第7話 神(見習い)の本気の執筆

 頭は痛くない。

 上司に殴られてないからね。


 でも、別の意味で頭が痛い。

 全然問題が解決しないからね。


 やっぱり頭が痛い。

 二日酔いのせいよ。

 飲みすぎたみたいね。


 さて、水を飲んだら、今回の作戦を考えましょう。

 前回の作品で、苦労話は序盤しか読まれないことが分かった。

 でも、なんとか最後まで読ませたいわけよ。


 この状況を打開するために、神の力を使おうと思うの。

 序盤を楽しく読めたら、その後も楽しく読めるようになる催眠術を使おうと思う。


 ちょっと反則っぽいけど、人間のためだから仕方ないよね!


 それでは、執筆開始よ。


 主人公のミリエルは絶世の美女で、大金持ちで何不自由なく暮らしている。

 しかも突然、大金持ちのイケメンに一目惚れされて結婚する。


 だがある日、なんやかんやで、すべてを失い地獄に叩き落される。

 苦労を重ねて、この世の地獄を見る。

 それでも、めげずに地獄の特訓をこなしていく。

 そして、上司にぶん殴られた果てに、愛する人と結ばれ、幸せになる。


 よし!この話なら序盤だけは、あいつらの需要にも応じることができて、私の目的も果たせるでしょう。


 さっそく投稿して、結果を待つことにしましょう。



 次の日。

 人気ランキング一位になってる!

 まあ、神(見習い)である私が、本気で執筆したのだから当然の結果ね。


 感想も見てみましょう。


 面白かったです。

 感動しました。

 涙が止まりません。

 私もミリエルみたいになりたいです。

 ミリエルのやってた特訓をやってみようと思います。


 うんうん、素晴らしい!

 私の言いたいことが伝わったようね。

 やはり努力の果てに栄光があるのよ。

 これでこの星の人間たちは、まともな人間になるわね。


 これで少子化問題は解決ね。

 なんて、すがすがしい気分なの。

 世界が輝いて見えるわ。


 こういう時は、飲みに行きましょう!!


「マイケルー!宴会するわよ!!」


「分かったッス。用意してきます!」


 さあ、飲むわよ!!



 次の日。

 人間は全滅した。


 人間たちはミャリュエルの小説に感動した。

 そして、その小説の主人公ミリエルのようになりたいと思った。


 だからミリエルの真似をした。

 小説に書かれた地獄の特訓を、己に課したのだ。

 その結果、人間たちは耐えきれずに、次々と死んでいったのだ。



「どうしてこんなことになるのよーー!!」


 目を疑うような光景を見た私は、思わず叫んでしまった。


 ミリエルにちょっと大げさな特訓をさせただけじゃない。

 全力疾走でのコーンカツ星一周マラソンをしたとか、崖から飛び降りるとか、そんな冗談みたいなことをさせただけじゃない。

 フィクションを真に受けないでよ。


 あれ?もしかして、これは神の力のせい?

 催眠術のせいなの?

 そうだとしたら、責任があるのは……


 あっ、久しぶりに殺気を感じた。


 どうやら私の予想は大当たりのようね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る