267話 イズミの休暇

 小一時間が経過して、ルーニーとの商談が成立した。


 当初の予定どおりルーニーにはリザードキングの首と毒袋を買い取ってもらい、さらにはツクモガミで売りすぎて買取制限がかかっていた雑魚リザードマンもお買い上げ。


 その総額、なんと総額1750万Rである。


 これで俺の所持金が一気に2000万Rを超えた。俺の中では1R=1円くらいの計算なので、これは相当な大金だよ。


 そしてその大金をポンと支払うルーニーが恐ろしい。本当に儲かってるんだなあ、この眼鏡巨乳……。


「……ええっと、本当にこんなにもらっていいんですか?」


 アテにしていたとはいえ、これだけの大金に申し訳ない気分になった小市民な俺にルーニーは首を傾げる。


「何を言ってるんだい? 魔力で毒を変質させるという発想を考えたことはあったけれど、実例を見たことはなかった。その具体例が今ここに存在しているのだよ? こんな素晴らしいこと、他にはないだろう?」


 いやそれは知らんけど。……でもまあルーニーは素材が収納された魔道鞄を撫でながらニタニタと笑ってるし、本人が満足ならそれでいいか。


「また何かあったらよろしく頼むよ。もちろんギルド査定よりも高く支払うことを約束しよう。ギルド経由だと時間がかかるし、いろいろと面倒もあるからね!」


「そうっすね、また機会があれば――」


「絶対に絶対だよ! 約束したからね!」


 食い気味に念を押してくるルーニー。気安く了承しすぎたかと思わなくもないけれど、ギルド経由が面倒なのはこちらも同じなので、そういう申し出はありがたい。


 冒険者ギルドは基本的に個人情報を守る気はないので、いつどんな厄介事が降りかからないとも限らないからな。普通の冒険者にとっては、人に知られることがステータスや名誉だったりするみたいだけど。


 ――それにしても、これだけの大金があると何か大きな買い物をしたくもなってくるよなあ。


 今までこんな大金を持ったことがないので、どういった物が買えるのかもよくわからない。せっかくなので、目の前にいる金持ちのパイセンに聞いてみることにした。


「ルーニーさんって、研究以外にお金は何に使ってます?」


「むう? 研究目的以外にお金を使うことなんてないんだが」


 おうふ、聞く相手を間違えたぜ。……まあいいか、金は腐るもんじゃないし、とりあえず持っておけばいい。そのうち必要になることもあるだろう。


 こうして用事が終わった俺は、腰を抜かしたままのヤクモを首に巻きつけ、さっさと薬師局を立ち去った。長居してもロクなことにはならないからな。



 ◇◇◇



 それからの数日間、俺は明るいうちは宿でのんびりとマンガを読んだり、町をぶらぶら観光したりした。


 休暇初日にバジたち【鋼の意志】メンバーとばったり出会ったこともあり、夜になると連日バジたちに綺麗なお姉さんがいる酒場に連れて行ってもらった。彼らも休暇中だったらしい。


 夜の酒場は綺麗なお姉さんとお酒とおしゃべりだけを楽しむだけの、キャバクラ的なお店である。娼館はしばらく行きたくない。


 ここではお姉さんたちが「えー! バジさんが可愛がってる子? 冒険者なの!? わかーい、かわいいー! 筋肉見せてー? やだー! すごっいカチカチー!」


 と、チヤホヤしてくれて気安くボディタッチをしてくるので、次々とスキルのチェックができて一石二鳥だった。


 ちなみに俺はスキルの不思議パワーで身体が強化されてるだけなので、そんなにカチカチではない。お姉さんたちの接待テクニックはすごいよ。


 ただ、すでに習得している【歌唱】【踊り】といった芸事のスキルを持っている人が何人かいただけで、これといったスキルを持ってるお姉さんがいなかったのは残念。


【酒豪】スキルを持っているお姉さんならいたけれど、アルコールに強くなると、酒の量が増えてしまいそうなので取らなかった。少量で酔えるほうがお得だからな。


 ちなみに俺は金は持っていると言っているのに、バジは飲み代を全部おごってくれたよ。


「若手のうちは先輩におごってもらうもんだ。俺が若い頃もそうだったから……わかるっ!」とか言っていた。


 ありがたいことだよ。世話になってばかりだし、いつかお返しができたらいいんだけどな。


 そのように昼はダラダラ過ごし、夜は飲み歩きという悠々自適の日々を過ごしていたのだが、バジたちが泊まり込みで遠出をすることになったので、その日を境に夜に出歩くことはなくなった。


 俺が夜遅くに宿に帰ってくると、出迎えてくれるマリナの目が日に日に険しくなっていたので、いい頃合いだったのかもしれない。


 とはいえその後も、昼にダラダラと過ごすのは変わらなかった。ヤクモもツクモガミのバージョンアップに忙しいようで、小言は一切ない。作戦大成功である。



 ◇◇◇



 そんな悠々自適な休暇生活に変化が訪れたのは、とある日、マンガを区切りのよいところまで読み終り、そろそろ昼食を食べようと思った時だった。


 ルーニーはパスタをあちこちに卸しているようだが、その中でも祝福亭の評判は良いらしく、宿泊客以外の客で食堂を賑わせることが多くなっていた。


 せめて自分の食事はピーク時を少しずらすようにしている俺は、ベッドで作業中のヤクモを放置し、今日も昼を告げる鐘が鳴る前に自室から階段を降りていたのだが――


「だから他にも仕入れ先を増やしておけって言ったでしょ?」


「他にも頼んだら、ドレクスさんから仕入れる量が減る。そうなったら彼だって困るだろう」


「だからって――」


 いつもは仲睦まじいマリナのママさんとパパさんが、声を押さえながらも言い合っている。ついつい【聴覚強化】で聞いちゃったのは勘弁してほしい。


「なにかあったのか?」


 俺はカウンターに座り、水を持ってきたマリナに小声で尋ねた。


「んーなんかね、いつもお肉を仕入れている狩人さんが怪我しちゃって、それでお肉の在庫がヤバいみたい」


「へえ。でも町に肉屋さんとかないの?」


「そりゃーあるけどさ、急にウチらが大量に買っちゃうとするじゃん? したら普段買ってるお客さんに買えなくなる人もでるっしょ? ウチは客商売だし、そういうのはあんまりねー?」


 なるほど。たしかに買い占めなんかで評判が下がれば、店の経営にも色々と影響も出てくるかもしれないよな。


 マリナはちらっと両親に目をやって肩をすくめた。


「まっ、最近はパスタ目当てのお客さんが増えたし、お肉がなくてもなんとかなるっしょ。ってことでイズミン、お昼はトマトパスタでいーい?」


 パチンとウインクをするマリナ。肉を使わないメニューにご協力お願いしますということらしい。まあそれはそれで構わないんだが――


「よかったら俺、狩りにいこうか?」


 魔物ならともかく、ただの獣だ。最近はあまり体を動かしてもいないので、運動不足解消にはちょうどいいかもしれない。


 普通の狩りはレクタ村以来だ。あの村を離れてまだそんなに日数は経ってはいない。けれどどこか懐かしい気持ちになりながら、俺はマリナと狩りの話を進めた。



――後書き――


 すでにご存知の方もいるかもしれませんが、本作「異世界をフリマスキルで生き延びます。~いいね☆を集めてお手軽スキルゲット~」の書籍が来月、9月15日(木)に発売されます!


 詳細はこちらに書きましたので、ぜひ読んでいってくださいませ~!↓

https://kakuyomu.jp/users/fukami040/news/16817139558273136906


 ※公開版忘備録も投稿しました。

https://kakuyomu.jp/users/fukami040/news/16817139558273807238

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