第7章 風雲1943年
第53話 連合国の思惑
1943年4月
1
アメリカ合衆国大統領フランクリン・D・ルーズベルトの提案によって大西洋上で米英の首脳会談が実現したのは1943年4月8日の事だった。
会談場所はサウスダコタ級戦艦のネームシップである「サウスダコタ」が選ばれた。「サウスダコタ」は竣工以来大西洋に配備されていたが、この日のためだけに特別な貴賓室が設けられていた。
貴賓室に設置されていた高級そうな椅子に2人が腰を下ろすとルーズベルトは早速本題を切り出した。
「さて、年も1943年に入り我が国の生産能力は頂点に達しようとしています。我が国としては1943年中に南太平洋に居座っている日本軍を撃滅したいと考えるのですが・・・・」
「・・・」
このルーズベルトの話の切り出し方でイギリス首相ウィンストン・チャーチルはルーズベルトがこれから言わんとしている事を半ば悟ったが、チャーチルは無言で話の続きを促した。
「ですが南太平洋に展開している日本海軍を始めとする日本軍は強敵であり、米軍、いや、連合軍としては非常に難しい局面に突入しようとしています。この局面を突破するために是非とも貴国のお力添えをお願いしたい」
「いやいや、貴国の生産能力の増加に関しては私も力強いと思っております。貴国の力を持ってすれば我が国の助力など必要ないのではないですか?」
チャーチルは話の論点をすり替えようとしたが、ルーズベルトはチャーチルを逃がさなかった。
「いや、流石に空母といった大型艦はまだ数が揃っていません。貴国の空母部隊が太平洋戦線に参戦してくれたらどんなに有り難いことか」
「・・・つまり我が国が保有しているイラストリアス級空母4隻を借りたいということですな?」
「流石首相は察しが良いですな。出来れば4隻全て貸与してくれると有り難い。なに、貸与期間は1年もあれば十分です」
ルーズベルトは首を縦に振った。
この時チャーチルは内心呆れかえっていた。大英帝国が米国から大量の援助を受けているという事実を勘案すると空母貸し出しの提案を完全に断り切る事はできないが、それにしても「4隻全て」というのはまるで我が国の事を何も考えていないような提案である。
というものの、「ティルピッツ」を始めとする艦を保有しているドイツ海軍に対抗するために最低1隻乃至2隻程度の空母は本国に置いておく必要があるからだ。
「我が国と貴国の空母部隊で共同戦線を築こうという大統領の提案は非常に魅力的ではあります。しかし、4隻全てというのはいくら何でも無理筋です」
チャーチルは4隻全て貸与の可能性を完全に否定したが、わざわざ大西洋くんだりまでやってきて会議をセッティングしたルーズベルトがこれしきで引く事はなかった。
「やはり空母戦力というのは集中運用が何よりも肝要です。どうしても無理ですか?」
「ダメです。4隻全てを太平洋に派遣した場合、本土がガラ空きになってしまい最悪ドイツ軍の上陸を許してしまう羽目になってしまうかもしれませんから」
チャーチルはそう言い放った。まあ、1943年に入る頃には欧州戦線は「攻める連合国」対「守りに徹する枢軸国」という構図になっており、たとえ4隻全てを太平洋に派遣したとしてもドイツ軍がイギリス本土に上陸してくる可能性は皆無なのだが・・・
「まあ、2隻でどうですか?」
このままではお互いの言い分に溝があり埒があかないと思ったチャーチルは折衷案を提示したが、2隻でルーズベルトが納得することはなかった。
「・・・3隻ですな。貴国にはこれまで以上の手厚い支援をこの場で約束しましょう」
ルーズベルトが半ば凄むような話し方で言い放ち、チャーチルもここが落とし所だと直感的に感じた。これ以上ルーズベルトと意見の摩擦が続いてしまうと米国からのレンドリースの縮小といった最悪の事態を引き起こしてしまう可能性があるからである。
ここはチャーチルが大英帝国のために折れるべき場面であった。
「分かりました。3隻派遣いたしましょう!」
「有り難い! これで日本軍を完璧な形で叩き潰す事ができる!」
最後にルーズベルトとチャーチルががっちりと握手し、会議の議題は終わったのだった。
2
ルーズベルトとチャーチルが大西洋上で会談を行っていた頃、遠く離れた日本本土では1隻の軍艦が帝国海軍に編入され、慣熟訓練のために外海へ出港しようとしていた。
空母「鳳龍」
「鳳龍」は「加賀」や翔鶴型空母とは違い純日本製の空母ではない。去る去年の戦い(第2次珊瑚海海戦)の際に日本軍によって鹵獲されたヨークタウン級航空母艦「ホーネット」の生まれ変わりである。
「ホーネット」は横須賀海軍工廠で修理・改修が行われた後に「鳳龍」と命名され、菊の御紋章が取り付けられたのだ。
「鳳龍」(鳳龍型航空母艦)
全長 247メートル
最大幅 32.7メートル
基準排水量 19800トン
速力 33ノット
兵装 12.7センチ連装高角砲8基16門
25ミリ3連装機銃10基30挺
搭載機数 零戦44機、99艦爆20機、97艦攻26機
同型艦 なし
「鳳龍」は第2次珊瑚海海戦で戦没した「赤城」と比較すると基準排水量では1万トン以上見劣りする空母であったが、その搭載機数は常用90機と「赤城」の3割増しと空母の理想型を具現化したような空母であり、これからの戦いでの大いなる活躍が望まれている空母であった。
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第7章始まりました。
消耗戦となる1943年ラバウルの戦いが幕を開ける!
日米双方で空母戦力増強の動きがある中、米海軍が放つ次の一手とは――?
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霊凰より
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