第61話 空襲第2幕

1943年5月29日


 米海軍第41任務部隊(TF41)に所属する空母7隻から放たれた第2次攻撃隊はラバウルへの進撃途中で第1次攻撃隊の帰還機と遭遇した。


「1次の連中は手酷くやられたようだな。F4F隊もドーントレス隊もボロボロだ」


 空母「ヨークタウン」爆撃隊指揮官クラレンス・マクラスキー少佐は第2次攻撃隊とすれ違いざまに母艦へと帰還していく第1次攻撃隊を見つめながら呟いた。


 夜明け前に整然たる緊密な編隊形で勇躍出撃していった第1次攻撃隊の姿はそこにはなく、ナポレオン冬戦争の敗残兵を思わせるような姿を曝け出していた。


 F4F・ドーントレスの半数以上は失われてしまっているようであり、残った機体もエンジンや操縦系統を損傷していたり、機体は引き裂かれているものがほとんどであった。


「ラバウルの日本軍の迎撃は凄まじいようですね。私たちは大丈夫でしょうか?」


 マクラスキーとドーントレスのペアを組んでいる偵察員のビル・マクナサス中尉の不安そうな声が伝声管を通じて聞こえてきた。


 マクナサスが考えているであろう不安はマクラスキーも痛いほど理解出来た。


 第2次攻撃隊の編成はF4Fワイルドキャット60機、SBDドーントレス40機、TBFアベンジャー20機というものであり、第1次攻撃隊とほぼ同様の戦力だ。


 この戦力でラバウルに進撃するとこの第2次攻撃隊も第1次攻撃隊と同じ末路を辿ってしまうのではないかとマクナサスは危惧しているのだろう。


「・・・第1次攻撃隊に随伴していた60機のF4Fがラバウル上空の敵戦闘機をある程度掃討してくれているはずだ。1次の連中も損害に見合うだけの戦果は上げてくれたはずさ」


 マクラスキーは声を意図的に弾ませて弱気になっている偵察員を励ました。


 空中戦での気分の沈みは即戦死に繋がる確率が非常に高いため、このままでは不味いという考えもあった。


 それから1時間程度はなにも発生せず、攻撃目標のラバウルが徐々に見えてきた。

 

「指揮官機より全機へ。前方にラバウル! 敵戦闘機の出現に各々注意されたし!」


 第2次攻撃隊の総指揮えを務める「サラトガ」戦闘機隊隊長の声が機上レシーバー越しに飛び込み、マクラスキー機を始めとする「ヨークタウン」艦爆隊も機体間隔を詰め始めた。


 ラバウルまでの距離が40海里を切ったところで前方の空域に異変が起こった。


 前方に銀色に輝く小さな点が多数出現し、第2次攻撃隊を包み込むようにして散開した。


 日本海軍主力戦闘機のジークで間違いないだろう。


 編隊から約30機のF4Fが分離して攻撃機の前に進出し、そこに多数のジークがエンジン音を蒼空に轟かせながら猛速で突進してくる。


 ジークの両翼から真っ赤な太い火箭が噴き伸びF4F1機を貫くが、その頃には2機のジークがF4Fから放たれた12.7ミリ弾の投網に搦め捕られて撃墜の憂き目に遭っている。


 僚機の被弾を見てもジークが怯むことはない。


 宙返りなどのテクニックを駆使して巴戦の要領でF4Fと格闘戦に持ち込み、20ミリ弾、7.7ミリ弾を撃ち込む。


 F4Fの迎撃を振り払ったジーク10機以上が「ヨークタウン」爆撃隊の方向に機首を向けてきた。


「弾幕射撃!」


 マクラスキーが膝下全機のドーントレスに弾幕射撃を命じ、1機当たり2挺が装備されている12.7ミリ機銃から機銃弾がぶちまけられる。


 不用意に爆撃隊に真っ正面から突進してきたジーク3機が立て続けに火を噴いて高度を落とすが、その後方にいたジークが順次機体に発射炎を閃かせながら猛速で離脱していった。


「6番機被弾! 8番機被弾!」


 マクナサスが悲鳴混じりの声で部下の被弾を知らせてくる。この「ヨークタウン」爆撃隊は開戦以来ずっと最前線で戦っていた部隊であり、その搭乗員には腕利きが揃っている。


 そのベテラン搭乗員が操るドーントレスが2機容易く撃墜されたのだ。


 戦闘機と艦上爆撃機との根本的な差に歯噛みせずにはいられなかった。


「後方からきます!」


「おう!」


 バックミラー越しに後方から追撃をかけてくるジークを確認したマクラスキーは操縦桿を思いっきり前に倒した。


 後方からは機銃の連射音が聞こえてくる。マクナサスが機体後部の7.7ミリ旋回機銃で必死の反撃を試みているのだろう。


 ドーントレスがお辞儀をしたかのように降下を開始し、ジークから放たれた射弾が悉くマクラスキー機の上を通過していく。


「横からジーク! 1個小隊規模!」


 再び敵機を視認したマクナサスがマクラスキーに警報を送り、マクラスキーは反射的に横に振り向いた。


「あっちからもこっちからも!」


 マクラスキーは罵声を放ったが、ドーントレスは降下機動から立て直したばかりであり、機体の自由が思うように効くような状態ではなかった。何よりもドーントレスは横方向の攻撃に対して有効な対抗手段を一切持たないのだ。


「・・・!!」


 マクラスキーは直感的に被弾・墜落を覚悟したが、マクラスキー機とジークとの間に新たな機影が割り込んできた。


 ドーントレス爆撃隊の危機を見たF4Fが救援に赴いてくれたのだった・・・




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