第69話 いざ戦場へ

1943年5月29日



 結局、この日のラバウルに対する空襲は9回を数えた。


 第9次空襲が終了した時点で時刻は午後5時を回っており、1日に渡る継続的な迎撃戦を生き残った零戦・陣風・鍾馗が着陸可能な飛行場に着陸を開始していた。


 着陸してきた機体で無傷な機体は皆無である。横腹が大きく切り裂かれていたり、昇降舵が吹き飛ばされていたり、着陸脚がポッキリと折れてしまっている機体がほとんどであり、機体から出てきた搭乗員も疲労でその場に倒れてしまう者すらいる程だった。


 今日の航空戦で損耗したのは航空隊だけではない。


 滑走路・付帯設備を守るために備え付けられていた機銃座も7割以上が破壊され、ラバウル全体の「目」の役割を果たしていた電探設備も甚大な被害を受けている。兵員も死傷者も500名を超えてしまっており、いかにラバウルの日本軍が出血を強要されたのかが分かる。


 破壊された5カ所の飛行場では滑走路の復旧作業が夜を徹して行われており、整備員も損傷機を直すことに全力を投じていた。


 そして、午後11時・・・


 不夜城の様相を呈していた13航艦司令部は一通の緊急信をGF司令部に対して送った。


「13航艦司令部よりGF司令部。九波に及ぶ米英航空隊の空襲は誠に熾烈なるもラバウル航空隊は尚も健在ナリ」と・・・



「13航艦より1航艦。九波に及ぶ米英航空隊の空襲は誠に熾烈なるもラバウル航空隊は尚も健在ナリ」


 この緊急信は第1航空艦隊旗艦「加賀」、第2艦隊旗艦「大和」などの艦艇でも受信されていた。


「さて、また最前線に行くとするか・・・」


 第3航空戦隊に所属している空母「鳳龍」艦長高次貫一大佐が苦虫を噛み潰したような顔で呟いた。


 1942年に「大鷹」艦長を務めていた高次は内地勤務に移りたいという希望空しく、その豊富な空母艦長経験を買われて米空母「ホーネット」を改装した「鳳龍」艦長に任じられたのだ。


 ちなみに「大鷹」副長を務めていた岸田道弘中佐は人事異動で航空本部参謀となり、「鳳龍」の副長には「利根」の航海長を務めていた林翔太中佐が着任していた。


 林中佐は昨年8月の第2次珊瑚海海戦で乗艦沈没の修羅場を潜った士官であり、その影響もあってか大層な胆力の持ち主であった。


 1旗艦旗艦「加賀」の司令部から「出撃開始」の命令電が1航艦、第2艦隊の全艦艇宛てに飛び、第2艦隊の諸艦艇のエンジンが鼓動を開始した。


 最初に動き出したのは第2水雷戦隊「神通」駆逐艦11隻だ。日本艦隊のつゆ払いの役割を負っている12隻の艦艇は真っ先に湾外へと出撃していく。


 水雷戦隊に続くのは日本海軍が世界に誇る重巡部隊だ。


 第5戦隊「愛宕」「摩耶」「高雄」、第6戦隊「妙高」「羽黒」といった艦が順次出撃を開始する。


 これらの艦はそのいずれもが20センチ主砲を搭載した有力艦であり、米海軍との水上砲戦が勃発した際にはその破壊力が十二分に発揮されるはずだった。


「『大和』『長門』『陸奥』出撃します!」


「世界最大の戦艦のお出ましか・・・」


 高次が「鳳龍」の艦橋から身を乗り出して外を見つめると、帝国海軍が満を持して送り出した巨大戦艦が外海に向かって動き出そうとしていた。


 基準排水量64000トン、全長263.8メートル、横幅38.9メートルの長大な艦体は海上の要塞さながらであり、甲板上に乗せられている3基の3連装砲は凄まじい存在感を放っていた。


 第1戦隊の3隻が出撃し、第2戦隊、第3戦隊、第4戦隊「扶桑」「山城」「金剛」「榛名」「霧島」といった戦艦群もそれに続く。


 水上砲戦部隊が出撃した後に空母部隊が順次錨を上げ始める。


 第1航空戦隊「加賀」「蒼龍」「飛龍」が湾外へ舳先を向け、第2航空戦隊「隼鷹」「飛鷹」が後続する。


 「鳳龍」に出撃の時がやってきた。


「出撃開始」


「出撃開始、宜候」


 高次が命じ、航海長鳥居洋中佐が即座に復唱した。


 「鳳龍」が誇る12万馬力の機関が高らかに鼓動を開始し、艦尾の推進軸が「鳳龍」に力強い推進力を与える。


「『翔鶴』『瑞鶴』後続します!」


 1943年の大幅な機動部隊の編成替えによって第5航空戦隊から第3航空戦隊に移動した翔鶴型空母2隻が動き出した。


 この2隻は第1次珊瑚海海戦の被害によって第2次珊瑚海海戦に参加することはできなかったが、内地の工廠で対空砲火の大幅増強や電探の設置などを行って戦線に舞い戻ってきたのだ。


 第4航空戦隊「瑞鳳」「龍鳳」「龍驤」の小型空母3隻が出撃し、最後に1航艦所属護衛艦艇の「筑摩」、青葉型重巡4隻、第4水雷戦隊が出撃する。


「ラバウルに到着するのは明日の夜といった所か?」


「はい。ラバウルまでの距離を勘案するとラバウル200海里の海面に到着するのは明日の二三〇〇になる予定です」


(さて、どうなるかね。米潜水艦の出撃などを考慮すると1航艦、第2艦隊の戦場到着は明後日の明け方になりそうだが・・・)


 高次は艦橋の外に広がっている漆黒の海を見つめながら思考にふけっていた。


 日本艦隊と米英艦隊が激突し、南太平洋戦線の帰趨が決するのは2日後の事であった・・・


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第7章終了です。


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霊凰より










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