283話 貢物

 ガディムたちギルド職員に解体された肉をたんまりと持ち帰り、俺とヤクモは祝福亭へと戻った。


「あっ、おかえりイズミーン」


 祝福亭の扉を開けると、食堂でウェイトレスをしていたマリナがニッコニコでお出迎え。


 無断外泊の件でマリナのパパママに説教されていたらフォローしてやらないとなと思っていたのだけど、どうやら本当によくあることのようで何事もなかったかのようにケロっとしている。


 ちなみにさすがに心配されると思ったので、森に狩りに行ったこと、賞金首と出会ったことは黙っておくことに決めていた。


 俺はマリナと何事もなかったかのように軽く挨拶を交わした後、パパママに約束していた獣肉を手渡す。するとパパママは大喜び。相場より高い値段で買い取られることになった。


 タダでもよかったんだけど、それはそれで気をつかわせてしまいそうなのでありがたくいただくことに。


 俺が狩ってきた獣肉は、狩人ドレクスが復帰するまでには十分すぎる量になるそうだ。当初の目的が果たせたようでなによりだよ。


 それから俺は自分の部屋に戻ると、ベッドに寝転がりながらツクモガミで適当に出品物を眺めたり、マンガを読んだりしながらダラダラと過ごした。これぞ至福の時間である。



 ◇◇◇



「……んあ?」


 いつの間にか寝てしまっていたらしい。窓から差し込む夕陽の眩しさで俺は目覚めた。


「のうイズミー。そろそろ夕食でも食わんか? ワシ腹が減ったんじゃが」


 俺がベッドから体を起こすと、ずっと起きていたらしいヤクモが狐の真っ白い腹をさすりながらへんにょりと眉を下げた。


 そういえば俺もヤクモも、遅い夜食を食べた後は朝も昼もなにも食っていなかった。食べていないことを思い出すと、今さらながら俺も腹が減ってきたな……。


「うし、それじゃこれから夕食にするか」


「うむっ! そんで夕食は何を食べるんじゃ? ワシ、カップラーメンがいい!」


 夜食でたらふくカップラーメンを食べたというのに、ヤクモはさらにカップラーメンを被せたいらしい。


 だが俺の今夜の献立はすでに決まっている。リールエから貰ったナマズっぽい川魚「グレイシルロス」。アレを塩焼きにして食べるのだ。


 川魚といえば塩焼きにして食べるもの――だと思う。俺はさっそくマリナのパパママの許可を得て宿の裏庭を借りると、グレイシルロスの調理を始めるのだった。



 ◇◇◇



 まずは作業台に並べたグレイシルロスの内臓を取り、アクアで出した水で洗う。


 ナマズといえば泥臭いイメージがあるが、マリナから聞いた話によると泥抜きの必要はないらしい。土地によるのか、ヒゲがあるだけで別の魚なのかはわからないけど、すぐに食べられるのはありがたい。


【料理+1】と【解体】の相乗効果なのか、自分でも驚くほどのスピードでサクサクと下処理が終わった。


 お次は串打ちだ。グレイシルロスの口に金串を差し込み、胴体から出して、今度は反対側に差し込み――とS字を作りつつ、最後は尻尾から金串を出す。


 すると嫌なら見なければいいのに、ぶるぶると震えながら作業を見守っていたヤクモが声を上げる。


『ひいっ、なんともグロいのじゃ……。せめて普通にまっすぐ刺してやってはいかんのか?』


 そんなことを言われて今更ながら考えてみたのだが、串を縦に立てて焼く場合は抜けにくいようにS字は必要だと思うけど、バーベキューコンロの網の上で横に並べて焼くのならS字は不要な気がしないでもない。


 ……けどまあいいか、こっちのほうが美味そうに見えるし。料理に見栄えは大事である。俺の【料理+1】がそうささやいている。


 俺はヤクモをスルーして、せっせとグレイシルロスに串を打ち込んでいった。



 そして最後は炭火を起こしたバーベキューコンロでじっくりと焼く。


 ぶちぶちと文句を言っていたヤクモだったが、炭火と魚が織りなす香ばしい匂いが漂い始めると、鼻を広げて魚が焼ける匂いをクンカクンカと嗅いでいた。


 そうして魚の焼き具合を見守っていると、裏庭に来客が現れた。


 ピンク髪の胸パッドギャル、リールエである。リールエとマリナとは友達だというのに、なにげに祝福亭で会うのはこれが初めてだ。


「あっ、イズミンだ。そんなところでなにしてんのー?」


「夕食の準備だよ。そう言うリールエはなにしに来たんだ?」


「ウチはマリナんちにお肉のお裾分け。そんでこっちからなんかいい匂いがしたから覗きにきたってワケ。なになに、なに焼いてんの? 見してよー」


「お前に貰った川魚だよ。ところで外泊は本当に大丈夫だったのか?」


 俺の問いかけにリールエはなんてこともないようにヒラヒラと手を振る。


「ぜんぜん平気ー。てかウチはバラした肉を倉庫に隠してたんだけどさ、秒でパパにバレちゃったんだよねー。でもなんか逆に『くうっ……! お前も一人前になったんだな』とか涙ぐんじゃってさ、逆にホメられちゃったぜ、ウヘヘ」


 こちらもこちらで放任のようだ。まあ一泊したのは俺の都合によるところが大きいので、マリナにしろリールエにしろ怒られないならそれに越したことはない。


「それならよかったな。そういえばさ、賞金首の報酬金とかあるんだけど三人で――」


 と言いかけた俺をリールエが手を突き出して押し止める。


「ちょい待ち。……まさか分配するっていうんじゃないだろうねー? さすがにそれは貰えんって。イズミン一人でやったことじゃん」


「そういうものなのか? リールエがいいって言うのならそれでもいいけど。……それじゃあ報酬金じゃなくて、コレならどうだ?」


 俺は悪党どもから巻き上げた魔道鞄を取り出した。途端にリールエはのけぞるように顔をそらすと、苦しげに声を上げた。


「うぐっ……! それはちょっと、いやだいぶ欲しい……! でもダメダメ、ダメ絶対! さすがにそれは貰えんし! てかイズミン、魔道鞄がいくらするかわかって言ってんの?」


「そういや値段までは知らないな。いくらくらいするんだ?」


「マ!? ガチで知らないん!? イズミン田舎モンすぎるっしょ……。魔道鞄て安いんでも100万Rはするんだって。そんなモン、ウチに貢ぐのはさすがに重すぎなことくらいはわかるっしょ?」


「えっ? 魔道鞄ってそんなに高いのか!? そういうことなら、たしかにリールエに貢ぐのはおかしいよな……」


「そうハッキリ言われると、それはそれでムカつく……。でもまあそういうわけだから。ほら、ウチの気が変わらないうちにさっさと魔道鞄を片付けろってマジ」


 しっしと手を払うリールエ。俺は彼女の言うとおりに魔道鞄をストレージに戻した。


 というか受付嬢エマの口ぶりで安物だと思っていたのだけれど、それでも最低100万Rもする物なのか……。


 などと俺が魔道鞄の価値に驚いていると、リールエが網の上で焼かれている魚を見ながら、俺の脇腹をツンツンとつついた。


「ねーイズミン。さすがに報酬金は受け取れないけどさー、代わりにこの魚をごちそうしてよ。それなら気分よーく受けとったげる。どーよ?」


「それでいいのなら喜んでごちそうさせてもらうよ。……あー、せっかくだからマリナも呼んできてくれるか? 三人で食べようぜ」


「おっ、ソレいいね~! さっそく呼んでくるっ! おおーい、マリナーー!」


 リールエは声を張り上げながら、ピューッと裏庭から駆けていった。そうして姿が見えなくなった後、ヤクモから念話が届く。


『おいイズミよ、仕事に対する過度な報酬はかえって本人の今後のモチベーションを低下させることになりかねん! 仕事の評価と対価は等しくなくてはならんのじゃ。よくよく考えて支払うことじゃな』


『わかってるよ。まさか魔道鞄がそこまで高価だとは思わなかったんだって』


 しかしまあ、持っていても使わないから、必要としている人に使ってほしいんだよな。高価なものならなおさらだ。……あっ――


 ――そういえば一人だけ候補がいるな。あいつならきっと大切に使ってくれることだろう。そのうちあいつに押し付けに行くのもいいかもしれない。


 などと考えていたところで、リールエがマリナを引き連れて戻ってきた。



――後書き――


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