第42話 索敵攻撃
1942年8月7日
「赤城」「瑞鳳」の両艦が消火活動と被弾箇所の修理に追われていた頃、索敵攻撃を実施していた日本軍第2次攻撃隊はF4Fの激しい迎撃を受けていた。
第2次攻撃隊に随伴していた零戦48機がF4Fから99艦爆・97艦攻を守るべく空中戦を展開していたが、攻撃機にも撃墜される機体が出始めているような状況であった。
「1次の連中が叩いた部隊はあれだな」
第2次攻撃隊132機の総指揮を委ねられている「赤城」艦攻隊長村田重治少佐は風防越しに海面を見下ろしながら呟いた。
「間違いありませんね。何隻かの艦艇は火災煙を噴き出しています」
操縦席に座っている遠藤進飛曹が言った。
そこには確かに米機動部隊の1群が展開していたが、その内の何隻かは火災煙だ立ち上っていたり、艦が大きく傾斜していたりした。
第1次攻撃隊が攻撃を仕掛けた部隊で間違いないだろう。
「F4Fが来た方向に別の敵部隊がいるはずだ。ここはこらえ時だ」
村田はそう言った。村田自身もF4Fの執拗な迎撃に晒されているこの状況下でまだ無傷の敵部隊が視界に入ってきていない状況に村田も内心焦り始めていたが、村田が焦っても何も状況が好転する訳ではなかった。
今は零戦隊を信じてひたすら進撃するのみであった。
前方では零戦とF4Fの激しい空中戦が続いていた。
零戦の両翼に真っ赤な発射炎が閃き、20ミリ弾の太い火箭がほとばしる。
コックピットに直撃を受けたF4Fが、風防ガラスの破片をまき散らしながら海面に突っ込み、燃料タンクを粉砕されたF4Fは空中で即座に爆散する。
F4Fは旋回や宙返りなどの技術で零戦の回避を試みるが、格闘性能もF4Fよりも零戦が勝っている。F4Fの機動に容易く追随した零戦がF4Fの後方から銃弾を撃ち込み、胴体を引き裂かれたF4Fがジュラルミンをばらまきながら1機、2機と墜落していく。
零戦隊を無傷では済まない。
F4Fとの真っ正面からの勝負によって多数の12.7ミリ弾に蜂の巣にされてしまった零戦が白い煙を吐き出しながら墜落していき、エンジンを完全に破壊された零戦がうなだれたかのように海面へと突っ込む。
F4Fの何機かが零戦を振り切って艦攻隊に向かって来た。
F4Fの両翼から火箭が放たれる直前、遠藤が操縦桿を思いっきり左に倒した。
正面から接近してきたF4Fが視界の右に流れ、97艦攻の左側を青白い奔流が通過していった。
狙いを外したF4Fが次々に村田機の上方を通過していく。
「グラマン反転! まだ来るぞ!」
97艦攻の偵察員でもある村田は遠藤に対して警報を送った。
先程村田機の上方を通過していったグラマンが水平旋回をかけて再び後方から突っ込んできたのだ。
「喰らえ!」
村田は機銃の発射柄を強く握った。
97艦攻唯一の火器である後部7.7ミリ旋回機銃から細長い火箭が噴き伸び、F4Fに突き刺さる。
7.7ミリ弾を撃ち込まれたF4Fは僅かにグラつくが、墜落には程遠い。グラマンの重防御に対して7.7ミリ機銃は非力すぎるのだ。
「富田機被弾! 狩野機被弾!」
「『蒼龍』隊、『飛龍』隊にもグラマンが取り付いています!」
村田が7.7ミリ機銃の射撃に夢中になっている間に遠藤が味方機の状況を知らせてきた。どうやらグラマンに狙われているのは「赤城」「蒼龍」「飛龍」の99艦爆・97艦攻らしい。
「グラマン来ます!」
今度は正面から2機のF4Fが接近してきた。
高度上の優位はグラマン側が占めており、村田は直感的に被弾を覚悟したが、F4Fから12.7ミリ弾が放たれる前に真っ赤な太い火箭がF4Fの下腹に突き刺さった。
20ミリ弾の痛烈な一撃を撃ち込まれたF4Fが村田の視界から消え、零戦が高らかなエンジン音を轟かせながら上昇していった。
「ありがたい!」
艦攻隊の窮地を見て援護に回って来てくれた零戦がいたのだ。
僚機を墜とされたF4Fは急降下によって慌てたように離脱していく。
「隊長! 前方に敵艦隊!」
「いたか!」
約15海里前方に多数の航跡が見える。分散して展開しているだろうと予測されていた米機動部隊の1群で間違いないだろう。
グラマンはなおも追いすがる。
「小野寺機被弾! 佐藤機被弾!」
「赤城」艦攻隊の被害が拡大してくる。「赤城」艦攻隊の定数は18機のため、これで4分の1弱を失った計算となる。
零戦隊の奮戦によって迎撃に出撃してきたF4Fの内半数程度は既に撃退されていたが、高度3000メートル付近を進撃していた艦爆隊は既に3割以上の犠牲を出してしまっていた。
新たに発見された敵艦隊との距離が近づくにつれ、その陣容がはっきりとしてくる。
輪形陣の真ん中に平べったい艦上構造物を持つ大型艦が1隻、主砲塔が4基乗せられている大型艦が1隻、巡洋艦・駆逐艦が10隻以上。
「艦爆隊加速します!」
遠藤から報告が飛び込んできた。
「蒼龍」「飛龍」の艦爆隊の速力が上がった。
グラマンによる執拗な迎撃によってかなりの戦力を失ってしまった艦爆隊ではあったが、その闘志は全く衰えていないようだった。
1番機を先頭として1本槍で輪形陣に突っ込んでいく。
やがてグラマンが離脱していく(対空砲火による味方撃ちを防ぐため)。
ここからは敵艦との勝負であった・・・
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