第20話 爆撃隊驀進

「目標まで43海里・・・41海里・・・」


 「ミョルニル1」こと爆撃隊隊長のジョージ・H・ゲイ・ジュニア少佐は編隊の先頭に立ち誘導を続けていた。


 この距離では攻撃目標のラバウルの稜線すら見えない。F4FとA20合計110機の編隊は、エンジン音を高らかに轟かせながら、広大な南太平洋の海原をひたすら進撃している。


「『ミョルニル1』より爆撃隊全機へ。そろそろジャップの航空機が現れる頃合いだ。各機機体間隔を密にして警戒を厳かにせよ」


 ジュニアはこのタイミングで爆撃隊に対して注意を与えた。ラバウルに対する航空攻撃は今日が初めてであり、どのような戦いになるかは分からなかったが、用心するに超した事はなかった。


「『ミョルニル9』了解」


「『ミョルニル17』了解」


 編隊各機から返答が直ぐさま返される。


 そして、次の瞬間・・・


「右前方敵機!」


「じょ、上方から敵機編隊急降下してきます!」


 2方向からの敵機の出現が報告されたが、ジュニアは反射的に「急降下」という言葉に反応し上を見上げた。


 ジュニアが上を見上げたときには、1機のA20がその機体に火炎を踊らせて墜落コースに入っていた。


 爆撃隊に対して急降下をかけてきた敵機が次々に離脱していく。


 何とその機影は、親の顔より見たF4Fのそれであった。


「・・・はっ!? なんでF4Fが我が隊に襲いかかってきているんだ!?」


「『トール1』より『ミョルニル1』! 襲いかかってきている敵機は日本軍に鹵獲されたF4Fだ! コード名は『陣風シーフ』!」


 F4F戦闘機隊隊長のフランク・ノックス少佐がジュニアの疑問に答えるかのように無線レシーバーを通して新たな情報を寄越してきた。


 ジュニアは知らなかったが、日本軍に鹵獲されたF4Fの機体の一部が日本軍の戦闘機として活用されているらしい。


「『ミョルニル1』より爆撃隊全機へ。現在襲いかかってきている敵機は日本軍もF4Fなり! 機体に書いてある日の丸マークで判別されたし!」


 ジュニアが警報を発する。


 最初の一撃を喰らってしまった米側だったが、周囲ではF4Fが次々に反撃に移りつつあった。


 急降下していったシーフに対してF4Fに追いすがろうとする機体があり、前方に現れた敵機に対応するために爆撃隊の前に展開するF4Fもある。


 シーフの背後に取り付いたF4Fが、次々に発射炎を閃かせる。4挺の12.7ミリブローニング機銃から放たれる射弾はさながらアラスカの猛吹雪のようだ。


 シーフが旋回や上昇のような機動で射弾を回避していくが、2機のシーフがその猛吹雪に捉えられる。


 無数の12.7ミリ弾が機体を風穴だらけにして致命傷を与えたのだろう、そのシーフは小爆発を起こしながら高度を落とし、やがて視界から消えていく。


 機体のコックピットに痛烈な一撃を喰らったシーフは搭乗員席が血の泥濘に変わる。


 先手を取られてしまったF4Fではあったが、果敢に反撃し2機のシーフを撃墜して見せたのだ。


「前方から零戦ジーク! 50機以上!」


 ジュニア機の偵察員からの警報が耳に入ってきた。


 50機以上のジークが一斉に爆撃隊に対して突撃を開始し、それに反応したF4Fの一部が編隊から離脱して果敢に立ち向かう。


 発砲はジークの方が早かった。


 開戦劈頭のフィリピン戦で重爆B17を含む多数の米軍機を屠った20ミリ機銃から機銃弾が放たれ、F4Fに殺到する。


 高威力機銃弾に胴体を掻き裂かれたF4Fが3機爆散し、2機が機体を翻して戦線から離脱する。


 F4Fも反撃の射弾を放つが、それに搦め捕られるジークの機数は少ない。F4Fよりも遙かに身軽で俊敏なジークはF4Fの射弾の悉くを躱しているのだ。


 ジーク大群とF4F戦闘機隊が乱戦を始めるが、乱戦に巻き込まれなかったジークの一部がA20に襲いかかってくる。


 ジュニア機にも2機のジークが迫ってくる。機体の後部に戦隊長であることを示すマークが書かれているこの機体はやはり狙われやすいらしい。


 ジュニアは操縦桿を操り機体を左に傾ける。


 一拍置いて、真っ赤な火箭がジュニア機の風防をかすめ、後方に流れる。


 ジークが射弾を追いかけるようにして、後方へ抜ける。


 2機を躱してほっとする間もなく、次のジークが襲いかかってきた。


 ジークが射弾を放つのよりも早く、ジュニアは今度は操縦桿を体に引きつけるようにして引っ張った。


 A20が上昇を開始し、20ミリ弾が下の空域を流れていく。


 ジュニア機は現在の高度3500メートルから3800メートル、4100メートルと徐々に上昇していく。高高度だとA20の機動は極端に鈍くなってしまうが、ジークの大群からの執拗な銃撃を回避し、飛行場に爆弾を見舞うためにはこの方法しかなかった。


 ジュニアが後方を見ると他にも機体を上昇させつつあるA20が20数機確認できた。ジュニアが指示を出したわけではなかったが、ジュニアと同じ事を考えた機長がいたのだろう。


 ジークもA20を一分一秒でも早く再捕捉するために、次々に上昇してくる。


 高度5000メートル以上での両軍苦しい戦いが始まろうとしていたのだった・・・。



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