第106話 飛翔する翼
1944年6月4日
1
第3艦隊の前衛を務める第2艦隊は6月4日の夜明けを硫黄島南150海里の海域で迎えた。
「艦上偵察機『彩雲』より敵部隊発見の一報です! 『我敵2部隊を発見ス。1部隊は正規空母2、軽空母2を中心とし、もう1部隊は戦艦5を中心とス』」
「今回は戦艦部隊は機動部隊と切り離されているようだな。ラバウル沖で各個撃破されてしまった反省かな?」
電信員からの報告を聞いた第2艦隊司令長官栗田健男中将はそう呟いた。
その刹那・・・
「『長門』発砲! 『羽黒』発砲!」
「米艦爆ヘルダイバー1個小隊艦隊上空! 発見された模様です!」
「こっちも発見されたか。こいつは殴り合いになるな」
「小沢長官は第2艦隊に第3艦隊前方への展開を命じた時点で、この状況は想定内だったのでしょう」
「そうだな。我が部隊は小沢君の期待にできる限り答えられるように奮戦するのみだ。その先にラバウル沖のような水上砲戦部隊同士の戦いがあると嬉しいが」
時田林太郎参謀長が話しかけ、栗田はそれに軽口で答えた。
第2艦隊の主力は戦艦6隻、軽空母3隻。
輪形陣の中心に「千歳」「千代田」「瑞鳳」の3隻を配し、それを取り囲み、守るようにして多数の艦艇が展開していた。
大和型戦艦「大和」「武蔵」、それに次ぐ長門型戦艦「長門」「陸奥」、そして、金剛型戦艦の生き残りである「霧島」「比叡」、そして8隻の重巡部隊、そのいずれもが第3艦隊を守る盾であり、栗田を始めとする2艦隊全将兵は敵機の出現を今か今かと待ち構えていた。
そして、この時、2艦隊後方20海里に展開している第3艦隊では「龍鳳」を除く7空母から攻撃隊が発進しようとしていた。
「加賀」「翔鶴」が真っ先に風上へと突進していき、「大鳳」「鳳龍」「蒼龍」「飛龍」「隼鷹」もそれに続く。
空母の周囲には軽巡、駆逐艦が敵潜水艦の出現に目を光らしており、対潜用に改造された97艦攻も数機低空を徘徊していた。
第1次攻撃隊は零戦、新型艦爆「彗星」を中心として編成されており、敵空母の飛行甲板を破壊することに主眼を置いた攻撃隊である。
程なくして戦爆連合140機が7空母の飛行甲板を蹴って出撃していったのだった・・・
2
「さっさと攻撃隊を発進させるぞ! ジャップの野郎を叩き潰すんだ!」
「長官。発見されたのは戦艦を中心とする部隊のみです。日本軍の機動部隊本隊をまだ発見した訳ではありません」
「その戦艦部隊には軽空母とはいえ、空母が3隻随伴していたはずだ! 攻撃目標としてはそれで十分であろう!」
TF5(第5任務部隊)司令官ウイリアム・ハルゼー中将は参謀長ケインズ・カーター少将と口論を交わしていた。
TF5はTF5.1からTF5.4までの4部隊に分かれており、その内3隊が空母機動部隊で構成されている日本軍のそれに倍する巨大艦隊であった。
TF5.1
司令官 フレデリック・シャーマン少将
正規空母 「レキシントン2」「ワスプ2」
軽空母 「ラングレー」「カボット」
軽巡 4隻
駆逐艦 16隻(フレッチャー級)
TF5.2
司令官 マーク・ミッチャー少将
正規空母 「バンカー・ヒル」「イントレピッド」
軽空母 「カウペンス」「モンテレー」
軽巡 4隻 (クリーブランド級)
駆逐艦 16隻(フレッチャー級)
TF5.3
司令官 スティーブン・ディケーター少将
正規空母 「ホーネット2」「フランクリン」
軽空母 「プリンストン」「ベロー・ウッド」
軽巡 4隻 (クリーブランド級)
駆逐艦 16隻(フレッチャー級)
TF5.4
司令官 トーマス・C・キンケイド中将
戦艦 「アイオワ」「ニュージャージー」「インディアナ」
「マサチューセッツ」「ノースカロライナ」
重巡 6隻
軽巡 4隻 (クリーブランド級)
駆逐艦 24隻(フレッチャー級)
この口論はハルゼーが押し切り、間もなくしてTF5.1の4空母より第1次攻撃隊80機、TF5.2の4空母より第2次攻撃隊80機が発進したのだった・・・
3
日米両艦隊から攻撃隊が発進した頃、硫黄島の2本の急造滑走路からも多数の機体が発進しようとしていた。
発進しようとしていた機体は様々だ。
零戦21型、零戦32型、陣風、そして、陸軍機の隼、鍾馗といった機体すら混じっていた。
「しかし何とも面白い発想ですな。基地航空隊の機体を持って機動部隊の頭上を守るというのは」
「機動部隊司令長官の小沢中将の発案らしい。かなり突飛で前例のない処置ではあるが、圧倒的戦力を誇る米艦隊に対抗する手段としては上策かもしれん」
源田実少将は小沢長官からこの作戦を聞いてから1ヶ月の間、作戦実施のためにGF司令部、軍令部、海軍省、更には絶対に頭を下げたくない陸軍と東奔西走したのだ。
その甲斐もあって何とか計160機の各種戦闘機を硫黄島に集結させ、現地陸軍部隊の協力によって急造滑走路2本を決戦前に整備することに成功したのだ。
今、その半数に当たる80機が出撃しようとしており、飛行長の訓示が始まっていた。
その訓示が終わった後、80機の銀翼の防人が南の海域へと飛び去っていったのだった・・・
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