290話 から揚げは質より量
黙々と男三人で生肉モミモミをした結果、たっぷり下味が染み込んだクロールバードを十分に確保することができた。
ヤクモだけは未だにおっかなびっくりに肉をフミフミしているのだけれど、そっちはとりあえず放っておくことにして、いよいよ肉を揚げていくことにしよう。
俺はグツグツと熱せられた油の中に、クロールバードの肉を投入する。途端にジュワワアアアアと心地よい音が響き渡り、親父さんが鍋に近づいてきた。
「なあイズミよ。せっかく手間をかけた肉を油で揚げるのはもったいなくないか?」
眉をひそめる親父さん。そういやコーネリアなんかも言っていたけれど、この辺だと傷みかけの肉なんかを無理やり食べるために揚げたりするんだよな。
「まあ食ってのお楽しみってね。それよりもうちょい離れてなよ」
興味深げに油を覗き込んでいる親父さんが危なっかしい。目がァー! と叫びだす前に離れてもらおう。
すごすごと鍋から離れる親父さんを横目に、俺は肉が揚がっていくのをじっくりと待ち――
しばらくすると肉から出てくる気泡が徐々に小さく細かくなってきた。
そろそろ鍋から取り出す頃合いだと、俺の中の【料理+1】が
ちなみに時間がかかるし面倒なので、二度揚げはやらない方針だ。から揚げは数だよ兄貴と、俺の中のドズ○・ザビも囁いているからな。
俺は出来上がったから揚げを、次から次へとキッチンペーパーを乗せた皿の上に並べていく。
香ばしい匂いが辺りに漂い、から揚げに疑問を呈していた親父さんも、今はもう鼻をヒクヒクさせながら俺からの合図を待ちわびていた。
「よし、もう食べてもいいぞ」
俺がそう言ったのと同時に、親父さんとキースが動き出した。
つまむのももどかしいのか、箸でから揚げをぶっ刺し、口の中に放り込む親父さん。そして慎重に匂いをかぎながら食べるキース。
「うめええええええぇぇーー!!」
「うむ、美味い」
満足げな声を上げ、二人が次から次へとから揚げを食べていく。
そしてそんな二人をうらやましそうに眺めているのは、未だにビニール袋に入った肉をフミフミしているヤクモである。
『くうううっ、ワシもカララゲ食いたいのじゃ! じゃが、この仕事を放り出すことはできんっ!』
などと使命感に燃えた目で叫ぶヤクモ。ただ単に肉を踏んでいるだけなんですけどね。
別に代わってやってもいいんだが、仕事を取り上げたらそれはそれで文句を言いそうなので、コイツの好きにやらせておくことにしよう。それよりも――
「さて、親父さん。……コッチもいるだろう?」
そうしてコップを傾ける仕草をする俺に、親父さんが目を輝かせる。
「おおっ、待ってました! イズミが去ってからというもの、いつものワインもなんだか物足りなくなっちまってなあ。久々にアレが飲めるのか!」
そういえば以前は飲み物を冷やす手段がなかったので、常温でも美味しいワインばかり飲んでいたな。しかし今はアクアとアイスアローのお陰で冷たい酒も飲み放題なのだ。
「いや、今回はワインじゃなくてビール……まあエールみたいなヤツだ。こっちにしようぜ」
俺はビールジョッキを二人に手渡し、ストレージから直接ジョッキにビールを流し込む。俺のストレージにはいつだってキンキンに冷えたビールが溜め込まれているのだ。
なみなみと注がれたビールを見つめ、ゴクリとツバを飲み込む親父さん。親父さんはジョッキに口をつけると、そのまま勢いよくジョッキを傾けた。
ぐびっぐびっと喉を鳴らした親父さんはあっという間にジョッキの中身を空にすると、ギュッときつく目をつぶった。
「くううううううううぅぅっ! なんだこの喉越し!? 最高じゃねーーか!!」
上機嫌に顔をほころばせる親父さん。どうやらワインだけじゃなく、ビールも気に入ってもらえたようだ。
いつの間にかキースもジョッキを傾けて「うむ、悪くない」などつぶやいているが、その口元は珍しく緩んでいる。
「さて、そろそろ俺も――」
と、俺がから揚げをつまもうとしたところで、
『イズミー! モミモミが終わったぞい! 見てみよ、これがワシの仕事の成果じゃ!』
ヤクモの念話が届いた。
見るとヤクモが誇らしげに胸を張りながらビニール袋を俺に差し出している。狐にあるまじき姿なのだが、から揚げに夢中の男二人は気づいてもいない。
『おう、そうか。ごくろーさん。それじゃ皿にから揚げを入れてやるからな』
『待てい!』
ヤクモの声に、俺はから揚げに向けた箸をピタリと止める。
『ん? どうした』
『どうせなら、ワシがモミモミしたカララゲを最初に食べてみたいのじゃ!』
揚げてしまえば一緒だろうけど、その気持ちはまあわからんでもない。そういうことならと、さっそくヤクモが踏んでいたビニール袋から肉を取り出してみる。
ヤクモが念入りにフミフミした結果、ちょっと肉の形も崩れているが……まあ大丈夫だろう。俺はその肉を油に投入していった。
まだかまだかとヤクモがうるさく見守る中、から揚げが揚げ上がった。そいつを皿に乗せてやると、さっそくヤクモがバクンと頬張る。
『ウマーイ! ウマイウマイウマーイ! 最高の出来じゃ! さすがワシ、いい仕事をしておるのう!』
ハグハグと食べながら機嫌よく尻尾をブンブン振っているヤクモ。
正直なところ揉みすぎのせいでうまく揚げられたとは言い難いのだが、まあ労働の後のメシは美味いものだしな。自分が手伝ったものなら尚更だろう。
「うおーい、イズミ。ビールのおかわりをくれーい!」
声に顔を向けると、赤ら顔の親父さんがジョッキを頭上に掲げていた。隣では無言でから揚げを食べているキース。
どちらもいいカンジに酔っ払ってるようで、ついさっきまでクリシアやラウラのことで落ち込んでいたようには思えない。やっぱり宴会をやって正解だったな。
「はいよー」
俺は満足感に浸りながら返事をすると、から揚げをひとつ口の中に放り投げ、親父さんの元へと向かったのだった。
――後書き――
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