282話 報酬金

 賞金首三人で報酬金が28万Rかあ……。


 ルーニーに稼がせてもらったので、現金は2200万Rほど持っている。なので特に金には困っていないけれど、ちょっとした臨時収入にウキウキしていたのも本音だったりする。


 俺があまりにガッカリとした顔をしていたのか、エマが慰めるように話しかけてきた。


「まあまあイズミさん。出資者がついてなければ、報酬金なんてこんなもんですって」


「出資者?」


「ええ、冒険者ギルドを通して報酬金を上乗せする人です。治安維持のため、面子を保つため、または報復のため――いろんな方がいろんな理由で出資者になりますが、それがない場合は最低限の金額になります。犯罪者が出るたびに報酬金を出す予算なんてありませんからねー」


 たしかに、犯罪者だからって高額の報酬金をポンポンと支払っているようでは組織が成り立たないってのもわからんでもない。


「でもさ、賞金額が安いと賞金首が野放しにならないかな?」


「んー、そうでもないっすよ。捕縛や討伐に繋がった有益な情報を提供すれば報奨金の一割を貰えるんで、賞金首はおおっぴらに行動しにくくなりますし、信頼のおける仲間以外は寄せ付けなくなります。……世の中、パン一つの銅貨で仲間を裏切る人間なんていくらでもいますからね」


 まだ若いのに仕事柄そういう案件も見てきたんだろうか、達観したようにエマが淡々と語る。


「へえ、そういうものか……」


「そーいうものです。ってことでお納めください。あ、それから――」


 エマがカウンターの上に茶色のリュックを置いた。悪党たちが使っていた魔道鞄だ。


 犯罪者の所有物だしヤバいものが入っていたら困るということで、中身も見ずに衛兵に渡しておいた物である。


「賞金首の持ち物は賞金首を捕らえた者の物になるので、こちらの魔道鞄もイズミさんの物になります。いちおう中に入っていたギルドタグだけは回収しましたけど、他は特に問題ありませんでした。残りはそのままっすから、確認してください」


 そう言ってエマがリュックの口を広げて俺に向けた。中に手を突っ込めということだろうが……なにげに初めての体験だな。


 リュックの口からは、なにやら灰色の空間が広がっているのが見える。……なんだかめちゃ怖いんですけど。よく世間の人はこんなモノに平気で手を突っ込めるな……。


「どうしたんすか? さあどうぞ」


 ぐいっとリュックの口をさらに俺に近づけるエマ。ええい、ままよっ!


「そりゃあっ!」


 俺は掛け声とともに魔道鞄の中にずっぽりと腕を入れた。エマの『なにビビってんだコイツ』という冷ややかな視線に耐えながら、俺は魔道鞄の中身を探る。


 ……あー、なるほど、なるほど。うんうん、はいはいはい。そういうことね。


 なんだか知らないけど、何が入っているのかが感覚的にわかる。理屈はよくわからんがすごい魔道具だ。そりゃあ高値で売買されるよな。


 中に入っているのは数枚の衣服と非常食っぽい黒パン。それと金貨三枚と後は小銭だけだ。容量は小さな物置程度しかない。狩りの獲物を収納するのにも使っていたし、ここには最低限の物しか入れてなかったのだろう。


 とりあえず試しに黒パンを取り出してみるか。


 俺は黒パンをイメージしながらグッと手を握って、そして魔道鞄から引き出す。すると――


 俺の手には薄汚れた男物のパンツが握られていた。


「うげっ……。なんでそんなの出すんすか……」


 俺から距離を取りながら抗議の声を上げるエマ。


「いや、パンを取り出したつもりなんだけど……」


 黒パンを出したつもりが汚パンツとかなんの冗談だよ。


「ってことは、やっぱ安物の魔道鞄みたいすねー」


 納得したように頷くエマ。そういえばルーニーも安物の魔道鞄を使っていて、なかなか欲しいものが取り出せないことがあった。それが安物の特徴なのだろう。


 ちなみにルーニーに、金持ちのくせにどうして安物を使ってるのか聞いたことがあるのだが、本人曰くデザインが気に入ってるのだそうだ。



 俺は特に使い道のない魔道鞄を受け取り、それから諸々の手続きを滞りなく終了させた。


 そうして用事も終わり、席を立とうとしたところでエマに引き止められる。


「あっ、もうちょい待ってください。いちおう冒険者ギルドの管轄ですから、賞金首の捕縛でもギルドに貢献したとみなされました。今回の活動でちょうど冒険者ランクE級に昇格ができますよ。しますよね?」


「えっ? うーん……」


 前はせめてE級くらいには上がっておこうと思っていたが、しばらくギルドから離れているうちにそういう熱意も薄れてきた気がする。それに仮に名前が売れて指名依頼が入ったりすると、わざわざ断るのも面倒くさいよなあ。


 少し考えさせてくれと口を開きかけたところで――


「ウニャンニャンニャン! ウニャニャンニャー!」


『うおいイズミ! どーせお前のことじゃから面倒くさいと思ったんじゃろうが、資格とは知識やスキルの証明になるものじゃ! 今は不要であったとしても、いつか役に立つかもしれん。資格とはそういうものなのであーる! 無理して取れとまでは言わんがな、貰えるものなら貰っとけい!』


 俺の脚に前足をかけながら、ご高説をのたまうヤクモ。……そこまで言うのなら、貰えるものは貰っておくか。貰わないとヤクモがうるさそうだし。


「それじゃ昇級をお願いしようかな」


「了解っす。これでイズミさんはF級からE級になりました。これでこの町じゃあ一端いっぱしの冒険者っす」


 エマはどこからか取り出したギルドタグを、なぜか俺の手を両手でぎゅっと握って手渡してきた。コンビニでバイトの女の子にお釣りを貰うときにやられたら絶対勘違いするヤツだ。


 まあ俺くらいになると、もちろんそんな勘違いなどしない。なくしたらいけない物なので、念入りに渡したかっただけだろう。


 手を開いてギルドタグを見る。その小さな鉄板には俺の名前とEランクの文字が刻まれていた。どうやら事前に準備してくれていたらしい。


「昇級おめでとうございます。それでですね、あ、あの……」


 エマは急に落ち着かない様子で髪の毛をいじり始めると、下を向いたままぼそぼそとつぶやいた。


「お祝いにですね、よかったらこの後――」


「おーーいイズミー! 解体終わったぞー!!」


 魔物買取カウンターからガディムの野太い声が響き渡った。


「はーい! 今いきまーす! ……それでエマさん、なんだって?」


「~~っ!! なんでもないっす! それじゃあ事務処理がありますんで、これで失礼します!」


 くるりと背中を向けたエマは、そのまま振り返らずに奥の部屋へと歩いていった。うーん、なんだか気になるけれど、忙しそうだしわざわざ呼び止めるほどでもないか。


 俺は足早に去っていくエマから視線を外すと、大量の獣肉の前で自慢げに胸を張っているガディムの元へと小走りで急いだ。



――後書き――


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