第89話 戦艦の護衛
1943年5月31日
1
米軽巡2隻、駆逐艦10数隻から放たれた射弾が一斉に「大和」に着弾し始めた。
軽巡、駆逐艦の主砲である12.7センチ砲では「大和」の主要防御装甲を貫く事は叶わないが、艦首、艦尾の非装甲部は確実に削られてゆく。
「右舷2番高角砲損傷!」
「水上機大破!」
被害報告が次々に飛び込んでくる中、大野は新たな命令を下した。
「副砲、高角砲、右砲戦! 目標軽巡1番艦!」
「副砲、高角砲、右砲戦。目標軽巡1番艦、宜候!」
大野の命令に対して榊が即座に復唱し、右舷側に発射可能な副砲、高角砲が射撃準備を整える。
射撃準備を整えている間にも多数の敵弾が飛翔音と共に「大和」に降りかかる。
炸裂音が連続する中、「大和」の右舷側に装備している60口径15.5センチ3連装砲塔、40口径12.7センチ連装高角砲6基、25ミリ3連装機銃26基が一斉に火を噴く。
「大和」の艦上構造物の損傷が相次ぐ。
角材が次々に引き剥がされ、射出機付近に命中した1発は射出機を即座に残骸に変貌させる。
直撃を受けた12.7センチ連装高角砲が消し飛ばされ、15.5センチ副砲の砲塔も1基が使用不能に陥る。
「敵軽巡1番艦、2番艦に命中! 火災発生!」
見張り員が戦果を知らせる。「大和」が遙かに格下の軽巡・駆逐艦に嬲られる事をよしとせず、お返しとばかりに砲弾を命中させているのだ。
「大和」の主砲も敵戦艦2番艦に対する斉射を継続している。
敵戦艦2番艦に対する通算7回目の斉射だ。
「大和」「金剛」によって多数の46センチ砲弾、36センチ砲弾を撃ち込まれた敵戦艦2番艦は3基の主砲塔の内2基が既に使用不能となっており、火災煙が艦全体を覆い尽くさんばかりの勢いで拡大していたが、まだ砲撃を継続していた。
3発の40センチ砲弾が「金剛」に向けて放たれ、1発が命中する。
「榛名」に続いて「金剛」にも限界が来た。
4基の主砲塔が完全に沈黙し、その速力も最大速力の30ノットには遠く及ばない12~14ノットといった所だ。「金剛」の面前に敵戦艦2番艦がいることを考えると「金剛」に生還の目はないだろう。
「敵軽巡1番艦と本艦との距離10000!」
「・・・不味い!」
大野は敵小型艦部隊の目論見を悟った。軽巡、駆逐艦に装備されている魚雷を「大和」の下腹に撃ち込もうという算段であろう。
こうしている間にも敵艦は「大和」へと徐々に接近しているのだった・・・
2
「『大和』に敵艦接近、10隻以上!」
「大和」の後方に滞在していた第5戦隊旗艦「愛宕」の艦橋に報告が上げられた。
「・・・苦戦していますな。世界最強の戦艦ともあろう艦が情けない」
「言うな、艦長。今回の戦いで初陣の『大和』には我々が知り得ぬ苦労話もあるだろう」
苦戦している「大和」に辛辣な言葉を投げかけた鷺宮光太郎「愛宕」艦長を第5戦隊司令官の佐藤翔太少将が窘めた。
佐藤に窘められたものの、鷺宮は苦虫を食い潰すような心境であった。俺があの艦の指揮を執っていればあんな敵の小部隊など瞬く間に撃退して見せるのにという考えが脳裏をよぎったのだ。
「『大和』を援護するぞ。後続の『高雄』『摩耶』にも発光信号を送れ」
佐藤が静かな声で断を下し、鷺宮が気持ちを切り替えてそれを了承する。
「軽巡を叩きますか? それとも軽巡は『大和』に任せますか?」
「後者にしよう。5戦隊は敵駆逐艦1番艦から順繰りに叩く」
「本艦目標敵駆逐艦1番艦!」
「本艦目標敵駆逐艦1番艦、宜候!」
「愛宕」の3基の3連装主砲の各1番砲から3発の20.3センチ砲弾が放たれ、発射時の衝撃によって艦が僅かに左舷側に傾く。
「『高雄』砲撃開始しました! 『摩耶』続けて砲撃開始!」
「『大和』と敵部隊距離8000!」
「愛宕」から発射された第1射が弾着する。
命中弾はない。全ての砲弾が敵駆逐艦1番艦の上空を飛び越して着弾している。
「愛宕」が続く第2射を放とうとしたとき・・・
「愛宕」付近の海面が一瞬にして沸騰したかのように沸き立ち、「愛宕」に2度鋭い打撃音が走った。
「敵軽巡1番艦、2番艦射撃目標を『大和』から本艦に変更した模様!」
敵軽巡2隻の発射間隔は非常に短い。「愛宕」が第2射を放ち、第3射を放つまでに実に5度の斉射を敢行している。
「不味いぞ・・・!!!」
思わぬ敵軽巡の手強さに鷺宮が思わず戦慄した。このままでは「大和」を救うどころか、「愛宕」が敵軽巡の砲弾によってやられかねない。
「一発当たりの威力では本艦の方が格上だ。早く叩き潰せ!」
鷺宮が砲術長に催促する。
「『高雄』『摩耶』に火災発生! 射弾集中の模様!」
見張り員が「高雄」「摩耶」の様子を知らせる。どうやら「高雄」「摩耶」には敵駆逐艦が砲門を向けているようだ。
「早くしろ・・・」
「愛宕」から第4射が放たれ、それが着弾した瞬間、敵軽巡1番艦の艦上に閃光が確認され、火災炎が発生した。
だが・・・
鷺宮が命中弾に喜び、「愛宕」が斉射準備に移ろうとしたとき、それは起こった。
「愛宕」の艦橋に真っ赤な赤い塊が飛び込み、佐藤長官、鷺宮以下の第5戦隊司令部要員、「愛宕」の幹部を抹殺したのはその時だった・・・
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