第10章 迫り来る米軍
第105話 訪れた戦機
1944年5月4日
「大鳳」「千歳」「千代田」らの新戦力が新たに加わった事によって、南方ボルネオの日本軍泊地はかつてないほどの活況を呈していた。
第1泊地には戦艦、重巡洋艦、空母といった大型艦が停泊しており、第2泊地には軽巡洋艦、駆逐艦が停泊していた。
それらの中で一際目を引くのは大和型戦艦1番艦「大和」、2番艦「武蔵」といった戦艦群であったが、南太平洋の一連の戦いの立役者となった空母群もそれに負けず劣らずの迫力を醸し出していた。
40センチ主砲10門装備の加賀型戦艦として建造が開始され、最終的に空母へと改装された「加賀」、翔鶴型空母2番艦「瑞鶴」といった艦艇はその筆頭であり、開戦以来戦線を支えてきた「蒼龍」「飛龍」もその勇姿を海上に浮かべていた。
第2次珊瑚海海戦で日本軍に鹵獲され、それから日本軍空母として働くことになった「鳳龍」――――旧「ホーネット」も帝国海軍の貴重な戦力であり、「龍鳳」「瑞鳳」「隼鷹」といった軽空母も搭載機数が少ないからといって軽視することはできない。
11隻の空母が一堂に会する事自体がGF司令部の戦局打開に向けた並々ならぬ決意を示しているかのようであり、第3艦隊旗艦「加賀」では出撃前の最後の会議が始まろうとしていた。
「それでは私、加来が司会を務めさせて頂きます」
第3艦隊参謀長加来止男少将が話し始めた。
加来はヒトラーばりのちょび髭が特徴的な人物であり、GF航空参謀、水上機母艦「千代田」艦長、空母「飛龍」艦長などの役職を歴任した人物であり、あの山口多聞中将と共に航空関係の造詣が深い士官として知られていた。
「まず、中部太平洋で索敵活動を行っている第9艦隊司令部より現状説明をしてもらいます」
「中部太平洋で索敵活動を行っている伊号潜水艦からの報告によりますと、2日前までクエゼリン環礁に停泊していた米機動部隊が忽然と消えたとの事です」
この作戦会議のためにわざわざトラック環礁から派遣された第9艦隊参謀長大杉隆一大佐が説明を開始した。
――――第9艦隊はトラック環礁を根城として索敵活動を専門に行っている部隊であり、指揮下には伊号第一潜水艦から伊号第五潜水艦までの5隻の大型潜水艦が配備されていた。
この艦隊は規模こそ第3艦隊と比較すると小さなものであったが、4ヶ月前のマリアナの戦いで戦艦2隻撃沈などの戦果を挙げており、GFの中でも一際存在感を放っている部隊であった。
「その後の米機動部隊に足取りは追えていますか?」
加来の質問に対して大杉が首を横に振った。
「米機動部隊の戦力再建が完全に完了したということだろう」
第3艦隊司令官小沢治三郎中将が口を開いた。小沢は「鬼瓦」と形容される風貌の持ち主かつ身長180センチを超える人物であり、山本五十六大将の強い後押しによって第3艦隊の司令長官に任命されていた。
「敵機動部隊が次に来寇する場所は何処だろうか?」
「候補は3カ所ですな。第1にトラック環礁、第2に硫黄島、第3にパラオ諸島」
主席参謀上野敬三大佐が3カ所の候補地を挙げた。
「トラック環礁はないだろうな。本命は硫黄島か・・・。だが、フィリピンを考えたときにパラオ諸島も可能性が十分にありますな」
「米軍の侵攻ルートは主に2つ存在しているとの事だったな?」
「はい。中部太平洋ルートとフィリピン経由のルートです」
加来が候補地を2カ所まで絞り、それを聞いた小沢が情報参謀浦瀬翔馬大佐に質問を投げかけた。
1944年現在、米軍の対日侵攻ルートは主に中部太平洋ルートとフィリピン経由のルートの2つが存在していることが判明しており、どっちが主で、どっちが従になるかによって米軍の次の侵攻目標が特定できるのだ。
「・・・その2択なら我が艦隊は硫黄島近海に展開するべきであろう。パラオが陥落しても一気に情勢が不味くなるということはないが、硫黄島が陥落してしまうと米軍と本土との距離が一気に縮まってしまう」
「そうですな。もし、硫黄島に来寇する敵艦隊に大打撃を与えることが叶った場合、矢継ぎ早にマリアナ諸島の再奪回を行えるかもしれないという事を勘案しても硫黄島近海に展開することに本官も賛成です」
「長官、参謀長の意見に賛同します。もし、敵艦隊がパラオに現れた際には、逆にこっちがマリアナを奪回して、敵艦隊を孤立させてしまえばいいのです」
小沢は硫黄島近海に展開することを提案し、それに加来と上野が賛同した。
司令官、参謀長、主席参謀の3人の意見が一致した以上、第3艦隊の方針は決定したといって良かった。
「・・・戦闘が硫黄島の近海で勃発した場合、私に一つ策がある。GF司令部、軍令部の協力が必要になってしまうが」
「何でしょうか? 何なりとおっしゃってください」
小沢が何かを思いついたかのように呟き、それをGF司令部からこの会議に参加していた源田実少将が即座に請け負った。
GF司令長官古賀峯一大将より小沢の要望をできる限り聞くように源田は言い聞かされており、また、源田自身も小沢の才覚を高く評価していたからだ。
小沢が口を開き始め、それを聞いた源田が驚愕したのは5分後の事であった・・・
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――第10章開始です。
圧倒的戦力で向かってくる米軍を迎え撃つ小沢治三郎の奇策とは――――?
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霊凰より
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