第58話 訪れた戦機
1943年5月7日
「もう少しで米軍の大艦隊が行動を開始しそうです」
ラバウルに展開していた第24航空戦隊からその規模を拡大させた第13航空艦隊の参謀長に任じられている富岡定俊少将が言った。
13航艦の司令部壕は第1飛行場の側に設けられており、13航艦司令長官大西瀧次郎中将、首席参謀入船直三郎大佐、更に陸軍側から第3飛行師団航空参謀片山当夜大佐が参集していた。
日本軍内に置ける陸海軍の対立構造は極めて深刻な物であり、内地の参謀本部や軍令部での会議では殴り合い・怒鳴り合いが恒常的になっていたが、このラバウルに展開している航空部隊に置いては互いの尽力によって協力態勢が形成されつつあったのだ。
「ハワイ方面の偵察任務に出撃していた伊号潜水艦からの報告によりますと、米軍の空母・戦艦多数を含む大艦隊がオアフ島に集結しているとの事です。早ければ2週間以内に大きな動きがあるかもしれません」
「ガダルカナル島に展開している米基地航空隊の活動も活発的になってきたしな」
富岡が言葉を続け、大西が呟いた。
昨年8月を境に小康状態になった航空戦だったが、1ヶ月前のB17の空襲再開を皮切りにして2日乃至3日置きのペースで重爆部隊がラバウルに来襲するようになった。
昨年までは例がなかった夜間空襲も行われるようになり、夜間戦闘機「月光」などが迎撃に当たっているものの飛行場に損害が発生してしまう事がしばしばだった。
「GF司令部から警報が入っていましたが、米軍は間違いなくラバウルに来襲してくるでしょう」
「昨年の第2次珊瑚海海戦では米艦隊にかなりの打撃を与えている。ラバウルの効力作戦に取りかかれるほど米軍の戦力は回復しているのか?」
大西が質問をぶつけ、その質問には入船が答えた。
「GF司令部からの報告によりますと敵がラバウル攻略に投入してくる戦力は正規空母、小型空母合わせて7隻乃至8隻、艦上機の総数600機程度だと見積もられています」
「600機か・・・」
大西は13航艦膝下の飛行隊が記されている編成表を見つめた。
13航艦は元々ラバウルに展開していた第24航空戦隊を中心として再編された部隊であり、大本営・軍令部がラバウル戦力集中案を採用してから大幅にその戦力が強化された。
13航空戦隊膝下には現在24、25、26航戦、第1特航戦があり、その総装備機数は433機にまで達している。
装備機も従来の零戦21型から零戦32型に更新されつつあり、第1特航戦の陣風も強化型が一部配備されていた。
「我が陸軍航空部隊も米軍機動部隊を撃退するのに十分な戦力を有しています」
ここで第3飛行師団から13航艦司令部に派遣されてきた片山が口を開いた。
このラバウルには海軍航空隊だけではなく陸軍航空隊も展開している。
第3飛行師団の装備機数は99機であり、装備機は全て最新の2式戦闘機「鍾馗」で固められていた。
陸海軍合計532機という戦力はこれまでのラバウル航空隊と比較すると比べものにならないくらいの大兵力であり、来襲される米機動部隊の戦力にそう劣らない機数だと考えられた。
「ラバウル防衛の初期段階は基地航空隊の独力で戦線を支える必要がある」
大西が話を開始し、作戦概要の確認を開始した。
「第1航空艦隊はトラック環礁に待機しており、ラバウルに救援にくるまでどうしても2~3日程度かかってしまう。13航艦と3飛師はこの2~3日の間ラバウル上空の制空権を維持し続けなければならない」
「そう考えるとやはり1日目が最も重要ですな。戦闘機隊が多数の敵空母艦載機を叩き落として敵に出血を強要することが叶えばラバウル防衛の希望が見えてくるかもしれません」
「懸念事項としては敵水上砲戦部隊の存在が上げられますが、それもラバウル沿岸に多数配置されている重砲を持ってすれば十分に対応可能だと考えます」
片山が話を続け、大西に対して思い出したように質問をぶつけた。
「師団長の川崎(第3飛行師団師団長川崎連吾中将)に聞いてこいといわれたのですが、迎撃戦に置ける陸海軍機の迎撃順はどうなっていますか?」
「陸軍さんの機体にはラバウル上空での防空戦に専念してもらう予定だ。迎撃戦の先鋒は海軍機が務める」
大西は答えた。
「それと陸軍機が被弾損傷して緊急着陸する際には海軍の飛行場であっても降りてくれてかまわん。陸海軍の相互協力によって稼働機を1機でも多く保たねばならんからな」
「心遣い感謝いたします。その逆の場合でも陸軍飛行場が対応できるように本官の方から手配しておきます」
大西は頷いた。
「なんとしてもラバウルを守り切らなければならない。このラバウル防衛戦の成否こそがこの戦争の帰趨を決定づけるものだと本官は確信している。参謀長を始めとする各々も自分の役割を十分に理解して本分を尽くして貰いたい」
大西がこう言って会議を締めくくった。
事前にやれるだけの事はやった。後は来襲してくる米艦隊を真っ正面から迎え撃つのみであった。
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