第68話 果てぬ戦い
1943年5月29日
「出てこないな・・・」
空母「ヨークタウン」爆撃隊指揮官クラレンス・マクラスキー少佐は日本軍航空隊が迎撃に出てこない事に関して異変を感じ始めていた。
ラバウルに対する第5次攻撃隊として「ヨークタウン」「サラトガ」「ワスプ」から発進した戦爆雷連合90機の編隊はラバウル東20海里の空域まで既に進撃していた。
そろそろジークやトージョーが現れてもいい頃だったが、それらの機体がまだ1機も現れる様子がなかったのだ。
「こっち側の航空機の被害が酷いのと同様に、日本軍基地航空隊の台所事情も厳しいんじゃないでしょうかね?」
後ろの偵察員がマクラスキーに対して自分の見解を述べた。
「・・・確かにそうかもな」
マクラスキーは偵察員の意見に完全ではないにしてもある程度は納得した。
事実第41任務部隊の空母7隻に搭載されているF4F、ドーントレス、アベンジャーといった機体はこれまでの日本軍陸海軍航空隊の猛烈な反撃によって甚大な損害を負ってしまっている。
総搭載機570機、出撃機数400機の内、約3分の1に当たる127機が未帰還となり、69機が帰還後修理不能として廃棄されている。
それに日本軍の空襲によってその下腹に魚雷を撃ち込まれた「インデペンデンス」、飛行甲板に500ポンドクラスの爆弾2発を叩き込まれた「エンタープライズ2」の損害が加わる。
2隻とも沈没の気配こそなかったが、魚雷命中時の衝撃によって「インデペンデンス」格納庫内に収容されていた航空機は7割が損壊してしまい、「エンタープライズ2」の飛行甲板も未だに復旧が完了していない。
それらの事を総合的に勘案するとTF41の戦力は6割~7割程度にまで落ち込んでしまったと考えて良かった。
だがその代償として多数の日本軍機の撃墜に成功したとの報告が搭乗員連中から上がっており、はっきりしている事実として攻撃隊はラバウルの飛行場の約半数の撃破に成功していた。
マクラスキーがそんなことを考えている間にもラバウルとの距離は着実に縮まりつつあり、ラバウルを包み込むように生い茂っている原生林がその形を整え始めていた。
このままいけば第5次攻撃隊は1機の喪失も出すことなくラバウルに対する投弾を終えることができるが・・・
異変が生じ、マクラスキー機の機上レシーバーにはち切れんばかりの金切り声が飛び込んできたのはそのときだった。
「後ろ!」
マクラスキーが首をひねって後方を確認すると、「ヨークタウン」爆撃隊に対して旋回機銃の死角となる後ろ上方から突っ込んでくるジークの姿が確認できた。
迫りくる敵機に対して有効な反撃を行うことができないドーントレス群を嘲笑うかのようにして、ドーントレスの編隊を十分すぎるほど肉薄にしたジークの両翼に発射炎が閃いた。
開戦以来幾多の米軍機を葬り去ってきた20ミリ弾の火箭が最後尾に付けていたドーントレスに突き刺さり、後続のジーク2番機、3番機、4番機も続け様に手頃なドーントレスに射弾を叩き込む。
編隊の中央を狙ってくる機体は1機もいない。どうやらこのジーク1個小隊の指揮官は外郭のドーントレスのみを狙うように搭乗員達に指導していたのかもしれなかった。
最初の攻撃で3機のドーントレスが被弾し、その内2機はエンジン付近から大量の黒煙を噴き出して高度を落とし始めている。
ジークは尚も後ろ上方から突っ込んでくる。
ジーク1機がドーントレスの編隊とすれ違う度に高確率で1機のドーントレスが被弾し、運が悪く墜落してしまう機体も続出し始める。
後ろ上方からの連続攻撃によって大きくかき乱された「ヨークタウン」爆撃隊を与しやすしと見たジーク3機編隊が真横から横殴りの衝撃を叩きつけるようにして突っ込んでくる。
ジークの連続攻撃に耐えかねたドーントレスの数機が弾幕射撃の原則を無視してジークに対して機首を正対させ、機首に装備されている12.7ミリ機銃で決死の反撃を試みるが、その行為はドーントレス搭乗員の寿命を縮めるだけに終わった。
1機のドーントレスがエンジンを正面から粉砕し、機体から引きちぎられたプロペラ、シリンダー、カウリングなどの破片をまき散らしながら墜落する。
更にもう1機のドーントレスが機体の浮力を支えている右翼を根元からたたき折られてクルクル回る駒のように回転して海面に叩きつけられる。
攻撃隊に随伴しているF4Fも頑張ってくれてはいるが、連続の出撃で疲れがたまりつつある上に機数的にも劣勢だったため、一部のジークを拘束するのが精一杯という状況であった。
――――マクラスキーが率いる部隊が悪戦苦闘を強いられていた頃、併走していた「サラトガ」雷撃隊、「ワスプ」爆撃隊にも同様の災厄が降りかかっていた。
ジークの追撃をかわすために海面スレスレまで高度を落としたアベンジャーの編隊がその努力を踏みにじられるようにしてその数を徐々に減少させ、「ワスプ」爆撃隊も遅れて出現してきたトージョーの高速性能に翻弄されてしまっていた。
米軍の第5次攻撃隊が基地航空隊主導で行われた第3次攻撃隊とは対照的に失敗で終わることはもはや確定事項であった。
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