第19話 司令部会議

「只今の空襲でも来襲機数はF4F50機、A20『ハボック』40機です」


 参謀長の雨貝結城少将は直立不動の姿勢で報告を始めた。


「空襲で狙われた飛行場は一カ所だけだな?」


「はい。南の第2飛行場に500ポンドクラスと思われる爆弾が20発以上命中し、滑走路が大破した他、指揮所、整備小屋、油脂庫などの建物にも被害が生じたとの報告が入ってきています。現在第2飛行場に配置されている設営隊が復旧作業を開始していますが、飛行場が使えるようになるまで3日程度かかるとの事です」


 郡山の質問に対して雨貝は淡々と答えた。ラバウルに対する発の敵機来襲という事態に対して24航戦の司令部は浮き足立っている感があったが、そんな中でも雨貝は冷静さを保っており、事実を淡々と報告していた。


 郡山は視線を雨貝から机に置かれているラバウルの全体地図に移した。第2飛行場の場所には斜線2本が引かれており、使用不能になっている事を表していた。


「それにしても、零戦隊の奮戦は凄まじかったです。ラバウルという慣れない土地にいるにも関わらず搭乗員達は皆良く頑張ってくれています」


 首席参謀の原田暖人大佐が顔を僅かに綻ばせながらいった。原田は元は搭乗員出身の士官であり、それだけに搭乗員達の活躍が我が身の事のように嬉しかったのであろう。


「来襲した敵機の内、F4F18機撃墜、A20『ハボック』13機撃墜で、それに対する我が方の未帰還機は零戦19機です」


 雨貝は原田の話にタイミングを合わせるように報告を続けた。


「司令としては搭乗員達の多大なる活躍は心強い限りだな」


 郡山が呟いた。90機以上もの敵大編隊に襲われたのにも関わらず、被害が3カ所の飛行場の内、1カ所に留まったのも戦闘機隊の活躍に負う所が大きかった。


「零戦隊を始めとする戦闘機隊は後何機残っている?」


 郡山が再度疑問を提起した。郡山は米軍の性格からして今日の内に空襲が後1~2回繰り返されると思ったのだ。


「この第1飛行場と北の第3飛行場に第203航空隊と第205航空隊、それと米軍機装備の第1特別航空隊も出撃準備を完了しています」


 原田が答えた。


 第203航空隊は稼働機46機、第205航空隊は稼働機43機、第1特別航空隊の稼働機は19機であり、かれらの機数を合計すると100機を超える。米軍の空襲に立ち向かうのに十分な戦力と言えた。


「100機を超える稼働機があるなら、敵の空襲の1度や2度、跳ね返す事ができます」


 原田が自信ありげな様子で言ったが、郡山の意見は少し異なっていた。


「確かに今日の空襲に限った事なら大佐の言うとおりであろう。しかし、それ以降の事を考えた時ちと厳しいな。かの国と違って我が国は補給が直ぐにきく訳ではにからな」


「・・・失念しておりました。確かに司令の言うとおりですな」


 原田も郡山が言わんとしている事を認めた。原田の頭の中にも郡山の頭に浮かんでいる光景が同様に浮かんだのであろう。


 郡山の言うとおり、これからポートモレスビーの米軍基地航空隊からの空襲が繰り返されるとラバウル航空隊そのものがすりつぶされてしまう可能性がある。1週間、2週間の戦いで稼働機が0になることは考えにくいが、徐々にジリ貧になるのは確実であった。


「・・・前線部隊として出来ることは全てやるつもりですが、内地の方にもレーダーサイトの設置などの防空力強化を要請する必要がありますな」


「できれば、追加の航空隊の配備もしてほしいところですが、飛行場の能力を超えてしまうので、まずは飛行場を拡充する必要がありますな」


 原田が続けさまに自分の意見を述べた。そのどれもが必要な事だと思われたが、今直ちに取りかかれる事ではなかった。


 もっと深い議論が必要だなと郡山が考え、議論を広げるために口を開こうとしたとき、敵機来襲を知らせるブザーが再びラバウルに鳴り響いた。


 敵機の第2波が来襲しようとしているのだろう。


「・・・よし、とりあえず今は敵機の大編隊を撃退してラバウルを死守しなければならぬ。先程に迎撃戦に参加しなかった3個航空隊に出撃命令を下せ」


 郡山が凛とした声で命じた。

 

 本日2回目の戦いの始まりであった。



 本日2回目のラバウル空襲に訪れたのは、米海兵隊膝下の第702航空隊所属のF4F・A20であった。第702航空隊はポートモレスビーの米軍飛行場に展開している5個航空隊の内に一つであり、この出撃ではF4F・A20合わせて110機が出撃していた。


「『トール1』より全機へ、前方45海里にラバウル!」


「『ミョルニル1』より『トール1』、本隊落伍機無し」


 「トール」ことF4F戦闘機隊隊長のフランク・ノックス少佐が攻撃隊全機に号令をかけ、それに爆撃隊隊長のジョージ・H・ゲイ・ジュニア少佐が反応した。


「戦闘機隊にも落伍機はいない。ポートモレスビーから出撃して落伍機が一機もいないとは我が航空隊の練度は流石だな」


 ノックスは満足そうに微笑んだ。


 ノックスはこの攻撃隊がラバウルの日本軍飛行場に必殺の鉄槌を叩き込むものだと信じて疑わなかった。

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