286話 レクタ村へ
ライデルの町の門を出てしばらくは歩いて進み、しばらくして人目がなくなってからママチャリに乗った。
俺が今回スキルをレベルアップさせたのは【騎乗】だ。【騎乗】は乗り物全般に効果があるらしく、ママチャリにも影響を及ぼすのはすでに実証済み。
レベルアップさせると移動もさらにラクになると思ったわけだが――
「おおおっ! なんだこりゃ!? すっご!!」
まさに快速。周辺の背景がまるで電車に乗っているような感覚で流れていく。ペダルを漕ぐ足も軽く、自分で漕いでいるとは思えないほどのスピードだよ。
まるで風と一体になっているような最高にいい気分。よおし、こうなったら行くっきゃないぜ、"スピードの向こう側"へ――――
「ぎょわあああああああああああああああああああ!!」
「"!?"」
「イズミ、イズミッ! おまっ! ワシが乗っとること忘れてとるんじゃないじゃろうな!」
前カゴのヤクモの悲鳴にハッと我に返る。そういえばコイツが乗ってるんだった。
あやうくヤクモが"
「すまん、すっかり忘れてた。……これくらいなら大丈夫か?」
「ひいひい……。マジで忘れとったんかい。ワシ、死ぬかと思ったぞ……。うむ、それくらいなら平気じゃ」
そう言ってヤクモが前カゴの中でぐったりと腰を下ろすと、前に広がる平原を見て耳をピクピクと動かした。
「むむ、イズミよ、サウロシアスの方角とぜんぜん違うではないか。あれは南にあるんじゃぞ」
「ああ、それはいいんだよ。先にレクタ村に寄っていくんだ」
「ほう。レクタ村か、懐かしいのう。じゃがなぜじゃ?」
「いらない魔道鞄をキースのヤツに押し付けようと思ってな」
「ふむ。あやつにはずいぶん世話になったしのう。よいのではないか」
「だろ?」
今でも役に立っている狩りの知識や知恵といったスキルでは補えない部分は、ほとんどキースとラウラに教えてもらったものだ。
どうせ使わない魔道鞄ならあの兄妹に役立ててもらいたいし、それに久々にクリシアや親父さんにも会いたいからな。
俺は久々の再会に胸を膨らませつつ、ペダルを漕ぐ足に力を込めた。
◇◇◇
そうして以前は馬車で七日ほどかかった道をママチャリで三日で走破し、いよいよレクタ村が見えてきた。
スピードはあまり出せなかったが、それでも【騎乗+1】のお陰で疲れはほとんどない。俺は軽やかにママチャリから降りると、ヤクモと共にレクタ村の門へと向かった。
門の前には椅子に座って居眠りしている門番がいた。以前もよく見た光景だ。
気持ちよく眠っているのを起こすのは気が引けるけれど、黙って村に入るのはなお悪い気がする。俺はおそるおそる門番に声をかけた。
「こんちわー。……ええと、村に入りたいんですけどー?」
俺の声に門番はビクンと肩を震わせると、椅子を倒しながら勢いよく立ち上がった。
「ねっ、寝てませんとも! ……おや、あなたは……」
「イズミです。前に親父さ……ガルドス神父に世話になってた者なんですが」
「ええ、ええ。イズミさんですね。もちろん覚えてますよ。それで今日はどういった御用で?」
「いやあ、近くに来たもんで、せっかくだから世話になったみんなに挨拶でもしていこうかなと。入ってもいいですかね?」
「それはもちろんいいですが、今は……。いえ、どうぞお入りください」
門番は何かを言い淀んだが、まあ行けばわかる話だ。俺はそのまま門を通り、教会へと向かうことにした。
俺は村の中の小高い丘を登っていき、その頂上にある教会へと歩いていく。
以前は軽く息が切れそうな思いをしながら登っていった長い坂も、スキルでいろいろと強化された影響か、まったく疲れることない。しばらくして俺は教会にたどり着いた。
たかが半年ぶりだというのに、どこか懐かしい教会を眺め――俺は首をかしげた。
……なんていうか、以前より手入れが雑というか、全体的に教会が薄汚れているように感じる。これって気のせいなのかねえ……?
妙な違和感を覚えながら、俺は教会の扉を開く。そこには女神像を前に熱心に祈りを捧げる親父さんの背中があった。
「ちわー……」
「ん? ……おおっ!?」
声に反応して振り返った親父さんは、俺を見て目を丸くしながら駆け寄ってきた。
「イズミじゃねーか! どうしたんだおい! 町に仕事がなくて、俺のスネでもかじりにきたのか? ガッハッハ!」
以前と変わることなく、乱暴に俺の背中をバシバシと叩く親父さん。
「痛いって! 心配しなくても食っていけるくらいは稼げているよ!」
「ハハッ、そいつぁよかったじゃねーか! それじゃあ今日は一体どうしたんだ?」
「まあそろそろ別の町に行くのもいいかなって思ってさ、それで旅のついでに寄ったんだよ」
「なんだ飽きっぽいヤツだな。……しかしまあ、若いうちは多少無茶をしてでも旅をして、見聞を広めるのも悪かねえ。それが己の成長につながるってもんよ。……うん、そうなんだよな……グスッ」
なぜか涙ぐむ親父さん。
「えっ、なんで泣いてるのさ……」
「泣いてなんかないっ!」
どう見ても泣いているんだけど。まあ本人がそういうならこれ以上は触れまい。
「う、うん、わかった……。ところでクリシアは? 庭にはいなかったし、また近所に野菜を貰いにいってるのか?」
「クリシア……グスッ」
親父さんは再び涙ぐみながら、言葉を続ける。
「……クリシアなら村にいないぞ。村から出ていっちまったからな……」
「えっ、どういうことだよ?」
「ああ。これには深いワケがあってだな――」
そうして親父さんは近くの椅子にどっかり座ると、肩を落としながらそのワケを語り始めたのだった。
――後書き――
年内最後の更新となります。来年も「フリマスキル」をよろしくお願いします!
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