第6話 ヨム、ツッコム、カク

 頭が痛い。

 痛すぎる。

 たんこぶができすぎて、頭が長くなりそうよ。


 上司に殴られる、研修期間延長、人間を元に戻してもらうの、全然うれしくない三点セットをまたもらってしまった。

 人間を戻してもらっているのは、助かってるけど、うれしくはない複雑な気分なのよ。


 さあ、今日もお仕事がんばりましょう。


 ちなみに、記載漏れをした天使も、上司にぶん殴られたらしい。


 さて、反省会でもしましょうか。

 といっても、今回は記載漏れのせいだから、反省することもあまりないわ。

 結局、吊り橋効果があったのか、よく分からなかったし。


 まだ、吊り橋効果の検証をすべきなのか?

 失敗が続いているし、また今度で良いか。

 良い方法を思い付いたら、またやってみるということにしましょう。


 では、違う方法を試してみましょうか。

 何か良い方法はないものかな。


 そもそもなぜ人間は、あそこまで結婚に高望みをするようになったのだろう?

 その原因を特定すれば、良いのかもしれない。

 探してみましょう。


 小説の無料投稿サイトを見つけた。

 人気があるみたいね。


 ちょっと見てみましょうか。

 まずは、この人気ランキング一位の作品からにしましょう。


 主人公の女の子は、今日から高校生になるのね。


 え?入学式で、いきなり大金持ちのイケメンから告白される!?

 その日のうちに結婚して、高校を退学して専業主婦になる!?

 専業主婦だけど、家事は家政婦にすべて任せて、ゼイタクしまくり生活!?


 その一方で夫になったイケメンは、周囲で起こる数々の難事件を見事に解決して有名になる。

 主人公はそれを自分の手柄のように自慢して、友達が羨ましがる!?


 だいたいこんな感じの話よ。


 なんなのこれは、ツッコミどころ満載すぎるでしょ!


 フィクションだし、いきなり大金持ちのイケメンに告白されるのは良いとしましょう。


 でも、こんなに早く結婚するのは、やりすぎでしょ!

 出会ったその日に結婚するとか、何考えてんの!?

 早すぎでしょ!

 案の定、ろくでもないのと結婚しちゃってるし!


 せっかく入学したのに、なんですぐ退学してるのよ!?

 なんで専業主婦なのに、家事をしてないのよ!?


 イケメン夫の手柄なのに、なんで関係ない主人公が誇らしげなのよ!?

 イケメン夫の活躍の部分だけは、なかなか面白かったけど、主人公はクズね!


 主人公はイケメン夫にすべき作品でしょ!

 主人公の女の子は存在する必要ないでしょ!!


 この主人公は、人間の欲望の集合体のような存在なのね。

 早くも目的のものを見つけた気がするわ。


 いや、早とちりかもしれないし、いちおう他の作品も見てみましょう。

 次は二位のものにしましょう。


 男性の主人公が道を歩いていると、突然美女が間欠泉のように地面から吹き上がって来た!?

 その美女に一目惚れされて、結婚することになる!?

 しかもその美女が、なぜか大量の金塊を持っていて、大金持ちになる!?


 その後も美女に会って、一目惚れされて、結婚してハーレムの出来上がり!?

 めでたし、めでたし!?


 ……ナニコレ?


 意味が分からなさすぎる。

 いくらファンタジーだからって、無茶苦茶でしょう。

 今の人間はバカなの?

 もう、いちいちツッコむのに疲れたわ。


 いちおう他の作品も見てみたが、だいたい同じ展開だった。

 主人公が苦労せずに成り上がっていく物語が人気なのだ。


 なるほど、こういう作品が問題なのね。


 ここを変えることにしましょう。

 もちろん、神(見習い)である私の作品でね。


 苦労を重ねて、地獄を見て、上司にぶん殴られた果てに、愛する人と結ばれる。

 そんな作品を投稿して、人気ランキング一位を取りましょう!


 さあ、執筆開始よ。


 ……完成よ!

 さっそく投稿しましょう。

 後は待つだけね。



 次の日。

 さあ、人気ランキングを見てみましょう。

 えーと、ランキング圏外!?

 なんで?

 神(見習い)の作品なのよ!?

 ま、まあ、まだ投稿したばかりだし、もう少し様子を見ましょうか。



 三日後。

 まったく順位が上がらない……


 どういうことなの!?


 神(見習い)の頭脳で書き上げた作品なのよ!?

 神(見習い)作の神作よ!

 なんでこんな順位なのよ!


 ちょっと原因を調べてみましょう。


 ……どうやら、序盤だけしか読まれていないようね。

 本当にどういうことなの?


 ん?感想を書く場所があるようね。

 見てみましょうか。


 つまらない。

 読むのがつらい。

 苦労話いらない。


 は?こいつらは努力する話や、苦労話を読む気はないってことなの?

 これでは、私の言いたいことが伝わらないでしょ!


 なら読んでもらえる作品にすれば良いのか、というとそうでもない。

 読まれる作品とは、アレの同類。

 それでは、こいつらの意識はいつまでたっても変わらない。


 まさに板挟み状態!

 どうしようもなさすぎる!

 腹立たしいけど、この作戦は失敗みたいね。


 ちくしょう!人間どもめ!

 覚えてなさい!!


「マイケルー!どこかに飲みに行くわよ!!」


「了解ッス。店を探してきます」


 今日は自棄酒よ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る