第45話 航空戦から砲撃戦へ
1942年8月7日
1
「エンタープライズ」沈没、「ホーネット」大破航行不能の損害を受けた米機動部隊に第3次攻撃隊を出撃させる余力はなく、第3次攻撃隊を出撃させたのは日本側のみだった。
「飛龍」「隼鷹」「龍驤」の3空母から発進した攻撃隊の総勢61機。第1次、第2次攻撃隊の機数と比較すると半数以下でしかなかったが、搭乗員連中の士気は極めて旺盛であった。
そして彼らは発見された米機動部隊に対して果敢に突っ込んでいったのだった・・・
2
「おおお・・・! 神のご加護だ・・・!」
空母「ホーネット」艦長トーマス・B・ブュエル大佐は自分がまだ生きている事に心から感謝していた。
午前中の日本軍機動部隊からの空襲によって爆弾5発、魚雷2本を喰らった「ホーネット」はダメージ・コントロールチームの献身的な奮戦によって沈没を回避することに成功した。
だがその速力は僅か4ノット程度まで低下してしまっており、殆ど航行不能の状態といっていい有様であった。
そこに日本軍の新たな攻撃隊が接近しているとの報告を受けたとき、トーマスを始めとする「ホーネット」の全乗員は「ホーネット」の沈没を覚悟した。
しかし、TF21ー1に来襲した敵機は30機程度であり、唯一無傷を保っているTF21ー3の「ワスプ」から発進したF4Fの迎撃を突破して輪形陣の内部に侵入してきた敵機は20機程度だった。
そして、敵機の大部分を「コロラド」が吸収したという事も相まって、「ホーネット」は500ポンド爆弾1発直撃のみの損害でこの空襲を切り抜けた。
艦は右舷に8度以上傾斜しており、飛行甲板の前部で新たに発生した火災の消火活動に追われているような状況であったが、取りあえず「ホーネット」は沈没の危機を回避したのだ。
「副長、艦の状態はどうなっている?」
「はい。消火活動後の各部署からの報告を合算すると、まず飛行甲板は勿論使用不能、3基の機体用エレベーターの内2基完全破壊乃至陥没。格納庫に搭載されてた搭載機は全損。海面下は推進軸2基損傷、缶室4缶放棄となっています」
トーマスの質問に対して副長が疲れた顔で答えた。ボロボロになった「ホーネット」の応急修理に何時間も追われていたためその疲労は極地に達している事であろう。
しかし、今は「ホーネット」のためにまだまだ頑張って貰う必要があった。
「浸水状況はどうなっている?」
トーマスは一番気になっていた事を副長に聞いた。「ホーネット」の浸水状況によっては艦を放棄せざるを得ないような状況に陥るかもしれないからだ。
「現在の推定浸水量は約1600トン。浸水は艦の艦首部分に集中しており本艦の艦首は大きく沈み込んだ状態となっています。」
「艦内隔壁の補強は上手くいっているのか?」
「命中した魚雷の当たり所が悪かったせいで隔壁を補強しても水圧によって叩き潰された箇所が何カ所か発生しました。今の僅かずつではありますが浸水は拡大してきていると考えるべきです」
副長の声のトーンが落ちた。最善を尽くしたのにも関わらず浸水を完全に止め切れていない事に責任を感じているのだろう。
「クエセリン環礁に戻るのは無理だな。オーストラリアに逃げ込む事もできない」
「現実的に考えてポートモレスビーに逃げ込むのが精一杯でしょうな。それでも成功率は5割を切っていると考えますが・・・」
今の「ホーネット」の状況鑑みるに沈没を回避するならポートモレスビーに入港(実質座礁)するしかなかったが・・・
「日本軍がポートモレスビーに上陸してきたとき不味くないか?」
そう言ったトーマスは思案顔になった。作戦前から日本軍が海戦に乗じてポートモレスビーに上陸・占領する可能性については考えられており「ホーネット」がポートモレスビーに入港した場合日本軍に鹵獲されてしまう可能性があった。
トーマスの意見に対して副長が言葉に詰まった時、辛うじて生きていた艦隊電話からTF21司令長官のウィリアム・ハルゼー少将からの命令が飛び込んできた。
「司令部より命令電です!『「ホーネット」はポートモレスビーに入港されたし。日本軍のポートモレスビー占領の目論見は戦艦部隊によって粉砕する』との事です!」
「それがハルゼー長官のお考えか。よし、何としてもこの艦をポートモレスビーまで入港させるぞ!」
ハルゼーからの命令電によってトーマスの腹も固まった。
約1時間後に火災が完全に鎮火した「ホーネット」は駆逐艦「ワトソン」に航行の補助をして貰いながらポートモレスビーに艦首を向けた。
「ホーネット」の速力はあれから浸水によって更に低下し3ノットになってしまっていたが、幸いなことに時刻は午後5時を回っており日本軍機の更なる来襲を考慮する必要はなかった。
日本海軍に随伴している戦艦はイセタイプ2隻、コンゴウタイプ2隻との報告が入っており、戦艦3隻を擁するTF21と戦力的にはほぼ互角だった。
この日米戦艦対決に「ホーネット」の命運はかかっているといってよく、トーマスとしても戦艦部隊の勝利を願わずにはいられなかった・・・
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第5章終了です。
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霊凰より
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