第14話 戦局流転
1
米輸送船団の完全な撃滅に艦攻隊が失敗してから、戦局は凄まじい動きを見せた。
まず、ラバウルの第24航空戦隊。
第1次攻撃隊が発進したのが幸い午前中の事だったため、司令の郡山拓斗少将は第2次攻撃隊の発進準備を即座に命じ、敵輸送船団との接触を保つために追加の「神山」が出撃していった。
そして、敵輸送船団に航空攻撃を仕掛けるためにはるばるトラック環礁から出撃していた「大鷹」(護衛は駆逐艦4隻)にも第4艦隊司令部からの命令電が飛び込んでいた。
「攻撃隊の出撃は中止だと? 何かあったな・・・」
「大鷹」艦長の高次貫一大佐は通信兵が持ってきた報告にうなり声を挙げた。
「何があったんでしょうか?」
副長の岸田中佐が心配そうに高次に聞いてきた。
「取りあえず、攻撃隊の指揮官機に引き返しの命令を飛ばせ。艦攻は着艦時に魚雷を海面下に投棄することを絶対に忘れるな」
岸田からの質問を取りあえず無視して高次は飛行隊長と通信長に下令した。
(敵の護衛の数が多かったんだろうな・・・)
高次は頭をかきむしりながら思った。この分ではラバウルから発進したという攻撃隊の戦果を十分に挙げることが出来なかったのだろう。
(だが、これからどうする? ひとまず第4艦隊司令部から受け取った敵輸送船団撃滅の命令は解除されたと解釈して問題ないはずだが・・・)
「整備長! 本艦に搭載されている魚雷の残存本数はあと何本だ?」
「あと22本です。もしかして何か狙っているのですか?」
整備長が普段は前線に出ることに消極的な高次からの思わぬ質問に対して少し驚きながら答えた。整備長は高次が今にでも(艦載機を収容次第)トラック環礁に撤退命令を出すと考えていたのだろう。
(あったりめーよ。わざわざこんな所まで出撃したのに手ぶらで帰れるかよ。そんなことやってたら艦の士気がだだ下がりになるだろうが)
高次は毒づき、頭を回転させる。
(ラバウルから発進した攻撃隊には多数の零戦が随伴していたはずだ。でも攻撃隊ははじかれた。という事は・・・)
(元々迎撃機の機数が異常に多かったか、攻撃の途中で迎撃機の機数が突発的に増えたかだな。そして、多少の97艦攻が攻撃を成功している事を勘案すると恐らく後者・・・)
「いるなぁ。俺達の見えていない所に空母が」
「はっ?」
いきなり呟いた高次に対して岸田は頭が付いていけず、思わず声が出た。
「索敵用に残しておいた97艦攻を発進させろ。珊瑚海の北側の海域を索敵させる。恐らく空母がいるはずだ」
「空母がいるのですか? この珊瑚海に?」
「ああ、攻撃隊の状況を勘案するに米軍には、輸送船団と行動を別にしている空母が必ずいるはずだ。そいつをかならず発見して仕留める」
「はぁ」
正直岸田は高次の思考に全く付いていく事が出来ていなかったが、こういう時の高次の見立てが非常に鋭いものだということを知っていたので、直ぐに頭を切り替えた。
「それでは本艦は未知の敵空母がいるという予想の元で攻撃隊の再編制を飛行長と共に行います。失礼します」
そう言った岸田は艦橋から飛び出して飛行長の元へと向かっていった。
このようにしてラバウル航空隊の敵輸送船団撃滅失敗の知らせは徐々に各部隊の今後の動きに影響を与えていたのだった・・・
2
「方位20度。20海里の海面に機影多数」
米空母「ヨークタウン」の戦闘艦橋に、レーダーマンからの報告が上げられた。
「輸送船団の護衛に向かった機体が帰還してきたな」
「ヨークタウン」艦長グレイグ・ホークスビル大佐は呟き、矢継ぎ早に命令を下していった。
「艦長より全艦へ。もう少しでF4Fが帰還してくる。整備兵は上甲板へ集結せよ」
「負傷者が出ている事態に備えるために医療チームも準備を開始せよ」
「ヨークタウン」の艦首が右に振られ、「ヨークタウン」の巨体が風上へと突進を開始する。空母からの落艦事故に備えて駆逐艦も空母の周囲に展開する。
暫くすると帰還機がちらほらと現れ始める。
出撃時には、「ヨークタウン」の上空で整然たる編隊を組んでいた戦闘機隊だったが、帰還時はバラバラである。
3、4機の小隊単位で帰還してくるのは良い方で、ほとんどに機体は単機で帰還してくる。
負傷をしているのか緊急信号を出しながら着艦してくるF4Fもあり、その機体に乗っていた搭乗員はF4Fが着艦するのと同時に気を失ってしまう。
そうかと思えば、着艦寸前で限界が来てしまったのか、海面にドボンしてしまうF4Fもある。
帰還機を「ヨークタウン」の整備長が真剣な眼差しで見つめている。
帰還機の内、程度の良い物は格納甲板に下ろされるが、修理不能と見られた機体は容赦なく海面に捨てられる。
帰還機には機体の胴体部が派手に切り裂かれてしまっていたり、補助翼が吹き飛んでしまっている機体などがあり、日本軍との航空戦がどのような物だったかを雄弁に物語っていた。
こうして帰還機の収容が終わろうとしていたが、その収容作業が遙か高空にいた「連山」につぶさに観察されていたことに気付いた者は、遂に誰一人としていなかったのだった・・・
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