第96話 マリアナ急襲作戦
1944年2月7日
目の前に現れた
「日本軍はマリアナを疎かにしていたようだな。ここが我が軍に真っ先に襲われるとも知らずに」
「イントレピット」戦闘機隊第4小隊長を務めているチャールズ・セルター中尉はそう呟きながらほくそ笑んだ。
戦闘機隊隊長の突撃命令は既に出されており、セルターは敵機を発見し次第、F6Fのエンジン・スロットルをフルに開いた。
2000馬力を誇るP&W R-2800エンジンが力強く咆哮し、F4Fよりも巨大になったF6Fの機体を力強く高空へと引っ張っていく。
ジークの動きに乱れが生じた。自分達が接敵している米軍機がF4Fとは似て非なる機体だという事に何人かの搭乗員が気づいたのかもしれなかった。
だが、遅い。
セルター機に装備されている6丁の12.7ミリブローニング機銃から多数の射弾が投網のように放たれ、1機のジークが胴体と言わず、エンジンと言わず、翼と言わず多数の箇所を貫かれる。
「1機撃墜!」
セルターが1機撃墜の戦果を挙げた頃には、5機以上のジークが火を噴いて墜落しつつあり、それとは対照的にF6Fで被弾・損傷している機体はなかった。
1機のジークが機体を翻してセルター機から距離を取る。F6Fとの戦いは分が悪いと考えてヘルダイバーを優先的に狙い撃ちにしようとしているのだろう。
「逃がさん!!」
セルターは一声そう叫び、F6Fの操縦桿を思いっきり右に倒した。
右に横転したF6Fが垂直降下に転じる。F6Fはジークと比較するとずんぐりむっくりとした機影だが、運動性能は良好のようだ。
視界が目まぐるしいほど回転し、強烈なGがセルターの体にふっかかってくるが、セルターは歯を食いしばってそのGに耐える。
セルター機の動きに勘づいたジークが小回り転回をかけ、セルター機の後方を占位しようとし、セルターの体がGから解放されたときにはセルター機はジークに後方を取られていた。
(不味い・・・!!!)
背中に悪寒が走り、次の瞬間の自機の墜落を確信したセルターだったが、火を噴き出して墜落したのはセルター機ではなく、そのジークだった。
後方に僚機の姿が見える。
セルター機の2番機を務めているホワイト・スラックス少尉の駆るF6Fがセルターの窮地を救ったのだ。
小隊の3番機、4番機は姿を確認することができない。この乱戦ではぐれてしまったのかもしれなかった。
このときには、マリアナ諸島・グアム島の上空に戦場が移りつつあった。
何機かの航空機が陸地に向かって墜落しつつあるのが確認でき、海岸線付近に設置されている対空機銃座が射弾を盛んに放っている様子も散見される。
全般的にはF6Fの方が優勢のようだが、この時にはF6Fにも被撃墜機が現れ始めている。
20ミリ弾を至近距離から撃ち込まれたF6Fが、コックピットを粉砕され、大量のジュラルミンの破片をマリアナ上空にぶちまけながら墜落し、エンジン・カウリングに1発を貰ったF6Fは大量の黒煙を噴き出して高度を落とす。
ヘルダイバー爆撃隊にも被害が出る。
ジークの両翼から放たれた射弾がヘルダイバーの翼に突き刺さり、強烈な一撃を喰らった翼は空気の抵抗力に耐えきれなくなって、付け根付近からポッキリと折れてしまう。
片翼の揚力を喪失してしまったヘルダイバーが墜落していき、そのすぐ隣を飛行していたヘルダイバーの風防に7.7ミリ弾を撃ち込まれて搭乗員を射殺される。
「あと1機!」
セルターは小さい声でそう叫び、右前方高度500メートル下を飛んでいたジークの2機編隊に狙いを定めた。
セルターが操縦桿を前に倒し、正面からの戦いは不利と見たジークは横転回で彼我の位置を巧みに調整する。
ジークの両翼に閃光が走り、真っ赤な太い火箭が殺到してきたが、火箭が到達する頃にはセルター機もスラックス機もそこにはいない。
ジークの下腹に潜り込み、次の瞬間に機銃の発射ボタンを押した。
12.7ミリ弾がジークの薄い外板に突き刺さり、大きくよろめき、スラックス機から放たれた12.7ミリ弾が止めを刺す。
陸地では爆発光が確認され、何条もの黒煙が高空に向かって突き上がっているのが風防越しに確認できる。
健全なヘルダイバーが次々に投弾を開始したのだろう。ジークの迎撃によって全体の1割程度のヘルダイバーが失われたようだが、飛行場を制圧するという任務に支障はなさそうだった。
グアム島に存在している3カ所の滑走路が次々に抉られ、使用不能となり、対空機銃座も徐々にその迫力を減衰させる。
全てのヘルダイバーが投弾し終え、上空での戦闘に区切りを付けたF6Fがグアム島からの離脱にかかったときには、グアム島の全滑走路は全て使用不能の状態となっていた。
第1次攻撃隊はグアム島上空の制空権を奪取することに成功したのだ。
そして、グアム島上空の制圧と時を同じくして、テニアン島上空の制空権も滑走路の壊滅によって米軍側が奪取し、残りのサイパン島には米空母4隻から放たれた第2次攻撃隊が接近しつつあったのだった・・・
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