊であったが、彼らの犠牲は無駄とはならなかった。
第6次空襲と時を同じくして行われた、敵「甲」部隊に対する4回目の航空攻撃が戦果を挙げたのである。
攻撃隊は新たに小型空母1隻撃沈、正規空母1隻航行不能の戦果を挙げる事に成功し、周囲の護衛艦艇にも甚大な損害を与えることに成功したのだった・・・
3
同じ頃、トラック環礁付近に配置されていた第4艦隊膝下の潜水艦部隊も戦果を挙げていた。
計16隻展開した伊号潜水艦、呂号潜水艦が危険を承知で敵艦隊を肉迫にし、代わる代わる次々に魚雷を発射していた。
護衛空母「ハリマン」の見張り員が魚雷接近の報告を挙げた直後、転舵が間に合わず1本の魚雷が命中し、その隣を航行していた「ナッソー」にも1本の魚雷が命中する。
悲劇は護衛空母2隻に留まらない。
「ハリマン」「ナッソー」が所属している
「バーンズ」に魚雷2本、「プリンス・ウィリアム」に魚雷1本、「ブレトン」に魚雷1本が命中したのだ。
5隻の護衛空母の艦長も先に沈んだ日本軍の「瑞鳳」「千歳」「千代田」の艦長と同様に「総員退艦」を下令し、艦内にいる生存者が業火に包まれている護衛空母から脱出を開始していたのだった・・・
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両軍共に損害が激しいですね~
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2022年3月14日 霊凰より
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