第41話 2空母被弾

1942年8月7日


 「隼鷹」「龍驤」の2隻が被弾・被雷を回避したタイミングで1航戦「赤城」「瑞鳳」の2隻にもドーントレス・アベンジャーが殺到しようとしていた。


 「赤城」は八八艦隊計画での天城型巡洋戦艦の艦体を、「瑞鳳」は給油艦の艦体を改装した艦であり、いずれも他艦種から改装された空母だ。


 「赤城」は基準排水量3万トン越え、「瑞鳳」でも基準排水量1万トン越えの巨艦であるだけに転舵にかかるまでの時間は長かったが、それからの動きは非常に滑らかだ。艦首が振られ、海面を切り裂いて転舵を開始する。


 「赤城」「瑞鳳」を肉薄にしてくるドーントレス・アベンジャーに対して周囲の護衛艦艇が砲門を開く。


 「筑摩」が20センチ主砲と艦の両舷に備え付けられている12.7センチ高角砲を振りかざし、第1水雷戦隊の「不知火」「霞」「霰」がそれに続く。


 20センチ砲弾の弾着によって発生した水柱に叩きつけられたアベンジャー2機が跡形もなく消え、上空では高角砲弾の至近炸裂によって胴体を切り刻まれたドーントレスが1機、2機と編隊から落伍していく。


 「赤城」「瑞鳳」にも射撃開始の時がやってくる。


「射撃開始!」


「高角砲、射撃開始!」


 「赤城」艦長青木泰次郎大佐と「加賀」艦長大林末雄大佐が命じ、両艦の飛行甲板の縁を埋め尽くさんばかりの勢いで発射炎が閃いた。


 「赤城」の20センチ単装砲6門、12センチ連装高角砲6基12門と「瑞鳳」の12.7センチ連装高角砲4基8門が次々に火を噴き、海面付近から接近してくるアベンジャーに対して射弾を浴びせる。


 海面付近に景気よく多数の爆煙が踊るが、墜落するアベンジャーはいない。「赤城」「瑞鳳」は現在転舵している真っ最中のため対空砲火の命中率が極端に低下してしまっているのだ。


 数機のアベンジャーが爆風で煽られながらも全機が「赤城」「瑞鳳」の下腹に魚雷をぶち込まんと迫ってくる。


 彼我の距離が2000メートルを切ったところで、高角砲のそれとは異なる小さな発射炎が多数アベンジャーに向かって突き進んでいった。


 今回の作戦前に大幅な増設が実施された25ミリ3連装機銃が射撃を開始したのだ。


 機銃弾がアベンジャーの真っ正面から殺到し、2機がその火箭に捉えられる。


 コックピットを粉砕されたアベンジャーが海面に滑り込み、翼を粉砕されたアベンジャーが駒のように回転して荒波に飲み込まれる。


 機銃群の戦果はそこまでだった。


 「赤城」を狙っているアベンジャー4機、「瑞鳳」を狙っているアベンジャーが3機投雷し、7条の雷跡が海面下をひた走った。


 投雷を終えたアベンジャーが行きがけの駄賃と言わんばかりに飛行甲板に向かって機銃弾を撃ち込むが、「赤城」「瑞鳳」の全乗員の神経は迫りつつある雷跡に集中していた。


 砲術長の命令で高角砲弾、機銃弾が海面に向けて斉射される。


 命中弾によって魚雷の弾頭を破壊しようとしているのだ。


「本艦右舷を1本通過! 前方を1本通過!」


「後方から接近してきていた魚雷消えました。沈降した模様!」


 以上のような報告が両艦の艦橋に飛び込み、両艦の舷側に魚雷命中の水柱が奔騰することも、艦首が喰い千切られることもなかった。


 艦長以下の全乗員の奮戦によって「赤城」「瑞鳳」の2艦は魚雷を全て回避することに成功したのだ。


 しかし・・・


「ドーントレス急降下! 10機以上!」


「敵機急降下!」


 両艦がアベンジャーの対応に追われている間に降下点に取り付いたドーントレスが1番機から急降下を開始したのだ。


 機数は非常に多く、その機数は20機を遙かに超えていた。


 「赤城」「瑞鳳」の高角砲がドーントレスに狙いを切り替え、2000メートルから3500メートルの高度に次々に爆発光が走り、黒い爆煙が湧き出す。鋭い弾片が猛速で飛び交い、ドーントレスの機体を切り刻む。


 やがて機銃群も対空射撃に加わり最終的に3機のドーントレスの撃墜に成功したが、残りの機体は「赤城」「瑞鳳」に迫る。


 ダイブ・ブレーキ音が爆音に変わり、ドーントレスが次々に機首を引き起こした。


 投弾を終えたドーントレスが「赤城」「瑞鳳」の飛行甲板を掠めるように離脱していき、落下してくる1000ポンドクラスの爆弾がその光景に重なった。


 「赤城」に対して投下された1発目の爆弾は艦の右舷に弾着し、艦橋の高さを遙かに超えるような長大な水柱が奔騰する。


 続く2~6発目は「赤城」の周囲に落下し、全て外れとなる。


 だが、7発目の爆弾が弾着したとき、「赤城」の飛行甲板から火焔が湧き出した。


 爆弾命中の衝撃によって「赤城」の艦体がバラバラにならんばかりの勢いで横揺れし、きしむような音が艦の各所から発生した。


 「赤城」に対する命中弾は1発だけには止まらない。もう1発が艦の後部に吸い込まれ、最後の9発目もまた艦の中央部に命中する。


 艦が立て続けに振動に襲われ、それが収まった時「赤城」の惨状が明らかになった。


 飛行甲板の3カ所に大穴が穿たれ、そこから盛んに火災煙が立ち上っていた。命中した爆弾は飛行甲板を貫通して格納庫内で炸裂したのだろう。


 そして同じ頃、1航戦の僚艦の「瑞鳳」の艦上からも火災煙が立ち上っていた。


 「瑞鳳」には1発の爆弾が命中し、左舷に取り付けられていた高角砲1基、機銃座2基が抉り取られたのだ。


 第1次攻撃隊によって先手を取ったかのように思われた1航艦ではあったが、ここにきて2隻の空母に傷を付けられてしまったのだった・・・

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