第62話 電探殺し
1943年5月29日
1
米機動部隊から放たれた第2次攻撃隊はジークによる激しい迎撃によって被撃墜機を出しながらも、ラバウルの上空にさしかかろうとしていた。
ドーントレス・アベンジャーの搭乗員は誰もがこのまま飛行場・滑走路に投弾出来るものと思っていたが・・・
「敵戦闘機の第2陣か!!」
マクラスキーは遙かなる高みから逆落としに突っ込んできた敵機の姿を風防越しに確認した。機首が異常なまでに頭でっかちになっている機体であり、砲弾がドーントレス群に突っ込んできているかのようだった。
「ジークじゃない。別の機体だ・・・!」
「速い!」
機上レシーバーに部下の悲鳴が次々に飛び込んでくる中、赤色のミートボールマークが描かれた機体から火箭が噴き伸びる。
火箭の太さから推察するに、ジークに搭載されている20ミリクラスの大型機銃弾ではなく、12.7ミリ弾のようだがそれでも被弾したドーントレスは只では済まない。
エンジンに被弾したドーントレスが大きくよろめき、エンジンカウンセリングを吹き飛ばされたドーントレスは真っ逆さまに海面へと墜落していく。
ドーントレス群も只やられるだけではなく、12.7ミリ機銃、7.7ミリ機銃を振りかざして反撃していたが、ドーントレスが墜とした機体は1機も見当たらない。
新たに出現した日本軍機はドーントレス必死の反撃を嘲笑うかのようにして回避しているのだ。
そんな事を考えているとマクラスキー機にも1機の日本軍機が突っ込んできた。
マクラスキーは咄嗟に操縦桿を右に倒し、機体の左側を赤い奔流が通過していく。
「総指揮官機より全機へ! 敵機はジークにあらず。陸軍機の
ここにきて攻撃隊に攻撃を仕掛けてきている敵機の機種が判明したが、今はそんなことはどうでも良かった。
F4Fもドーントレス・アベンジャーからトージョーを引き離すべく奮戦している。
ドーントレスを追いかけ回す事に熱中し、視野狭窄になったトージョー搭乗員の隙を巧みに突いて攻撃を仕掛けるF4Fや、最新戦術のサッチウェーブといった空戦技術を用いてトージョーを撃墜する事に成功するF4Fもある。
マクラスキー機から確認できるだけでも4機のトージョーが被弾・墜落しており、F4F戦闘機部隊は十分奮戦していると言えた。
だが・・・
僚機がいくらやられてもトージョーが怯むことはなかった。
トージョーが次々に突っ込んでくる。
滝から降り注ぐ濁流のような勢いで、垂直に近い角度で突っ込んできては、12.7ミリ弾をぶちまけて離脱していく。
トージョーもF4Fが得意としている一撃離脱戦法を主に採用しているのだろう。
エンジンを一撃されたアベンジャーが大量の黒煙を噴き出し、主翼に大穴を穿たれたドーントレスが増大した空気抵抗力に耐えかねたかのように大きくよろめく。
ドーントレスもアベンジャーも各搭乗員が必死に機体を操ってトージョーから放たれる射弾の回避を試みるが、元が1000ポンド爆弾を抱いている身である。
射弾を躱す事に失敗した攻撃機が1機、また1機と編隊から落伍していく。
「ヨークタウン」爆撃隊が全体の3分の1を失ったところで、第2次攻撃隊はラバウルの海岸上空に到達した。
「『ヨークタウン』爆撃隊全機よく聞け! 本隊は海岸線に設けられている2カ所の電探に攻撃を仕掛ける! オール・アタック!!!」
事前に「ヨークタウン」爆撃隊に定められた攻撃目標はラバウル中央部にある滑走路及び飛行場付帯設備であったが、敵戦闘機の激しい迎撃を勘案したマクラスキーはそれを独断で変更したのだ。
高度4000メートルを飛行していたマクラスキー機が降下を開始し、3500メートル、3000メートルと高度を落としていく。
高度2000メートルを切った時点で地上から発射炎が多数閃くのが確認された。
電探装備を守るために設置されていた高角砲・対空機銃座が射撃を開始したのだろう。
ドーントレス群の上下左右で次々に高角砲弾が炸裂するが、今更それごときの脅威に動じるようなドーントレスの搭乗員はいない。
敵航空基地の「目」の役割を果たしている電探を破壊すべく真一文字で降下を継続する。
高度1000メートル・・・
「ドロップ!」
マクラスキー機から1000ポンド爆弾が投下され、後続機も次々に投弾していく。
2つの電探がけたたましい音を立てて崩壊したのは10秒後の事だった。
2
TF41の第2次攻撃隊が投弾を開始し始めようとしていたとき、ラバウルの一番西側に存在している第1飛行場は多数の航空機のエンジンから発せられる爆音で埋め尽くされていた。
零戦45機、99艦爆30機、97艦攻41機、一式陸攻19機の攻撃隊が出撃しようとしていたのだ。
「13航艦の大西長官も考えたものだな・・・」
攻撃隊が発進する様子を眺めていた第24航空戦隊司令郡山拓斗少将は呟いた。
今ラバウルを攻撃してきている米攻撃隊の後を追跡して米機動部隊を捕捉撃滅しようという魂胆で、13航艦司令部はこの攻撃隊を出撃させようとしているのだ。
程なくして戦爆雷135機の攻撃隊が出撃していった。
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